第274話 対価

「有難う御座います、有難う御座います」

検証に協力してくれた弓兵のアルケロさんの手を取りお礼をしている俺、クルトンです。



いや、ホント助かりました。

これからも何かあったらよろしくお願いします、近々故郷に帰るんですけど多分王都にはそれなりに伺う事になると思うので。

なんたって俺、元老院メンバーなので。


「ええ、構いませんけど・・・コレなんです?指輪なのは分かるんですけど」

御礼にとこの前拵えた指輪をアルケロさんの手に握らせる。


いえいえどうぞ、お気になさらずに、さあさあさあ。



ソフィー様との打ち合わせの後(女性陣にナッツ棒を集られたあの時)、中途半端な時間が空いてしまったので手慰みに晩御飯までの間に拵えた物。

通常は出来るだけ作る工程を省かずに丁寧に仕上げていくが、コレはすべてスキルに任せて作った物だ。

工具も一切使わずにテーブルの上に出したステンレスの丸鋼を材料に、ものの3時間程度で完成させたが手は抜いていない。


むしろスキルのみでこれだけの品質の物を拵える事が出来るようなら、これからの量産品はコレで問題無くね?ってちょっと考えたりしたくらいだ。


一応女性用として拵えたのでサイズ調整機能の他に安眠、血行促進の付与を施し、俺の作品としては至極一般的な物に仕上げています。



「これって・・・インビジブルウルフ卿のお抱え宝飾職人の作品ですか?」


え?ああ、そう!そうです、結構融通利くんですよ俺からなら。


「確かチェルナー姫様の腕時計もその宝飾職人の作品じゃなかったでしたっけ。

・・・幾らくらいするんですか、コレ?」


え、それ聞いちゃいます?

そうですねぇ・・・以前、カサンドラ親方からの話では白狼の銘とサイズ調整の付与施した銀の指輪一組で大金貨4枚(約80万円)だったから・・・女性用なので金貨18枚(約36万円)くらい?

いや、それは卸値だった、それに未だステンレスの相場は銀より少し高いはずだから・・・通常の販売価格だと流通、小売店の諸経費、儲けを合わせて大金貨5枚と金貨6枚(約112万円)くらいですかね。


「マジですか!」

目を丸くするアルケロさん。


いや、俺も売値は正直分からないので卸値からのザックリの計算ですよ。

職人が拠点にしているコルネンで仕入れればもっと安いでしょうし白狼の銘が認知されている国外ならもっと高いかもしれません。

販売価格に縛りを設けていないので、ぶっちゃけ小売店が幾らの値を付けるかだけなんですよ。


それにさっきも言った通り紹介状持ってコルネンの工房に直接買い付け行けば卸値の(大体)金貨18枚くらいでしょうから。



「それでも・・・かなりのお値段ですね。良いんですか?1時間も手伝ってないのに」


気にしなくても大丈夫です。

出来はそれなりに良いですけど、そもそも商品として拵えた物ではないのですから。

なので箱は有りませんが気軽に奥さんにプレゼントしてもらえれば。

サイズ調整機能が有りますから指にはめて魔力通すだけで済みますし。



「いや、え?

そ、それであればお言葉に甘えて・・・ありがとうございます」


時が経つにつれ様子を変える銀と違って、いつまでもピカピカしているステンレスの指輪は前世の俺の感覚ではかえってチープに感じてしまうのだけど、この国の人達はこの武骨な輝きを放つ銀色の事を「永遠に変わらぬ輝き」と称して珍重している。


・・・いや、条件次第で錆びるからそんなキャッチコピーはよした方が良いと思うんだけどね。


ホント文化の違いって不思議なもんだ。

別に貶すつもりは無いけど将来は銀より重量単価で安く供給できるようになるだろうからあまり持ち上げないでほしい。


将来、俺が暴利を貪っていたなんて噂を立てられたら困ってしまう。



「(ニヤ、ニヤ)」

アルケロさんがにやけている、奥さんへのプレゼントを手に入れる事が出来て嬉しいんだろう、俺の精神衛生上の勝手な都合でそう思う事にした。


売ったりしないよね?



さて、明日はイエレンさんと一緒にパジェの技能検証だ。

俺はもしもの時の治癒魔法師として控えているだけなので特に準備なんかは無い。

しいて言えばパジェの機嫌を保つ為の小物を準備するくらいか。


それなら・・・オセロ、前世のリバーシーでもチャチャッと作るか。

ルールも簡単だし。


実はすでにこの世界には『フロスミア』と呼ばれるリバーシーとほとんど同じ遊び方のボードゲームが有る。

ただ日本人が知る『オセロ』と違って盤は10×10マス、囲碁で使うのとほゞ同じ形の白と黒の丸く削った石を用いて、挟んだ箇所はひっくり返すのではなく都度入れ替えていくといったそこそこ面倒くさいゲームだ。


それにこの世界では全て職人さんの手作り、なのでお値段も結構する。

しかも職人さんが丹精込めて作るもんだから見た目もかなり立派でぶっちゃけ重い。


だから庶民がおいそれ手に入れる事は出来ず、フロスミアを楽しむ一般人の大部分は自分達で調達した色違いの未加工の石を拾ってくるか木を削って色を付け拵える。

盤は木の板にマスを彫って手作りするのはましな方で、大体がテーブルに直接マスを書き込む。

それにルールもやる人毎で少しづつ違ってくるから意外とカオスな状況になってたりする。




今回は俺がスキルで前世のオセロの様に白/黒が張り合わせてあるコマを準備しようと思う、種類の事なる木材を使って。

これなら使用するコマも予備を除けば100個あれば事足りるし、盤もヒンジでパカッと二つ折りできる様にすれば持ち運びもスマート。


俺用に1式だけ拵え、外に出すつもりも無いから職人さんからも文句は言われないだろう。



ルールも単純だからパジェと遊んで楽しもう、そうしよう。

早速作ってしまおう、そうしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る