第82話 本格始動

ようやくコルネンに戻って一息ついている俺、クルトンです。


戻った日の晩に叔父さん達にはお土産として王都で買った焼き菓子、砂糖、あとはシナモン、バニラなんかこの世界では砂糖より高価な香辛料をキロ単位で渡した。


「こんなに・・・ホントにいいのか?」

と心配されたけどいつもお世話になっているし、時計制作の為今まで通りに店の手伝いできそうにないのでお詫びもかねて。


「気にしなくても良いんだぞ」

まあ、お金も幾らか余裕ができたので。


お土産の焼き菓子をつまみながら、その晩は王都での出来事を土産話として披露した。

やっぱり公開訓練の話が一番食いつき良かったよ。


「騎士爵!王都民!本当か!・・・いやぁ甥っ子が騎士様で王都民か、こりゃ明日早速お祝いしないとな!」

とても喜んでくれた。


父さん、母さんたちにも手紙書かないとな。

伝えるだけならムーシカに乗って往復2日で済むからそうしようかな。


その晩はいつもよりさらに陽気なアイザック叔父さん達を眺め焼き菓子を楽しんだ。



次の日、カサンドラ宝飾工房にやって来ました。


あっ、コレお土産です。皆で食べてください。

お土産の王都の焼き菓子を迎えてくれた第二夫人のシャーレさんに渡します。

なんか半笑いです。

何でしょうかね?

「騎士様だって?www」


ちょ!何で知ってるんですか。

「ああ、アイザックの息子達が自慢してたぞ」

親方がこちらに歩いてきながらそう言います。


いつ聞いたんですか?昨日の晩ですよ、それ伝えたの。

「うちにもあそこからパンを配達してもらってるからな、今朝聞いたんだよ」


マジかぁ・・・。


「良いじゃねえか、めでたい事だぞ。おめでとう」

有難う御座いますうぅぅ。


「なんかさえない顔だな」

何もなければいいですが。


「あるだろうよ、諦めろ」

ええ・・・。


「とりあえず倉庫に来い、おまえの荷物が王都から来てる」

ハッ、そうでした、それの確認したかったんです。

アスキアさんが送ってくれたあれだろう。




無造作ではありますが一応種別ごとにまとめておいてあります。

ヒヒイロカネ

アダマンタイト

オリハルコン

それとは別に各鉱山から送られてきたサンプル群

早速精錬、特性の確認をしていきましょう。


トントン、トントン、トントン


ヒヒイロカネ

これは予想通りゼンマイに出来る、復元力がハンパない。

スキル無しでは折れ曲がらない、90度以上曲げてもビヨーンと元に戻る。

針にしてもよさそう。


アダマンタイト

当初各ギヤの軸受けはルビーか俺謹製のダイヤモンドにしようかと思ってたけど、こっちの方が堅そう。

しかも魔力を込めるとさらに重くなる、重力制御の一種だろうか?


オリハルコン

うん、予想通り。魔力電池ですねこれ。

用途は無限ですよ、マジで。

強度もハンパないからこれで作った鎧に魔法付与モリモリとか恐ろしいね。

魔力で推進力を稼ぐレールガンとか出来るんじゃね?


とにかく思いのほか夢の有る金属で良かった。


その後サンプル鉱石の確認をしたけどチタンは無かった、残念。

有ってもおかしくないと思うのだけどこの短期間ではさすがにキツイか。


なので気を取り直し今ある材料で腕時計の制作に取り掛かる。

途中チタンが見つかって工程後戻りする時間が有ればその時考えよう。



それから早いもので3か月。

納期にはまだ期間有るが部品の制作はほぼ完成した。


当初の予定通り研磨を工房皆に手伝ってもらい部品のクオリティーは従来とは比べるべくもなく最高。

スキルで研磨するのもありだが人の手で丁寧に行ったものはなんだか一味違う。

魂が宿っている感覚といえばいいのだろうか。


今は部品一個一個の検品作業中の俺。

念のためスペアも含め同じ部品を各4個製作、その中で一番出来の良いものを選び、尚且つ組み上げる際の各パーツのバランス、相性を確認しながら選定していく。


この作業の為に20回以上腕時計の組み上げ、分解を繰り返している。

付与効果も都度確認する。


各部品へは付与効果を発揮させる魔法陣、一番外側のケースにはこの腕時計製作に携わったカサンドラ工房とその職人の名前を刻印してありそれも確認。

効果のほどではなく見た目の、ちゃんと綺麗に刻印されているかどうかのチェック、宝飾品だからこの辺も手を抜かない。


家名が有る職人は親方だけだったので名前の刻印スペースは問題なく確保できた。

ちょっとホッとしているのは内緒だ。


因みに俺の銘は裏蓋になる透明の蓋、ダイヤモンドの蓋いっぱいに透かし彫りの様に彫り込んである。

結構な大きさだがよくよく見ないと分からない、透明な状態の蓋なのだが例のごとく魔法由来の光を当てるとホログラム魔法を使った白狼印の銘が現れる仕組み。

うん、いいね!




部品の検品が一通り終わり各パーツを内側に布が張り付けてある箱に丁寧に仕舞って一息ついていると、さっきからこちらを見ていた親方が声をかけてきます。


「良い所まで始末が付いたか?」

ええ、ようやく。


「しかし素材もさることながらこの精密な加工はすさまじいな、こっちでやってる懐中時計もお前のお陰で何とかお披露目できそうだが手間考えると値段が恐ろしい事になるぜ」

まあ、初回のロットは仕方ないですね。

でも、ここまで小型化した時計は一般販売品としては初でしょうから後にプレミアつくんじゃないですか、それだけで一財産になるでしょうし。


「そうであってもらいたいよ(笑)」

廉価版の製作始めた方か良いかもしれませんね、初ロットで工房内でのノウハウも幾分蓄積されたでしょうし。


「因みにオルゴールはなかなかの売れ行きだ、数ではなく金額だがよ」

今はそうでしょうね。

部品点数が時計と比べればかなり少ないですからマスターになる櫛とシリンダー作りさえすれば今後量産も問題無いでしょう。


この世界、宝飾品は数で稼ぐの難しいですがそれ以外の精密加工製品の分野で裾野を広げていってもらいたいです。




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