第75話 杖の威力
シュコー、シュコー、シュコー
修練場で赤樫を俺謹製ナイフで削り整えている俺、クルトンです。
鉋掛けの様な鉋屑・・・鰹節の様で美しい。
何気に周りに人だかりができます。
騎士団員の方々が集まってきました。
「すごいな、ナイフでこれだけ平らな面を削り出すなんて」
「全くだ、やすり掛け必要ないな」
ヤスリ掛けすると水吸ってしまうのでね。
水分の含有量が変わってしまうと衝撃が加わる武器に使うとなるとちょっと厳しいですからね。
素振り用なら構わないんでしょうけど実際使う予定ですから。
ニスを塗ればいいって話もありますがやってみたかったので。
「それで何を作っているんだ?」
杖です。
ふう、やっと断面が六角形に仕上がりました、早速試しに使ってみましょうか。
「おっ、じゃあ俺から手合わせ願おう」
短髪で年の頃は50代くらい。体格は俺より頭一つくらい低いですが体の厚みはなかなかのものです。
この世界でも十分大柄な体格。
体力と技と経験、一番脂がのった時期でしょう、かなり強そうです。
名前はレイニーさんとの事、当然貴族様だがここでその話は良いだろう。
杖を両手で持って突き、払いやクルクルと回して感触を確かめ腕、足、腰の動きと杖の動く軌道を確認、修正していきます。
杖術なんてやった事ないのでと剣道の動きが少々混じっていますが今は仕方ない、このまま試合を始めます。
相手はグラディウスって言うんでしたっけ、短めの剣を左手に持ち、おそらく利き手と思われる右手にはヒーター・シールド。
敵に回すと一番めんどくさい組み合わせ。
剣というより攻守ともに盾が主役のスタイル。
試合だからパッシブ、アクティブスキル共に使わず素の身体能力だけで事を運ぶ。
なので杖も無茶な使い方すれば折れるだろう、慎重に、丁寧に・・・。
相手は予想通り待ちのスタイルなので、先行はこちら側から遠慮なく行かせて貰おう。
杖を両手に持ち左半身に構えそこから踏み込むのと同時に腰を回し先の左手まで右手を押し出す。
内包している力が弾けるようなイメージで一瞬のうちにそれを行うと狙った盾の中心に当たり・・・相手が吹き飛んだ。
なんで?吹き飛ぶのはおかしいだろう、盾が砕ける方がまだ現実味が有る。
と思ったのだが周りを確認し理解する。
確かに杖の先端を盾に当ててはいたが踏み込んで移動した俺の体そのものが衝撃波を発生させていたようだ。
衝撃波が巻き起こり、その空気が通った道に砂で模様ができていて、何より俺の上着がボロボロになっている。
という事は・・・マズイ!レイニーさんの体は大丈夫か!!
また衝撃波を出さない様に注意してレイニーさんに駆け寄ると、兜含めブレストプレートを引っぺがす。
急いで容態を確認すると手足がぐったりして目と耳、鼻から血が出ている。
心音も聞こえないマジでマズイ!
力の出し惜しみは無しだ、全力で治療する。
身体の毛細血管から神経、骨、筋肉細胞、脳のニューロン細胞に至るまで意識し修復する様強くイメージ。
額と心臓の上、その胸に手を置き治癒魔法による急激な変化に耐えられる様、俺の体内魔力を譲渡しながらとにかく治療を強行する。
この時、俺とレイニーさんは乳白色の淡い光に包まれると、踏み固められた砂の浮いた周りの地面からクローバが生茂りシロツメクサが花を咲かせ、修練場一帯が緑の葉と白い花で埋め尽くされた。
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なんとかなった、危なかった。
スキル使っていないのにとんでもない・・・やはりこの身体は強すぎる。
分かっていたはずだ、そう分かっていたはずなんだ。
なのに俺の認識との齟齬か大きすぎる、なんとかしなければ。
いつか間違いで人を殺めてしまうなんて事はあってはならないんだ。
この力はそんな事の為にあるんじゃないんだ。
「どうした、そんな顔して。俺ならもう大丈夫だ。なんなら前より調子いい位だぞ(笑)」
ああ、この度は申し訳ございませんでした。
大事に至らなかったとはいえ、一歩間違えばあなたを殺めてしまう所でした。
この罰はいかようにでも・・・。
「・・・練習でのことだ、何も問題ない。むしろ加護持ちでもない私がインビジブルウルフの爪の一太刀を耐えたと末代まで語り継げる」
・・・有難う御座います。
今後、一層精進いたします。
「でだ、ちょっと話が有ってな」
何でしょう?
「俺には今年15になる娘がいてな、親の俺が言うのも何だがなかなかの器量良しだ。そして伯爵とは言っても俺は国王陛下を守る最後の砦、近衛騎士団員。貴族だからとそんなつまらん自尊心など持ってはいない」
え、ええ・・・つまり?
「伯爵家の娘とは言っても一人で生きていけるだけの技量は幼少から叩き込んである。どうだ?俺の娘と所帯を持つ気は無いか?」
冗談ですよね?
「今はな。でも考えておいてくれ、お前にはその価値がある」
今後こんな話しがひっきりなしに来るだろうから、覚悟しとけ
なんて事を言って、レイニーさんは笑いながら修練場を出て行った。
器量良しのお嫁さん。
若かりし頃の前世の俺なら飛び上がって喜んだ事だろうが、今世では幼少の頃から同世代の女性には避けられてたから、その手の話しは縁の無いものだと気にしない様にしてた。
だからそう言われても何だか他人事の様に感じてしまう。
嫁探し始めた方がいいのかなぁ。
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