第319話 設置

その日は工房と下宿先に置物を設置、付与を起動させる。


外に出て小石を適当に一つかみ程拾い集め、工房の屋根の上に投げ上げると屋根の1m位上だろうか、”カツン”という音共にハジかれて斜面を転がる様に落ちてくる。


うん、上手くいった。

じゃあ他の所にも設置しよう。



そして翌日、修練場に向かっている俺、クルトンです。


下宿先のマルケパン工房も今朝石を投げて確認すると、昨日のカサンドラ宝飾工房と同じように石を弾いて効果を確認できた、心配はしていなかったが問題無い様だ。


「翼竜がなんでそんな大きな石を持ってくるの」

俺の脇を歩いているシンシアが聞いてくる。


なんでかなあ・・・お礼のつもりなのかとも思ってたんだが、あんなに頭良いのにワザワザ俺の、人の被害を考え無いで落としてくるんだよな。

何か意味が有るのかと考えても何も思い当たらない。


うーん、これだとただ俺に悪戯している様にしか思えないんだよな。



修練場に到着しシンシアはいつも通り騎士さん達との練習、俺はこの件をフォネルさんに相談しようと周りを見渡すが先にデデリさんに見つかってしまった。



「よう!クルトン。誰に用事だ?」

あ、おはようございます。

フォネルさんにちょっと相談したい事が有りまして。


「ああ、フォネルか・・・。いや、アイツは最近あちこち飛び回っていてなぁ。

クウネルの足がすこぶる速いもんだから今回も昨日から重要案件の書簡を任されて王都に向かっている」


へえ、大活躍ですね。

「まったくだ、無理すれば王都まで1日で着くからな。

たいしたもんだよ、クウネルは。して、相談だったな、俺で良ければ聞くがどうする?」


ええ、ちょっと相談に乗ってもらえませんか。

正直俺も良く分からなくて。



そして最初に魔力石を手に入れた経緯から昨日までの件、そして取りあえずの対策の為に付与を施した置物を準備したと告げ、バッグから緩衝材代わりの布でぐるぐる巻きにしたグリフォンの置物を出して見せる。


そして相談の内容を話すもグリフォンの置物に夢中で聞いて無いだろ、この人。



「ほう、ほうほう」


普通の人なら両掌に乗る大きさの置物も、俺やデデリさんでは片方の掌で持てる位の物。

色んな角度からシゲシゲと眺めデデリさんがこう聞いてくる。


「幾らだ?」

はい、売り物ではありません。

さっき説明しましたよね?この修練場にこの置物を飾っておいてほしいと。

あくまでも上空からの落下物を防ぐための装置だと。


「冗談だ、じゃあ、何処に置くのが一番いいんだろうな。

まさか外に置きっぱなしって訳にも行くまい」

修練場一帯の区画内であまり端っこじゃなければどこでも良いですよ。

脇の事務所内でも。


「そうか・・・たまにだが部外者が入る事もあるから盗まれない場所が良いだろうが、まあ考えておく。

それで相談とは?」


「ふう」とため息を一つ突くと。もう一度同じ内容を説明した。



「捕まえちまえば良いんじゃないか、出来るんだろう?」


無茶言わんでください。


出来るかできないかで言えば出来ると思う。

今すぐではないが爆裂の魔法を火薬代わりにした銃の様な物を開発、それを搭載した飛行機のラジコンの様な物でも拵えれば。

それこそ光学迷彩を施して特攻機よろしく20、30機でいっぺんに襲わせ、物量で押せば翼竜を墜落させることは可能かもしれない。


そして落ちてきたらハウジングで受け止め、俺の治癒魔法で治せば取りあえず捕獲は出来るだろう。


ただ討伐するならば治療しなくてもよいので更に難易度は下がる。


しかしなぁ・・・悪意が有る様にも思えないんだよな。

成竜は明らかに知能高そうだったし、それが厄介な所でもあるんだけど。


「何がお前をそうさせるのかは分からんが、獣相手に気を使いすぎではないか。

そんなもん奴ら(野生動物)の掟、弱肉強食の業からは逃れられんぞ」


ええ、そうなんですけどね・・・食料目的じゃない殺生はなんだか気が引けて。

いや、今更なんですけど。


けど怪我人が出てからでは遅いか・・・今はこの結界の付与で良いとして、もう少し根本的な対処方法を考えよう。

この件に関して言えば間違いなく俺の責任は大きいだろうからね。




「あとお前、なんか忘れてるんじゃないか?」


ん、何かありましたっけ?


「はあ・・・、パメラに王都の話をしてやる約束だったろう。

いつまでもお前からの声が掛からんから日に日に不機嫌になっていって、ちょっと周りの雰囲気が悪くなってるんだが」

デデリさんがジト目を向けてくる。


おおう、それは申し訳ありません。

言い訳になりますが色々ありまして・・・。


「あの子もお前が大事な仕事をしている事は重々承知している、だから自分から声を掛けずに遠慮してるんだ。

しかし、その辺も汲んでもらえんだろうか」


「クルトンさん、そう言う所だよ」

いつの間にか俺の後ろに居たシンシアも声を掛けてくる。



そうですね、女性を待たせるのは良くありませんね。

年齢からしても酒場でって訳にもいかないでしょうから、今度ピクニックにでも誘ってその時にでも王都の話をしましょうか。


弁当とおやつを持って。


「うん!良いと思う」

馬車で行けば皆と一緒に行けて楽しいでしょうし。


「ホント、クルトンさん!そう言う所だよ!」

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