第320話 社(やしろ)

結局のところデデリさんにも相談の内容に対する有益な情報を得ることは出来なかった。

まあ、こればっかりは仕方がない、翼竜の習性なんて誰も知らないだろうし研究だってした事無いんだろうから。


気を取り直して次の目的地に向かっている俺、クルトンです。




少し時間はかかったが次に郊外のスクエアバイソンの厩舎付近、テヒニカさん達の住まいにテホア達を迎えに行く。



テホア達を預かって厩舎に向かい、今いる厩務員さん達に翼竜の件を話してスクエアバイソンの置物を置いてもらう場所を相談すると・・・、


「ちょっとそんな高価な物を置いておく場所は有りませんなあ、でも置かないとマズいのでしょう?どうしましょうか」


とのことで厩務員の皆さんちょっと困り顔。



確かに。

ここには兵士や騎士が常駐している訳でもないし、四六時中人は居るものの結構な広さを少人数でカバーしているから高価な物を監視できるような体制では無い。



さてどうしようか・・・、


(´-ω-`)ポク・

(´-ω-`)ポク・・

(´-ω-`)ポク・・・

(´-ω-`)ポク・・・・

( ・`д・´)ティーン!


スクエアバイソンのドックに向かい下から天井を仰ぎ見る。

・・・あの辺りにするか。


もう一度外に出て今度は薪を置いてある場所に向かう。

未だ割っていない少し大きめの木材を選び俺の周りに小さくハウジングを展開、木工スキルを併用し板材、角材に形成してく。


「クルトンさんすげぇ!」

「すげえ~」


剝ける様に形成された木材が現われる姿をテホアとイニマが面白そうに眺めている。


これを更に熱と蒸気を加えて圧縮し合板にして幅30cm、厚み30mm位の合板に仕上がる。


同じものを数枚拵え、このほかにもいろいろな厚み、幅の材料を準備してこれからが本番。

前世の記憶とクラフトスキルに任せ模型の様に組み上がっていく小さな社。


そしてサクッと完成しその両扉を開いて中にスクエアバイソンの置物を置く。


「ちっちゃなお家!」

「おうち~」


テホアとイニマの食いつきが意外と良い。

模型みたいなものに興味あるのかな。



残っている板材とその社を持ってドックに戻り、板材をロープに括り付けそのロープの端を持って壁際の柱をスルスル登る。


天井の梁に到達しそのまま中心付近まで梁の上を移動、板材をロープで引き揚げ梁に敷くように置いて穴を穿ち、予め拵えておいた釘木を何本か打ち込んで固定する。


”グイグイ”

うん、軽くではあるが俺の力で揺すってもしなるだけで強度は問題ない。

それじゃあと一度降りて社を持って再度登り、この上に社を置いて同じく釘木で固定、よし出来た。


社の扉から手を入れ、スクエアバイソンの置物に触れて起動の為の魔力を流すと”フワッ”と白い靄が湧きだして直ぐ消える。


起動は問題無く済んだ、正常に動作している。



柱から降りてテホア達の所に行こうとそちらを向くと、厩務員さん達が3名ほど手を胸で合わせ膝をついている。



皆が向いている方を見ると・・・うん、前世で言う神棚みたいに見えるな。

この国にはそんな文化ないんだけど何か感じるものが有ったんだろうか。


何かツッコむ雰囲気でもなかったのでテホアとイニマと一緒に静かにその場を離れた。



さて、応急処置ではあるが一応心配事は片付いた。

恒久対策を考えないといけないが今は訓練を進める。



なんだかんだ言ってこの世界の人達の身体能力は地球人と比べてはるかに高く、まだ子供のテホア達ですら前世の一般成人程度の能力がある。


少し俺のトレーニングを受けただけで7歳にして100mは11秒台(俺の腕時計で測った凡そのタイム)で走り切り、これなら特に何もしなくても間違いなく成人前には10秒切るだろう。


いまだ俺がチェルナー鋼で拵えたペンダントをしているから、身体能力の成長はほぼ止まった状態なのだがこの成果、シンシアといい、この子達といい末恐ろしい。


そしてこれだけの身体能力を持ちながらこの世界の対人戦の技術は極めて稚拙だ。

これは(建前上は)人同士で争いをする余力など無く、戦力のリソースをほぼ魔獣討伐に振っているからで、あのデデリさんですら人相手には純粋な身体能力でのゴリ押ししかしてこない。

まあ、それでもべらぼうに強いんだけどね。


逆に4つ足以上の獣へは集団戦闘方法としてかなり研究されていて、身体能力に物を言わせたスキのない多人数での波状攻撃は、反撃する糸口さえつかませない苛烈さである。



だから対魔獣でない対人戦では、殺し技としての楔が抜かれた現代柔道、空手道でも十分な効力を発揮し、この技術を身に着けているだけでかなりのアドバンテージになる。


つまりテホア、イニマは魔獣に対しての力ではなく、彼らを悪用しようとする人の悪意を跳ね返す事が出来る様に訓練するつもりだ。


取りあえず今日は受け身の練習から始めようか。



柔道着に模した練習着を準備してい居たので二度手間だったがもう一度家に戻り、着替えを済ませて再度集合。


畳を作るのは未だ難しかったので今日は土魔法で地面を砂に変え、そこで受け身の練習をする。



後ろ受け身、横受け身、 前受け身、前回り受け身。

ひたすら反復練習を繰り返すが意外と前回り受け身が楽しかったようで意味無くゴロゴロ転がっている。


・・・でも、ホントのみ込み早いよなココの子供達。

形だけなら直ぐに受け身をものにして、今はジャンピング前回り受け身を連発しているところ、エンドレスだ。


これならと、ちゃんと説明したうえで軽くテホアに体落としを掛けると綺麗に力を逃して受け身を取ってた。



うん、うちの兄弟たちよりも筋が良いかもな。

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