第81話 【波紋】魔獣を超える狼

公開訓練が終了して凡そ1週間。

今回の訓練で正式に存在を公表されたインビジブルウルフ。

公開訓練を見ることができた者、騎士団や王都治安維持部隊の兵士達からの噂が流れちょっとした騒ぎになっていた。



【とある高級料理店、個室】


明るい室内で4人の男たち、貴族たちが食事と酒を楽しんでいる。

話題は一週間前の公開訓練の事だ。


「加護持ちでもない者が魔獣の単独討伐、しかも合計5頭なんぞ眉唾物と思ったが・・・・」


「あれを見てはな・・・」


「さよう、騎士団員20名、フンボルトに加護持ちのデデリをもってして引き分けなどどんなバケモノだ」


「いや、騎士団員からの話ではあれは本当の力ではないと、武器も死人が出ない様にインビジブルウルフが気を使って木の杖にしたとか」


「あのレイニーが一度死んだと言っておったな、大袈裟な話しかと思っていたが、そうか・・・その話しと公開訓練の結果からして誠であろうな」


「そもそも本気を出したヤツを目で追うの事はできないと言っておったぞ。フンボルトを倒した時も周りにいた団員すべてがヤツを見失ったと証言しているそうだ」



「あの後情報を集めたが、インビジブルウルフの一番の獲物は弓だそうだ、最初に討伐した大型魔獣も弓の一矢で倒している」


「まさか!たった一矢でか」


「しかも眉間から後頭部にかけて頭蓋骨の中心をだ。あの台に並べられた頭蓋骨を見せてもらったが確かにあった」


「大型魔獣の頭蓋骨を、あの分厚い頭蓋骨をか、恐ろしい・・・」


「実は奴は本物の二つ脚の魔獣なのではないか?」


「加護持ちのデデリの時なんぞ拳で鎧を砕いたとか、まさしく魔獣だな」


”ふうー”と皆一息つく。


「なんでも姿を消す技能を持っていると噂になっている、陛下が下賜した称号も『インビジブルウルフ(見えない狼)』、これが本当ならめったなことはできんぞ。どこで監視されているか分からん」


「『王都民』などと・・・、陛下はインビジブルウルフを囲い込みたいのだろうな」


「然り。あれ程の力、敵対しないだけで利が有ろうというもの。味方になれば如何ほどの物か」


「幸い未だ伴侶がおらんらしい。攻めるとしたらそこだろう」


「16だったか?おぬしにはそのくらいの歳の孫娘がおったな、差し出してでも縁を繋ぐ利はあると?」


「ああ、伴侶が王都民というだけでも十分なのにあの力だ。その子・・・でなくとも子孫に引き継がれる力は何れ当家を助ける事になるだろう」


「そうよな・・・5頭の魔物単独討伐、これだけでも子々孫々語り継がれる功績だ」


「しかしこのタルタルソースとやらは絶品だのう」


「食いすぎはいかんらしいがこうも美味いと止められん」


「この唐揚げに付けるとこれまた・・・たまらん。安酒と侮っていたがこのエール、いやラガーと言ったか、良く冷えたこれも唐揚げにぴったりだ」


「然り、然り」


モッシャ、モッシャ、モッシャ、モッシャ




【食事処ピッグテイル】


「おい、もう一回あの公開訓練の話ししてくれよ、こいつが信じねえんだよ」


「えー、またかよ、仕方ねえな。俺が見た、いや見えたところだけしか話せねえぞ」


「頼むよ、1杯おごるからよ」



「・・・ってなわけだ」


「改めて聞くととんでもねえな、そのインビジブルウルフは」


「正直俺は目で追うのがやっとでな、知り合いの兵士から聞いたところじゃそれでも本気じゃなかったらしい。奴の本気は目で追えないらしいからな」


「それこそ話し盛ってるんじゃないか?」


「いやいや、そいつが修練場入口の警備やってた時、たまたまインビジブルウルフが通ってすれ違いに挨拶されたらしいんだが次の瞬間にはもう姿を見失ったって言ってた」


「ホントかよ」


「ああ、茶色い短髪の大男だったらしい、あれだけあった威圧感が次の瞬間綺麗になくなったから幻かと思ったくらいだと。

その後さ、修練場から歓声が上がって何事かと見に行ったらフンボルト将軍の尻が空向いていたって」


「ハハハハッ!いつ聞いても笑えるな」


「まあ持ち場を離れたからその後上司から叱られたらしいけどよ」


「しっかし茶色い髪の大男か・・・王都で見かけた事ねえな。そんな髪色で大男なら目立ちそうなもんだが」


”コトッ”

「はい、エールの追加ね」


「おう、ありがとう」


「さっきの大男の話し4日位前かしら、それまで別館の宿泊施設に泊まっていたのよ、茶色の髪の大男。彼がインビジブルウルフなんじゃないかしら」


「まさかあ(笑)、ホントかよそれ」


「ええ、本物かは何とも言えないけど前にも泊まった事あってね、その時は王家の紋章付き馬車が迎え来たことも有ったから、あながち間違ってないと思うわよ。あんたの隣の席で食事してた事も有ったけど気付かなかった?」


「「「マジかよ!」」」




クルトンがここにいたらこう叫んでいただろう

「コンプライアンスゥゥゥゥゥ!」

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