第252話 甘味の誘惑

宰相閣下より無茶ぶりにも似た話を振られているのに前世での子供達とのひと時を思い出し感傷にふける俺、クルトンです。




2人の息子は俺が前世を去るときに既に結婚していた。

今も元気にしているだろうか、奥さんとも仲良くしているだろうか。

孫は生まれただろうか。


いや、無事であればそれでいい・・・俺はこっちでそれなりにやっているよ。

生への未練など無かったのに、なぜか第二の人生を与えられ、皆を巻き込み、巻き込まれ・・・うん、充実した人生を送っている最中だ。


今わの際に後悔が口をつく事が無い様に一生懸命やっているよ。



「どうした?もしや『クリームパフェ』は何かの禁忌に触れるものだったか?」

心配そうに、そして俺を覗き込むようにうかがえう宰相閣下。



いえいえ、昔の事を思い出していただけです。

幸せなあの時の記憶。




さて、もったいぶらずに説明しましょう。

『クリームパフェ』とは完璧との名を掲げる『パフェ』の中でも基本中の基本の氷菓。


これをしっかり拵えられないと後の派生種で進化系でもある『チョコレートパフェ』、『フルーツパフェ』も台無しになってしまいます。


「ほうほう!」


まあ、基本のクリームパフェに好きな甘味や果物を乗っければ良いだけなんですけどね。



「あら、美味しそうね」

「いつかご馳走して頂きたいです」

「儂も甘いのは好きだしのう、何より甘味は母上の好物だ」



・・・久々に試してみようか。

材料は小麦、ミルク、砂糖、旬の果物、シナモン等々のフレーバーを準備してもらって俺の料理の腕前ではなく、全て調理スキルで済ませる。

魔力をそれなりに、いや、かなり消費するがこんな切っ掛けが無いとやろうとも思わない。


素で作ろうと思えばかなりの時間が掛かるからな。


お昼にデザートで準備しましょう。

専用の器もスプーンも必要ですから早速準備してきます、なのでさっきの材料の準備お願いしていいですか?



「任せなさい、時間など関係ありません。今からでも最高の物を準備させましょう!」




当初1時間と短い打ち合わせのはずが、更に短い20分ほどでソフィー様とチェルナー姫様が終了を宣言し準備の為にと部屋から放り出される、俺が。


・・・まあいいか。

盛り付ける所も見せながらその場で提供すれば、デザートの時間ギリギリまで時間あるだろうし。

器とスプーンを準備しよう・・・いや、何人分必要なの?ねえ教えて、ここ開けて、ねえねえ!!


何度も扉をノックして部屋の中に声を掛けるが、パフェへの期待で変なテンションになっていたのか暫く気付いてもらえなかった。

(´・ω・`)






昼の食事は急遽庭園中央付近にある東屋でとる事となった。

俺も誘われたが、完璧なパフェを作る為にいつもにも増して高い集中力が必要だと説明し逃げた。


いや、集中力が必要なのは本当。

なぜか王子とかその家族も呼んだもんだから、なんだかんだで10人超えた為に一緒の食事は気が散ってしまうだろう。

だって1年ちょっと前は普通の平民だったのよ、俺。


確認してもらい12人分の食器を準備しないといけなくなって、急いでガラス工房へ突撃、事情を話して材料のガラスを購入、王城へとんぼ返り。


直ぐにあの深い器、サンデーグラスだかパフェグラスだかをこれまたクラフトスキルで拵え・・・ガラスは宝飾スキルが活躍する・・・柄の長いスプーンはステンレス鋼を使って一応体裁は整った。

うん、見た目は問題ない。


時間も丁度良い頃合いだろう、そろそろ会場に向かおう。




あ、少々早めに来たつもりでしたが食事も終盤ですね・・・直ぐに取り掛かりましょうか。


「待ってたわ、早速お願い」

「挨拶は省略して問題ない、頼むぞ」


ソフィー様と宰相閣下がいつになくグイグイ来る。

これは早めに済ませないと要らん混乱を引き起こしてしまいそう。




器をテーブルに並べて事前に揃えられた食材を確認、調理スキルに登録していく。

一応果物はそのカットして使う物とジャムにするのを分けて、クリームの材料はこれで、温度は低すぎない様に加減しながら攪拌、タップリ空気を含ませ滑らかに仕上げる、それから・・・・。


こんなもんだろう、イメージ、事前準備は完了した。


「では」

スキルの効果は絶大だ。

食器を含めたすべて食材が一斉に輝きだすと一瞬で完成する。

因みに光ったのもわざわざ演出の為にエフェクトをオンにしたからだ。

見た目大事。


一瞬で終わってしまったので考えようによっては味気ない演出だが、見ていた王族一同様はそうでもなかったらしい。


「「「「「おおおおおおお!!」」」」」

「これが!」

「一瞬でこのように!」


まあ・・・いいか。

さあ、氷菓ですから溶ける前に召し上がってください。


給仕さん達が皆へ配膳していきます。


手元に来た人から早速柄の長いスプーンで掬い口に運ぶ。



「「「「「・・・、・・・、・・・」」」」」



カチャカチャと食器が触れる音だけが響く。


皆真剣な顔で召し上がっていらっしゃる・・・もうちょっと楽しそうに食べてもらった方がこちらとしては嬉しいのだけれど。



暫くこの状態が続く。

一番最初にチェルナー姫様、次にコヌバリンカ妃殿下が食べ終わりスプーンを置く。


そこから暫くして一番最後に国王陛下がスプーンを置くと皆の視線が御母堂に向き、


「やはりお願いして良かった。

貴方からもたらされる情報はとても刺激的ですけど、現物の方が何倍も幸せになれるわ」


お言葉を頂戴した。


・・・気に入って頂けたという事で?


「ええもちろんよ」

そうニッコリ笑うと椅子に深くもたれ掛かりそのまま静かに瞼を閉じる。


・・・、・・・えっ?


「ああ、大丈夫。寝ただけじゃ」


ああ、良かった。まさかと思いましたよ、心臓に悪い。

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