第275話 アクシデント
パウンドケーキが焼き終わり手ごろな大きさにカットしている俺、クルトンです。
本日はパジェの技能検証の日。
オセロ、もとい『フロスミア』は昨日のうちの拵えたので早朝から王城内食堂の厨房を借りておやつ用にとパウンドケーキを焼いた。
俺の王城での認知度も上がり、今では事前に申請すれば調理の邪魔にならない範囲で厨房を貸してもらえる様になった。
今回は面倒な所はスキルに任せ出来るだけ短時間で仕上げる様にして出来るだけ厨房の邪魔にならない様に配慮、うん俺大人。
しっとり目になる様に材料を調整して焼き上げたパウンドケーキと合わせてナッツ棒の補充を行い、粗熱は取れているので用意したバケットに詰める。
ハイ、準備完了。
少し早いけど後宮へ向かおう。
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「申し訳ございません、本日の面会の許可申請名簿にお名前が載っていない様なのです。
私の判断ではお通しできないものですから・・・ちょっと上長に確認とります」
そう言うともう一人の守衛さんを伝令に走らせる。
申し訳なさそうに俺にそう言ってくる騎士さんは、この後宮の入り口を守っている近衛騎士。
後宮の出入りは親族でも簡単には出来ない。
加護持ちの親族の面会は後宮に入る代わりに専用に設けてある部屋で行う位だ。
当然元老院副議長で有っても顔パスなんて事にはならない、以前温泉の件で俺が出入りできたのはソフィー様が予め申請していたからです。
この騎士さんはそういった意味で職務に忠実で信頼できる仕事をしている。
それにこの騎士さんとは既に顔なじみで、以前から知っている彼の堅実な働きぶりから意地悪をされている訳ではないのは明確に分かる。
書類に不備でもあったか、申請中に何か手違いがあったのか・・・いずれにしても待つしかない。
因みに技能鑑定士のイエレンさんはちょっと前に到着、中に通されたみたい。
30分程守衛の騎士さんと雑談していると上長だろう近衛騎士の甲冑を装備した騎士さんとソフィー様、そして大きなカバンを持ったお付きの人?が一緒にやって来た。
顔が険しい、やっぱり不手際でもあったんだろうか。
ちょっと緊張する。
「インビジブルウルフ卿、まずは謝罪を。
ごめんなさい、注意はしていたのだけれど貴方の申請書だけ紛失してしまっているの。
事情は後で説明するからまずはここで新たに申請書を発行します。
たった今、国王陛下には許可を戴いてきましたので緊急対応用の書類に、ここにサインして頂戴」
ソフィー様がそう言うと、緊急対応用の申請書となる羊皮紙をペンとインクと一緒にお付きの方のカバンから出して俺に渡してくる。
ハイハイ、ここにサインすればいいのですね、じゃあ・・・はい、終わりました。
ソフィー様に渡し
「・・・ええ、問題ないわね。
じゃあ、この書類をもって面会の許可申請名簿にインビジブルウルフ卿の名前を追加して頂戴、追加の承認は陛下の代行として私がサインします」
そう守衛の騎士さんに書類を提示し名簿に俺の名前を追記、更にその脇にソフィー様のサインも書いて手続き終了。
守衛の騎士さんの上長と思われる方も確認して無事後宮への入場を許可された。
「事が終わったら私の執務室に顔を出して頂戴、今回の経緯を説明します。」
始終眉間にしわを寄せ厳しい顔をしたソフィー様がそう言い残すと、元の仕事に戻るのだろう後宮を急ぎ足で去って行った。
『経緯』か・・・面倒な話しでなければ良いんだけどな。
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「お待ちしておりました、インビジブルウルフ卿」
「こんにちは!クルトンしゃん」
後宮付きの侍女さんが俺を会場まで案内してくれて、そこでパジェ、イエレンさんと顔を負わせる。
お待たせした様ですみません、なんか手違いがあった様で入場に手こずりまして。
「いえいえ、時間丁度ですから問題ないですよ。では早速始めましょうか」
イエレンさんは椅子に座るパジェに向かい技能鑑定の為に色々質問していく。
自分にもお子さんがいるからだろう、パジェにも理解できる様に言葉を選び問いかけ答えを記録、丁寧に検証を進める。
この時もイエレンさんの体の中では魔力が高速で巡り、おそらく鑑定の技能を発揮しながらの作業をしているのだろう。
事前にパジェの技能には当たりを付けているからそれに関連した質問が殆どだが、先入観が検証に影響を与えない様に関係なさそうな質問も混ぜている。
「じゃあ、高~いお空からでも見えないところはあるかな?」
「丸い地面の反対側は別の所に行かないと見えないの。あとお城に入った人は見えないの」
人工衛星が何機か有るって事か?それに城の中は無理にしても民家の中なら分かるって事か。
イエレンさんも同じ疑問をもったらしく追加でパジェに問いかける。
「へえ~、普通のお家に居る人は見えるのかな?」
「見えるの!・・・”影”だけど」
元気に堪えた後にちょっと声が小さくなる。
赤外線カメラ・・・かどうかは分からんが、条件次第で建屋内を見れるって事はかなり特殊な装置の機能も備わっているって事か・・・。
「お目目の他に何か動かせるのはないかな?」
何だか人工衛星有りきの問いかけ内容になっている様な・・・。
「うーんとね・・・、うーんと・・・なんかピカってできるみたい?」
この質問に違和感を感じずにパジェが答えてるみたい、こりゃ人工衛星の遠隔操作説が確定しそうだぞ。
・・・ん?今『ピカって』って言ったか?
「光らせてみようか!」
満面の笑みでそう言うパジェ。
「「ストーップ!!」」
”ビクッ”
「ああ、ゴメンね。でも分からないままだと危ないかもしれないから、もうちょっとおじさんとお話してからにしようね」
ちょっと涙目になっているパジェを宥めるイエレンさん
俺も一緒に叫んでしまった手前ちょっと責任を感じてしまう。
時間も経ったことだし少し休憩しましょう。
ここで準備してきた木の皿を出しパウンドケーキを乗せる。
ステンレスのフォークと木製のカップも出し、カップには俺の水魔法からの水を注ぐと無花果のジャムを溶かす。
「おやつにしましょう」
俺がそう言うとパジェは待ってましたと器用にフォークを使い、パウンドケーキを口に運ぶ。
こんな子供でもケーキをちゃんとフォークで切り分け口に運んでいる所作を見ると、噂の通り後宮の躾はしっかりしている様だ。
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