第77話 現れた魔獣(クルトン)

とうとう始まってしまいました、公開訓練。

ソワソワしながら出番を待っている俺、クルトンです。


会場外周には土魔法と木造建築で拵えた観客席が設置され、仕切られた内側に貴族様たちが・・・半分くらいは騎士団員の親族だそう・・・なんだかんだ言って400人くらいでしょうか、その位います。


他の階段状にはなっていますが基本立見席に近いフリースペースに抽選で当選した王都住民と大店の会頭などの富裕層がいます。


・・・全部合わせて1000人位。

かなりの規模ですよ。


国王陛下のお膝元というだけあってこんな催しを想定して余裕を持った作りになっているようですね。


区画は限られていますが一般王都住民への王城解放日として祭りの様な賑わいです。



訓練は3対3の小規模対戦から始まり5対5、10対10、15対15と段々規模が大きくなっていきます。

規模が大きくなるに従い個人の技量の他に連携などの練度の差が勝敗に大きな影響を与えていきます。

勉強になる、俺は基本単騎で動き回るからこういったのは新鮮な感じ、単純に面白い。


丁度真昼を過ぎたころ、20人の隊での訓練になったところで俺が出ていきます。

何を隠そう、俺のこの訓練での役どころは魔獣です。


俺(魔獣役)1頭対20人


殺す気か!って通常ならなるんですが先日のレイニー伯爵様の件もありますので逆に俺が加減をしなければならない状態です。

デデリ大隊長とフンボルト将軍もここから登場、デデリさんに至ってはグリフォンで空から急襲するみたい。

本当に俺を殺す気なんじゃね?


まあ、その二人が登場するのは終盤との事ですから、それまでは慎重に、慎重に・・・。




所定の位置について認識阻害を解く。

これにより俺が修練場中心に突然現れると、ほんの少しの間を置き状況を把握した観客達が観覧席のあちこちで悲鳴を上げプチ混乱が生じる。

警備、誘導の兵士さんが「大丈夫です、落ち着いてください!」と観客を宥めている。


無理もない、なぜなら今の俺は異形の姿。


上着とズボンはいつもより濃く染めた黒に近い藍色、それに朱色に染めた革の胴当て、手甲、脛当てそして左手に赤樫の杖。

黒毛の熊の毛皮で作った膝下まであるマントを羽織り、極めつけは頭にかぶった大形強顎魔獣の頭蓋骨。


200cm程の俺のガタイと相まって、二足歩行なのに魔獣感が凄まじい。

頭蓋骨をミスリルに精錬しなくてよかった。

自慢する為に暫く部屋に飾って保管してたんだよね。

額に穴空いてるけど。



ただし頭蓋骨自体がかなり大きいので頭、首ではなく肩で支える形になりご当地ゆるキャラの被り物感がハンパない。

その分インパクトはかなりの物。



突然現れたように見えた魔獣役の俺がゆっくり騎士団員へ向かい歩き出すと号令がかかる。


「はじめ!!!」

その一言で俺の周りに盾を持った騎士団員が展開し隙間ない綺麗な人の壁を作る。

空以外に逃走経路が無い状態だけど魔獣役の俺は逃げるなんてことはしない。


正面突破だ。


衝撃波を発生させない程度の速度で踏み込み、猪型の魔獣の牙の様に杖を下からかちあげる。

それを受けた騎士団員が盾ごと綺麗な弧を描いて吹き飛ばされ、それが地に落ちる前にもう一人に向かい今度は上から杖を叩きつけ盾を粉砕、その勢いのままアメリカンフットボールの様に肩での体当たりで二人目を飛ばす。


取り囲んでいた騎士団員の輪の外側に抜け、止まることなく団員の背後から杖で肩、腿、脇腹など、各々へ一発づつ当てていく。


加減はしてるし鎧の上からの攻撃だから怪我はしない・・・しないよね。

ともかく打ち付ける度に団員の動きが一瞬止まるのでその一瞬を活用し相手との位置を逐次変化させていく。


観覧席からだと1頭の魔獣が離れることなく騎士団員同士の隙間をすり抜け、逃げ続けているようにも見えるだろう。


実際は騎士団員をすり抜ける度に杖を一撃づつ当て続けていっているだけなのだが、時間がたつごとに体へのダメージが蓄積していき、徐々にそして一律して団員皆が疲弊していく。


当然団員からの攻撃は俺にかすりもしない。


一人当たり7回~10回ほど杖を打ち付けた頃合いだろうか、皆の脚が止まり息が上がりだした。

このままだと魔獣で有る俺の勝利で終わってしまうが騎士団の見せ場はここから。


「キュオオオオォォォォォーーー」


デデリさんの登場だ。


未だ真上にある太陽を背に自由落下宜しく垂直に俺に向かって急降下してくる。

流石にまぶしくて直視できないので段々小さく、そして濃くなるグリフォンの影を見ながら一瞬たりとも止まることなく移動を続け標的を絞らせないようにする。


そうすると『ドン!』と言う音と共に地面に槍が突き刺さった。


槍といってもこれはジャベリン、投擲用の槍です。

俺の弓矢は禁止でこれはOKってどうなんですかね。


そう思考を巡らせていると『ドン!、ドン!』とまた槍が降ってくる。

合計4投、さすがにまだクローバーが生えているとはいえ、こうも立て続けだと土煙が舞う。

何本持ってんだよ、全く!

最後のヤツなんて軽くクレータ出来てんじゃねぇか!


ってか動きを誘導されているな、そうなると次は・・・・


『ブオォン』

土煙の中からフンボルト将軍が細身の両手剣を横なぎにしてきた。

俺がその場にとどまっていたら上半身と下半身が分かれていた、そういう軌跡で振るってる。


マジで殺す気だろ!


「まさか!これが合図だ、ここから本気を出せ!」


グリフォンに乗ったデデリさんはランスを、フンボルト将軍は両手剣をそれぞれ構えて仕切り直しとばかりに相対する。


ここまで10分もかかってないだろう。

しかし騎士団の窮地からグリフォン登場、巻き返しに観覧席では大興奮の大歓声。

それを見た国王陛下大満足。


どう収拾させればいいんだ、コレ。

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