第318話 渦巻く魔力

今日は修練場でテホア、イニマと体力づくりをしている俺、クルトンです。



ズリズリ、ズリズリ、ズリズリ、ズリズリ・・・。

何も訓練は特殊な事だけと決めていた訳ではありません。


ズリズリ、ズリズリ、ズリズリ、ズリズリ・・・。

修練場の一角を借りて俺が幼少期に行っていたトレーニング、インチワームで往復している最中です。



「クルトンさん、疲れた~」

「疲れた~」

ハイハイ、じゃあ休憩しようか。


準備してきた水筒から各々のコップへ果実水を注ぎ、今回新作として試作したベビーカステラを袋から大皿に盛り付け差し出す。

たこ焼き用に作ったけど、タコが手に入れられなくて死蔵していた専用の鉄板が役に立って良かった。


「クルトンさん、コレはとっても良い物。お店に出した方が良い」

「美味しい!」

「美味し~」


ちゃっかりシンシアも加わってテホア達と仲良くおやつタイムだ。

シンシアは今朝俺が作っているベビーカステラをつまみ食いしていたのに、まだまだ足りなかったみたい。



丁度修練場にいた騎士さん達も一つづつ摘まめる位の量は有るので欲しい人は貰いに来る。


「美味いな、コレは」

「摘まめる大きさってのも良い。」


この国の人達は成人男性でも甘いものが好きな人が多い。

単純に子供の時から甘味に飢えていたという事もあるが、今まで観察していると高カロリーの食べ物は大体皆好物みたい。


考えてみれば特別な訓練をしていない一般女性でも100mを10秒台で走り切る位に身体能力が鬼の様なこの世界の人達。

それだけの運動量を難なくこなす為に補充するカロリーは高い方がそりゃあ良いだろうな。


あれ程あったベビーカステラがさほど時間も経たずに皿から消える。

うん、かなり好評だったようだ、伯父さんに報告して今後のお店の商品に加えてもらおう。


「絶対そうするべき」

シンシアからの圧が凄い。

俺からしたら正統派のしっとりカステラの方が好きではあるんだが・・・。


「もっと詳しく!」

ああ、後でね。何気に作るの手間かかるんだよ、何度も窯から出さないといけないし。


この後も細かく休憩を挟みながら訓練を続けていく。

何事にも体力は必要、これからのテホア、イニマの運命を考えれば尚更重要になってくるだろう。


特殊な技能を持ってはいるが、俺や精霊の加護持ちと違ってテホア達の身体能力は一般人と変わらない。


だからこそ強力な技能に押しつぶされない様にフィジカルは十分鍛えていかなくては。


勿論怪我をしない様に十分注意してだけどね。



そんなこんなでテヒニカさん達の生活も大分落ち着きテホア達の訓練も段々成果が感じられるようになった頃、カサンドラ宝飾工房で受けた注文のマネキンを拵えていた時に俺の索敵に引っかかるものが有った。


しかも上空、かなりの早さで近づいている・・・いや、落ちてきている!?

急いで工房から飛び出し目を細めて上空を見上げると・・・、


「・・・!!」


俺の視力でもやっとの上空で、今はもう遠ざかっている翼竜を一瞬捉えると、ハッとして反射的にこの一帯にハウジングを展開する。



”ガコン!!”

間一髪とはこの事だろう。

ハウジングを展開して一拍の間も無く障壁に弾き飛ばされる黒い石が見えた。


「どうしたんだ?いきなり飛び出して」

カサンドラ親方が扉から出てきて俺に話しかけてくる。


俺は工房の屋根に指を指し「あれが落ちてきたんです」と現状をそのまま伝える。


「宙に・・・浮いてんじゃねえか、あの石?」

ハウジングの境界の障壁に阻まれた宙に浮いた状態の魔力石。

以前手に入れた30kg程の物より小さくはあるが目算で10kg前後はあるだろう。

高所からの自由落下に任せたあんなのが屋根に直撃したら間違いなく穴が開いた事だろう。


ハウジングを操作し俺の目の前まで魔力石を移動させて直接手に取る。

さて、どうしたものか。


彼らにしたらお礼のつもりなのかもしれないが、我々の生活圏にこんなの放り投げられたら死人が出てもおかしくない。


ってか、どうやって俺を見つけたんだ?



いや、まずそれは後回しだ。

取りあえず今回の様にいきなり石を街中に落とされたら大惨事になってしまうから対応を考えよう。


恐らくは俺の居る所に落とすんだろうから・・・下宿先、修練場、カサンドラ宝飾工房とスクエアバイソンの厩舎、少なくともこの4か所には上空を防護する為の結界魔法を展開させないとマズそうだ。

何かの間違いだとしても俺が居ない時に落とされでもしたら目も当てられない。



この魔力石はその名の通り魔力が結晶化した物の様だ。

もっと綺麗な石なら注目もされたんだろうがこうなのだから仕方ない。


ハウジングは展開したまま、工房内の俺の部屋で魔力石の加工を行う。

これを4等分し結界の付与魔法を彫り込んで各拠点に配置、これからも続くであろう翼竜から落下される魔力石に備える。


ハウジングのブーストもあり作業は問題無く進む。

何なら4等分するのも重量ベースでハウジングがピタリ正確に切り分け、宝飾スキルを併用して各々任意の形状にグニャリと形成する事も出来た。


色々細かなディティールを調整して行って

カサンドラ宝飾工房には宝石が溢れている宝箱、

厩舎にはスクエアバイソン、

修練場はグリフォン、

マルケパン工房は籠に入ったバゲット。


各々の形に形成して色は黒ながら棚に飾っても違和感ない様に仕立てる。

カバーする面積が異なるのでそれぞれに範囲を調整し、上空からの攻撃に対処する事に特化した結界を付与し完成する。


追加で一定の大きさの物は素通りする様にも設定する、雨が降って地面を濡らしてもらわないと困るときあるし。


そして勿論俺の銘も忘れない。




「良いのか?これで。

見た目は普通の置物・・・じゃねえな、魔力がこいつらを中心に渦を巻いてる」

おや?親方は魔力が見える系の人でしたっけか?



「俺でも見える位にヤベえ事なってるって事だよ」

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