第276話 嫌がらせ

少々長めのオヤツの時間が終わり、パジェと軽くおしゃべりをする俺、クルトンです。



「ピカッ」ってなるのは本当に危ないかも知れないから使っちゃだめね、とイエレンさんと俺とでパジェに優しく説明、ニコニコしながら「うん、分かった!」と返事してくれたがフリじゃないからね?

押すなよ?



その後も少々質問を続け検証時間が終了、パジェお付きの侍女さんが「そろそろお時間です」と告げる。


はい、承知しました、ご協力有難う御座います。

では帰る準備しましょうか。


イエレンさんと俺が後片付けをしていると・・・侍女さんがまだいる。

ちゃんと後宮を出たか確認必要なのかな、監視の為?


侍女さんの脇に居たパジェも何で帰らないんだろうとキョトンとしていたみたいだが「ハッ」と何かに気づいたらしく、


「クルトンしゃん!モーンお姉ちゃんがあのケーキが食べたいみたい!!」

「ちょっと!パジェちゃん!!」


モーンお姉ちゃんと呼ばれた侍女さんが耳まで赤くして恥ずかしがている。



ああ、これは気が付きませんで。

では・・・ちょっと切り分けたので減ってはいますが半分以上は有りますので、ええ、気になさらずにどうぞどうぞ。


陶器にいれ布を被せた器をバケットごと渡します。

顔真っ赤で恥ずかしがってたわりには「あ、有難う御座います」とか言いながらしっかり受け取ってた。


え、ああ、王家の方々にパフェを振舞った後、差し入れしたパウンドケーキが美味しかったと。

なるほど、ならばこのチャンスをものにしなければならない、”ティン!”ときたと。



まあ昔からあるこの国の甘味は、砂糖漬けの様に物凄く甘いか粉っぽいのが多いですもんね。

高価な砂糖を使うから腐らせない工夫なのかもしれないけど。



後宮を出た後、暫く歩きながらイエレンさんと今日の件を軽く総括する。


「私の技能での見立てでもインビジブルウルフ卿のお考えでほゞ間違いない様に感じますが、やはり予定通りの時間をかけて確認しましょう。

正直技能からの反応で意味が分からないと言いますか、理解の出来ないイメージが浮かんできまして・・・少し考察する時間が欲しいのです」


へえ・・・どんなイメージなんでしょう、興味が有る。


「うーん、何と表現すればよいか・・・こう、星型?でもありませんなぁ・・・。

卵の黄身があって白身がこう、ちょんちょんと所々尖っていて、そこから1本だけ糸が伸びているといいますか・・・これがもう無数にあって絡み合って、そこを小さな光が縦横無尽に飛び交っているのですよ。

・・・通じますかね、この表現で?」


その説明でピンと来たのは脳細胞と言うか、神経細胞?

ニューロンってやつじゃないか。


「脳のサイボウ?・・・ですか?」


ええ、脳が脳たる所以、記憶や思考する際の重要な器官だったはずです。

医者でもないからこれ以上の話は俺も出来ないけど。


「記憶や思考を司る・・・!どうやら私の技能も答えに近づく為に情報の分析が始まった様だ。

ふー、今日は早く家に帰って寝ないと。

今夜は変な夢でうなされる事になるでしょうなぁ(苦笑)」


寝てる最中に今日の情報を技能がまとめて処理するんだろうか。

夜中に行うバッチ処理みたいな?

他人の技能は良く分からん。




さて、どんな結果が出るのか、それは何を意味しているのか。



イエレンさんと別れ『経緯』の内容を聞くためにソフィー様の執務室にお邪魔しています。

話しの前に「私も休憩しましょう、まずはお茶でもいかが?」とソファーに促され腰を下ろす。


「パジェはどうでした?」との問いかけに一通り今日の情報を伝えます。


「初めてのケースですからねえ。慎重に事を運ぶのは当然でしょう、そう言った意味ではイエレンは適任でしたね、彼の子供達もパジェと大して年は変わらなかったと記憶しています」

へえ、そんな個人情報まで知ってるんだ。


そしてお茶に口を付けると今回の『経緯』をソフィー様が話し出した。


「結論から言うと治癒魔法協会からの嫌がらせね」


ん?

今回の申請については王家と後宮を護衛する近衛騎士が関わっていると聞いていますが、この業務に割り込める、影響与えられる組織なんですか?治癒魔法協会って。


「王家や近衛が関わっているといっても”書類の内容”に対してですから。

それに近衛騎士と言っても色々部署ごと役割が有ってね、私などは近衛騎士所属ですけど広報部は市民相手の広報、各地からの魔獣に関わる情報の精査、事務処理が主な仕事ね、一部人相手の諜報活動も有るけど荒事は専門外よ」


皆まで言わんで良いです、知りとうありません。


「今回は部署間の書類の配送業務を受託している民間業者・・・その中の少なくとも2人が買収されていたようね、裏取りはこれからだけど間違いなさそうよ」


おう、そう言う事ですか。

その人たちを使って俺の不利になる様な事を・・・今回は申請書の紛失を装ったと。


「守秘義務を科せられる業務ではあるけど、書類の紛失などは無い訳でもないわ。

しかも申請書なんかは特に殊更重要な機密と言った物ではありませんし。

今回の後宮への入場許可で言えば、許可された事をわざわざ自慢する人も居るくらいよ。

この事で問題なのは治癒魔法協会の息が掛かった者が、ピンポイントで貴方の予定を掴むことができる位に書類の内容を閲覧できる状態だった事ね」


まあ、そうですね。

内通者に報酬を渡して「機会が有ればインビジブルウルフに嫌がらせをして」と一言依頼すれば勝手に忖度して実行してくれるんですからね。

今回がまさにこのケースでしょう。


「重要書類は担当者が直接手渡しするか近衛が配送しますから問題ないのですけど・・・一切合切同じ対応も出来ませんし、予算的にも労力的にも非効率ですからねぇ、面倒な事が表に出てしまったわ」



国の補助金を受け取っている組織が国に対してこういった事もしているって事か。

組織ぐるみか特定の人間の暴走か。




何れにせよ収音用ムカデ型ゴーレム作っておいてよかった。

王家の『裏方』がこの件も含めて何とかしてくれそうじゃない?


「するでしょうね。今のところは会話限定だけど『こんなお手軽に情報取り放題とか祭りかよ!!』って文字通りお祭り騒ぎだったわよ、あそこ」




色々フラストレーション溜ってたんだろうなぁ。

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