第76話 反省会

かなりしょんぼりしている俺、クルトンです。


思えば今までちゃんと力を振るった相手は皆『精霊の加護』持ちでした。

以前子供達に拳骨喰らわせた時はかなり手加減を意識してたし、全ての威力が今より小さかった。


いかにレイニーさんが強かろうと加護持ちと比較すれば・・・

こうなるのは考えれば分かっていたはずだ。


マジ俺、猛省。

早急になんとかしなければ。

本当に『間違い』で取り返しのつかない事になりかねない。




「気にするな・・・と言っても無理か」

クローバーに覆われた修練場の地面に正座している俺にデデリさんが声を掛けてきます。


はい、とだけ返し猛省の姿勢を崩しません。


「人を殺めるのは大罪だが、今回は訓練中の事故でもあるし結果的にではあるがお前の治療でレイニーも全快した。本人も言っていただろう、以前より調子がいいくらいだと」


「フォネルから聞いてるが、狩りの腕前は超一流って話しじゃないか。そこに至るまでの努力は尋常なものではなかったのだろう?」


「なら同じように対人戦も経験を積んでいけばいいんじゃないのか」



・・・この力・・・自分の力はこの世界で許されるものなのでしょうか?


魔獣討伐も・・・

結果論ではあるけれど、人類の天敵と呼ばれる魔獣を討伐するのに恐怖を感じはすれどこちらが殺られる気は全く起きなかった。


角付の魔獣討伐で言えば、騎士団への報告時に教えてもらった『咆哮』の攻撃。

それが鼓膜に届かなくても体に受ければ忽ち失神するか『精霊の加護』を持っている者でも一時的に動きが制限される攻撃なのだそうだ。

それを4頭分至近距離で直接受けても俺の動きに一切影響は無かった。


必殺技のスキルの恩恵であることは分かるが、それでもこの世界で俺の体その物が異質すぎるのではないか。


「結局のところクルトンはどうしたいんだ。これからの人生の方が圧倒的に長いんだ。少しでいい、立ち止まって考えてみればいい」


今までは

育ててくれた両親へ孝行する事、

弟には理不尽な運命が巡ってきた時、それに抗う力を授ける事、

妹たちには自分たちの選んだ伴侶と生涯幸せに暮らせる様に、その段取りを整える事、

その為に力を、知識を求めた。


求め続けた力は、知識は誰かを傷つける為じゃない。

今まで正しく使ってきたはずだ。



「今まで力を、家族皆んなを護る為に力を求め続けてきた事、これからもそれを求めていく事は間違いじゃないと確信しています。・・・ただ、この先俺は人でいられるのでしょうか」


そう問えば

「まあ、人である必要もないだろう、俺も魔獣と呼ばれていた時間の方が長い」

今でもそう呼ばれている、そうデデリさんは笑います。


魔獣よりは狼の方が遥かにマシですね。


「言うじゃないか(笑)」


力のコントロール、今でも出来てはいる。

ふとした切っ掛けで、無意識のうちに振るわれる力が無いように注意していくしかないのか・・・、気が休まらないが仕方ない。

そのうち慣れるだろう、多分。



『二つ脚の魔獣』ことデデリさんとの会話で少しは考えが整理されたように感じる。

少なくとも悲壮感は大分薄れた。



「ではこれから俺との試合を始めるか」

えっ、それが目的ですか。


「あんな大事が有ったからな、さすがの俺もあの場では言い出せなんだ」


仕方ありませんね。

未だ上着はボロボロだけど、そう言いながら杖を使って立ち上がる。


その後、慣れない杖での試合だったけれどデデリさんを無茶苦茶吹っ飛ばした。



「それでな、クルトン。こういうのは皆の自尊心を削ぐ事だとは重々分かったうえで言うが、手加減よろしくな。本当に頼むぞ」

公開訓練の二日前、急遽国王陛下からの希望で略式の謁見の場が設けられそう告げられる。


御意。

間違いは万に一つも起こしません。

ご安心ください。


魔獣討伐の件かと思ったら明後日の訓練時に「事を起こしてくれるなよ」って釘をさす為だったようだ。

うん、わからんでもない、再度反省。


「本当に頼むぞ、レイニーから聞いたがクルトンが間合いに入っただけで死にかけたそうではないか、何度も言うが本当に手加減頼むぞ」


御意。

間違いは万に一つも起こしません。

ご安心ください。


こんな感じの会話が何回か繰り返されます。

本当に悪い事したな、レイニーさんには。



「では今後の働きに期待している」

あ、やっと終わった。


「それでな、公開訓練の後に以前の魔獣等と合わせて今回の4頭討伐も正式に情報公開しようと思う。一緒にデデリ大隊長のグリフォンのお披露目もな」

宰相閣下がそう引き継ぎます。


「特にクルトン、お前は平民でありながら陛下より直接称号を下賜されている。貴族の様な利権、特権、責任は無いが国内では騎士爵相当の扱いを受ける事になるので心得ておくように。下手な事はしてくれるなよ」


え、初めて聞きましたけど。

ってか責任はともかく権利もないのに『騎士爵相当』ってのは平民と何が違うんですか。


「それの根拠になる法は無いが『平民』のままでは貴族が無茶やちょっかいかけ放題だろう?そのための『騎士爵相当』、陛下と協議した結果だ。前回討伐の時は式典も略式として何とか情報統制していたがこうも立て続けに・・・しかも今回は角付4頭の単独討伐、公開せねば王家に対し要らぬ疑いを招いてしまうかもしれん、面倒な方向にな」


「まあ安心しろ、なんだかんだ言って今回の主役はグリフォンになるだろうて」

だと良いんですが。

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