第254話 蜘蛛
人相書きと確認した内容をもって宰相閣下に報告している俺、クルトンです。
「うん、流石仕事が早いな、これだけでも十分な情報だ。
後は王家の”草”に任せよう」
これでこの仕事で俺が関わる内容は一段落ついた。
次は治癒魔法協会の件と・・・パジェの件はもうちょっとしてからだから俺一人で完結する仕事を済ませてしまおう。
ムーシカ、ポムと一緒に王都外にきた。
ミーシカは他の馬たちに交じって保養施設に行っている。厩務員さんお話ではお風呂が気に入っているようだとの事。
チョット眺めるとここからでも王城付近の天守閣?が見える。
何気にあの高さの建造物を建設できるって凄いなと思う反面、魔法が有る為か建築技術についてはかなり歪にも感じる。
・・・基礎工事どうなってんだろうな。
制限、程度は有れど魔法と言う人の意思、願いを具現化する技能が有る為か、未だに前世の記憶、常識に引っ張られる事が有る俺からするとツッコミどころが無限に湧いてくる感じ。
さて、ここで良いか。
ハウジングを展開して周りの岩を確認する。
王都から比較的近くて岩が多めにある地形、ここで試してみたい事が有る。
さしあたり作りたい物のモックを拵えたい。
材料は岩、石。大きさは大型犬位でポムより少し小さい位のスレイプニルの模型を作る。
前世のプラモデルの様なパーツを部位ごとに一つ一つ作って組み上げる。
つなぎ目はハウジングの仕様に任せて石なのに溶着させ、関節部分は都合の良いように嵌め合い精度を調整していく。
暫くすると実物と遜色ない位の関節可動域を持つスレイプニルの模型が出来上がる。
その後、各部位表面に魔力変換、動力やその出力調整、姿勢制御等々の必要な術式を刻んでいき凡そ半日がかりで完成した。
そして予め準備したスマートフォン程度の大きさのダイヤモンドの板に碁盤の目の様な模様を描く。
その升目一つ一つに矢印や”走”、”停”、”高速”、”低速”などの文字を刻み模型の制御術式とのパスを繋げる。
そう、コレは操作機、これでスレイプニル型ラジコンの完成である。
自律型は『世界』から何されるか分からなかったのでラジコンにした。
どれどれ、上手く動くかな~。
”始動”のボタンに触れるとタダ立っていただけの8本の足に力が籠り、わずかに曲がっていた膝が伸びる。
おおー!良いんじゃない。
では”走”ボタンで前進させて・・・右、左、右、”高速”と・・・・・・。
・
・
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ちょっと夢中になってしまった、もう陽が結構傾いてる。
目にヘッドライトの機能も付けちまったもんだから、暗くなってたのにやめられなかった。
マズイ、早く帰ろう。
今回試走させてみると走行時、方向転換時と停止時のバランスのとり方の違いや、関節の可動域を減らした方が良かったり、その逆だったり。
細かい改善点がいろいろ見つかり都度修正していった。
その結果最初は8本足のスレイプニルだったものが、今は6本足の蜘蛛の様な姿になってしまっている。
どうしてこうなった・・・。
しかも蜘蛛なら8本足だろうが何故か6本足になった。
でもこれが一番燃費が良くて(魔力消費が少ない)複雑な制御無しに姿勢が安定し、自重に対しての牽引力も強く長時間一定速度で走らせても関節部品の摩耗がすこぶる少ない。
無機物で拵えるなら哺乳類より外骨格の虫型の方が効率よかったでござる。
実験大事、俺再認識。
こうして大型犬ほどの蜘蛛型ゴーレムをコントローラーで操作して・・・実際はコントローラーから10m範囲内をキープしながらの自動追尾機能・・・王都に戻って来た。
「キャー!」
「いやー!!」
「止まれぇ!ってクルトンじゃねえか!何だよそいつ!!」
たまたま門で新人騎士団人さん達へ職場内訓練実施中のスージミ大隊長に遭遇。
俺に声かける前に速攻抜刀して切っ先向けてきたのは訓練の賜物、流石判断が早い。
いやー、大事になる前に偉い人に会えてよかった。
何か皆一目見る毎に腰抜かすんだもの。
思いのほか虫に忌諱感あるのね、王都の方達。
「そんなデケェのは魔獣しかいないんだよ!虫型の魔獣なんて最悪なんだよ!!」
ああ、そうか。虫型の魔獣は居るんでしたね。
獣じゃないけど魔獣として。
しかも獣型より小さいけど必ず群れで襲ってくるから十中八九逃げれないんでしたっけか。
そりゃ腰も抜かすわな。
でもこれは作り物だから大丈夫ですよ。
スージミさんが近づくとゴーレムを指先でトントン叩いて確認する。
「・・・石だな、でもよロックワームってのもいるからな。こりゃ誰でも間違う」
そのロックワームって蜘蛛型なんですか?
「蜘蛛型の確認はされていない、でも虫型魔獣は10年に2、3回程度新種が見つかるんだよ。いてもおかしくない」
へえ、もしかして世代交代が早いんですかね。
ちょっと興味が出てきた。
「どっちにしろコレ何とかならんか。このままだと王都内エライ事なるぞ、絶対に」
うーん、布でも被せるか。
新人騎士さんにお金を渡し麻袋を5、6枚買ってきてもらう。
既に閉店していた穀物卸売店に無理行って小麦用の袋を譲ってもらったそうだ、スマン。
一度ふくろを切って広げてから数枚繋げ、縫い合わせる。
1枚のシート状にしたものをゴーレムにかぶせて飛ばない様に足の付け根にひもで縛ると一応”蜘蛛”とは分からない状態になる。
「念の為俺が先導する、おい!お前らはインビジブルウルフ卿の周りについて固めろ、王城まで警護の訓練だ!」
新人さんに号令をかけようやく王城へ向かって大通りを進んでいった。
ゴソゴソ動く大きな麻袋と共に。
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