第251話 筒抜け

話しが深夜にまで及んだ為に明日一度仕切り直す事となった。

部屋に戻りベッドに潜り込んだ途端に爆睡。


気が付いたら朝になっていた俺、クルトンです。




昨日、俺が話した前世の記憶、別に隠していた訳ではない。

ただ話したところでどうなるものでもなかったし、話さなかったところで今まで通りの生活が続くだけ。


つまり何も変わらない、ならば聞かれた時に話そう、そう決めていただけだ。


両親は”なにも変わらない”事を悟っていたのだろう、何か解せない事が有っても特に俺を追求するような事は無かった。

変わらず今の『クルトン』を愛してくれた。


2回目にも拘らず、今世の人生を歩み始めて改めて両親から受ける『無償の愛』はとても心地良く、根拠を示す事が出来ない確かな安心感が胸に満ちていった事を覚えている。





着替えを済ませポムと一緒に食堂に向かうと、もう俺専属なんじゃないかと勘違いする位顔なじみのメイドさんから声を掛けられる。

年の頃は40代前半と言ったところ、少し色が抜けた様な赤い髪をアップにまとめている。

そのあせた髪の色のせいか逆光で見かけると後光が差したように光が拡散し、本来の背丈より大きく見え、神々しささえ感じる人。



「おはようございます、クルトン・インビジブルウルフ騎士爵様。

本日は10時から11時までの1時間ではありますが、昨晩の続きを行うとの国王陛下からのご伝言で御座います」


はい、承知しました。


「・・・それと、私共はメイドではなく侍女で御座います。

今までは周囲から寛大に扱われておりましたが、今後は細かな言葉使いにも言いがかりをつけてくる者が増える事でしょう。

ええ、苦言ではなく言いがかりです。ご注意ください」


はい!ご指摘有難う御座います。

いや、ホント申し訳ない。そこんところ全然分かってなくて。


「ふふふ、それと私はブラトル・バンペリシュカ伯爵の第二夫人、ヒュミースです。

”これからも”御懇意いただく事になるでしょうから、宜しくお願い致します」


あ、これはどうもご丁寧に、いやはや伯爵夫人様でございましたか・・・ん?

記憶になんか引っかかる・・・・!


今、ブラトルって言いました?


「はい、そう申し上げました」


・・・あの、失礼を承知でお聞きするのですがブラトル様って婿入りされてます?


「ええ(ニッコリ)」



おおおおお!こっぱずかしい!!

今まで俺の情報が筒抜けだったんじゃねえのか、絶対そうだろうよ!


未だ言質は取れてないけどこの思わせぶりな話し方、そして”王都”で『ブラトル』って事は母さんの兄さんの事じゃねえのか?!

でも確か騎士だったよな。



「(ニッコリ)」

なんか言ってくださいよ!!



「なんだ、知らんかったのか?

縁者の方が都合が良かろうと、わざわざヒュミースを付けたのだぞ」


陛下、もっと早く教えてください!

ってかヒュミース様から直接聞きましたよ、さっき!!



母さんは平民ではあったが一族の本家では代々騎士を輩出してきたそうだ。

その分家筋の家系に生まれた母さん。

そして兄のブラトル叔父さんは騎士の才能が有ったそうで、母親(母さんの実母、俺の母方のお婆さん)が亡くなったタイミングで当時騎士爵だった本家のお爺さんへ三男として養子に出たのだとか。


その後の話を聞くに、ブラトル叔父さんは才能は有ったが騎士内での実力は中の中程度・・・それでも一般人よりかなり強い、前世で言うなら単騎でヒグマを倒せるレベル・・・だったので戦場での目立った功績は上げれなかったそうな。

しかし騎士団内での事務処理能力はピカ一で、マジで文官系の組織から何度もスカウトあったらしい。


一般人から見ればインテリ集団ではあるものの、文官側から見れば基本脳筋集団の騎士団内で文官レベルの事務処理能力を持つ叔父さん、『戦場で足手まといにならない文官』、もとい『戦える文官』は相当に貴重で重宝されたらしく、騎士団での囲い込みも有って当時の団内での上官だったバンペリシュカ前伯爵の下へ養子婿入りする事になったそうだ。


なんでもバンペリシュカ伯爵嫡男が、奥方と子供(男子2人)を残し魔獣討伐戦で殉職してしまった事もあっての養子縁組だったそう。


そして、その後直ぐに第二夫人となるヒュミースさん(第一夫人の実妹)の輿入れも決まり今に至る・・・と。



叔父さん優秀だったんだな。

母さんももっと話してくれれば良かったのに。



「確かに良く気が利く奴だ、ブラトルに話を通してもらうと仕事が早く片付いた。

騎士団内の情報伝達と統制はさすがだったよ、何回もこちらからの命令を聞き直すことも無かったしな」

へえ、でも宰相閣下の話を聞くと俺には叔父さんが至って普通に聞こえる。


「これ、お前と一緒にするでない。文官の教育を受けずにあの働きは相当な物じゃぞ」


そんなに高く評価していて覚えも明るい様でしたら、尚更ヒュミースさんの件は俺に話してくれても良かったでしょうに。

なんだかんだ言って俺の伯母さんになる訳でしょう?

ヒュミースさんに会ってから2年近くになるんですよ、もう。


「いや、それは・・・ほれ、個人情報だしのう」

何でそこだけキッチリしてんだよ!



「と、まあ場が暖まったところで昨日の続きといこうか」

強引に宰相閣下が話を修正した。


後ろでヒュミースさんがポムをモフりながらクスクス笑ってる。



陛下が口を開く。

「まあ、話と言ってもお前が持っている情報の取り扱いについて。

此方で管理、制御しようとは思わんが、母上の話ではホイホイ流出してしまうと都合が悪い物も多分にあるという事じゃから・・・まあ、口外しない様に、話はそれだけじゃ」


承知しました。


「まあ、今まで通り。

こういった事も正式に伝えんと何かの折に今後どうお前が判断を下すか分からんからな、釘を刺したと言ったところじゃの」


国王陛下自ら指針を示して頂けるのは大変有難い。

責任を擦り付けれるので。



「はは、まあいいだろう。それでな、母上が気になる事を言っておって。

クルトン、『クリームパフェ』とは何だ?大そう美味い氷菓らしいのだが」


確かに美味いですねぇ、凄く・・・俺も甘党だったから子供達にかこつけてよく一緒に食べたものだ、今鮮明に記憶が甦る。



それは・・・そう、とても幸せな記憶。


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