第253話 拡張機能

急遽開催された食事会も俺のデザートを最後にお開きとなる。

今は皆がお茶を飲みながら思い思いにおしゃべりを楽しんでいる最中。


それを眺めている俺を給仕さん達(女性)がロックオン。

感覚が鋭いのも考え物だと感じている俺、クルトンです。



給仕さんが配膳している時、何気に俺の横を通りすがりに

「美味しそう」

「疲れた時は甘い物よね」

「母さんにも食べさせたい」

とか普通の人ならギリギリ聞こえない音量で呟いていた。


いや、俺には聞こえる事知ってて言ってるよね、君たち。

後でなんか差し入れしておこう。

流石に氷菓は持ちが悪いから、ナッツとドライフルーツをたっぷり使ったパウンドケーキでいいかな・・・良いよね。


「楽しみにしていますわ」

ヒュミースさんがそう言っているから問題ないだろう。



「クルトン、こんな時になんだが『かの国』の件は進めておいてくれ。必要であれば報告書にまとめずとも私に直接言いに来ても構わん。スピード優先で頼む」

承知仕りました。


では早速今夜から調査を進めておきます。


「ああ、任せた」

宰相様のその言葉を最後に退出する。



さて、今日は色々回って情報仕入れて来よう。

因みにあの飲み屋のマスター何気に情報通なんだよな、実はどっかの国の隠密なんじゃないかと疑うレベル。

教えてもらう情報が5W1Hに沿ってて分かり易いのよ、自分で意識せずにその用法を身に着けたとしたら天才だよね。

でも・・・つまりは過去に何かしらの訓練受けてたんじゃないかと疑っている。


まあ、悪意はない様だからそれ以上は詮索しないけど。




俺のマップと索敵を使用すれば最小限の情報で確実に対象者のアタリを付ける事が出来る。

索敵は成功率の係数を設定されていないスキルだったので、現実世界では不条理に感じるくらいの索敵成功率100%が保障される。

これもチートだよなぁ。

何かしらの技能で隠れていても確実に発見してしまうって事だからな。


かくれんぼで鬼無双できるね。



ただし、これに現場から聞き取りした生の情報が加わると、この理不尽な索敵スキルに成功率の係数の影響を受ける代わりに別機能のブーストが掛かる。

例えば宝飾工房Aに泥棒が入りそれを捕まえる為に『一昨日宝飾工房Aに泥棒に入った人物』との条件で索敵、対象者を見つける。

通常の索敵はここまでだが・・・これでも十分チートだけど・・・その後「宝飾工房Aでは指輪だけ盗まれてた」なんて情報を入手したとする。


その情報が間違いない物であれば「一昨日宝飾工房Aに泥棒に入って”指輪だけ”盗んでいった人物が”次に”狙う場所」と言った索敵条件を追加出来て、対象者がとる行動の予測が追加で出来るようになる。

そして標的の情報が多ければ多い程、対象の行動を予測する精度が上がっていく。



この例の場合は(あくまでも予測だが)次の現場で待ち伏せして”現行犯”で召し捕る事が可能になる。

つまり現行犯なのだから証拠を探し、その証拠が有効であることを証明する手間無く留置所にぶち込めるわけだ。

場合によっては即裁判にかける事が出来てラクチン・・・ってな事にもなり得る。



此方の手札、行動の選択肢を増やす事が出来るからこそ情報収集、聞き取りは重要。


スキルを現実世界で使うのであればゲームの世界では無かった面倒な制約が有ったり、逆に拡張機能と言っても良い便利な追加機能もある。


マップなんかも比較的最近に解放されたシステムだから検証続けないといけない、新たな発見が有るかもしれないから。

なんたって海図もあるし。



少し仮眠を取ったら晩に色々試してみよう。



・・・思ったより深刻かもしれないな。

索敵で判明した事は、ネズナロス教国が送り込んできたのは間者ではなく軍人だって事。


この王都に5名いる。

数は少ないが宣教師モドキでもない軍人を直接送り込んでくるなんて、情報工作じゃなくて破壊工作、テロ前提で何かやらかす気満々じゃないのか?


幸い王城には協力者を含め対象者は居なかったが事は急いだ方が良いな。

明日は人相書の為に本人と宿泊先を確認してこよう。



翌日人相書きを作る為に当事者の顔を直接確認していく。

スクリーンショットの機能で情報を記録し、後に羊皮紙か紙に出力する。

泊まっている宿屋の部屋の位置と帳簿を照らし合わせて偽名かもしれないが一応名前も確認。


今日丸々1日彼らを観察して感じた事が有る、多分彼ら5人は連携していない。

これが真実なら危険度は格段に低下する、油断はしないがホッとした。


マップと索敵で再確認するも皆バラバラに動いているし、目的は同じ腕輪の件なのだろうが街中でお互いがニアミスしているが合図なんか一切しない。

当然の様にも思えるがなんて言うのかな、何かしらの通信手段を用いた情報交換もしていないしお互いがお互いをそもそも認知していないみたいだ。

路傍の石同士って感じ。


面識が全く無い様な振る舞いだ。

もしかしたらあの国は権力者同士で牽制し合って5人それぞれの上司が違うのか・・・。

上司が政敵同士なのかもしれないな。


この推測が正しいなら意外と有効な情報ではないだろうか。

これを前提におとり捜査なんかしても良いかもしれない。


まあ、俺の仕事はそれではないので後は宰相閣下に任せよう。




それでだ、向こうは5人が5人とも腕輪の件でウリアムさんの工房が怪しいと睨んでいるみたい。


行商に扮して他の店、工房より明らかに立ち寄る人数が多い。

今日俺が確認しただけで5人中4人が立ち寄っているし、店の滞在時間も一番長い。

しかも工房の受付をしているお弟子さんと結構フレンドリーに話してた。



工房には最近は王家の馬車が迎えに来たことも有ったし、陛下とウリアムさんが飲み友達ってのも周囲の人達からしたら周知の事実で公然の秘密だ。

あえて喧伝していないがこの近辺で1週間も飲み歩けばその噂は耳に入るだろう。


うん、俺でも怪しいと思う。



これはもうどうしようもないなぁ。

さっきの話じゃないがウリアムさん、もしくは工房を使っておとり捜査でもしたら一発で引っかかるんじゃないだろうか。

勿論安全を確保したうえでだけど。



これも宰相閣下に進言しよう。

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