第24話 後はお願いしますね
なんか周りが急に静かになってちょっと不安な俺、クルトンです。
できるだけ早く終わらせる為頑張りました。
これでいいんですよね?
認識阻害を併用し思考の死角から、
しっかり下半身を使い斜め上に打ち込むレバーブロー。
それを受けだデデリさんは、
「カヒュー・・・」と空気が漏れる音を口から吐いて糸が切れた操り人形の様に膝から崩れ落ちました。
目と口が半開きで瞳の焦点はあっておらず明らかに意識は無いでしょう。
勿論死んではいません。
ここで残身を解きます。
しかし誰も、何も・・・音が有りません。
「「「「ウオォォォーーーー!!!」」」」
(ビクッ)何ですか?!
「やりやがった!あいつやりやがった!!」
「一発で仕留めやがった!」
「みろ、鎧が砕けてやがる!」
「隊長が反応できないってどんだけだよ!」
「隊長のこんなアホ面初めて見たぜ!」
団員さん達が隊長の周りに駆け寄りはしゃいでいます。
そして何故か小柄な団員さんをわっしょいわっしょい担いで修練場を練り歩き出しました。
担がれてる団員さんも両拳を天に掲げています。
あ、うん、喜んでいただけたようで・・・。
では失礼しますね、また次の日曜日に伺いますので。
そそくさと帰る俺に近づいてきた副隊長、
「本当に済まなかった」
と謝罪の言葉を述べます。
謝罪を受け入れます。
後はお願いしますね。
「ああ、隊長にもよく言っておく。もう迷惑はかけない、来訪者に誓おう」
「来訪者に誓う」と言うのは地球での『神に誓う』と同義ですので副隊長さんは命にかけてこの誓いを守る事でしょう。
神はこの世界から去ってしまったという事になってます。
大災害時の世界の修復を途中でほっぽり出したとされ、これを『厄介ごとをぶん投げて逃げた』と捉える者も多く、その為かこの世界でのヒエラルキーは『来訪者』より下の扱いです。
来訪者、精霊>>>越えられない壁>>>魔獣>神
序列はこんな感じで地域によって魔獣と神が入れ替わる事もあります。
来訪者は神の使いとも、神の良心とも言われることもあるので矛盾を感じる事もありますが、この辺の根拠となる話は伝承されていません。
大災害を引き起こした古代人が悪者にならない為のスケープゴートにされた様にも感じますがね。
『来訪者に誓う』、そこまでしなくても良いのにとも思いますがそれは副隊長さんの覚悟を無下にするようで、軽く会釈をするとそのまま帰路につきました。
なんか疲れた、今晩は照り焼きサンドでも作ろうかな。
きっと皆喜んでくれるだろう。
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そろそろ陽が地に触れる頃、修練場東屋付近。
「・・・どれくらい寝ていた」
東屋脇に転がされているデデリが声を発した。
舌が上あごに張り付いたようなかすれた声。
いつもの覇気の有る声を知っている者なら驚い事だろう。
「寝てたんじゃありません、気絶してたんですよ。どうですか?手も足も出なかった感想は」
ぶっきらぼうに副隊長が返す。
いつもの事だが100歳近いのにこの隊長は無鉄砲すぎる。
これを機会に落ち着いてくれればいいんだが。
「・・・自分でも驚くが、悪くない。忘れていた感覚だ」
ゆっくり、噛み締める様に言葉を発する。
「全く・・・、一発です。念のため言っておきますが一発で仕留めたのは彼の慈悲ですよ」
軽く頷いて再び瞼を閉じる。
「恐ろしいな、油断なんぞしていなかった。だが奴が構えた瞬間あのデカい図体を見失った・・・そして気が付いたら今、このザマだ」
ポンと右脇腹に手を置く。
円形に鎧が砕け穴が開いている。
少々間が開く。
「・・・そうですね、俯瞰していた私も見失いました。想像以上です」
「・・・そうか」
また少しの沈黙。
「彼は赤子の時、森の守護者に守られていたそうです」
「・・・」
「西の緑魔の森の中で白狼から乳をもらい生き永らえていたところを拾われたとか」
二人の脳裏に『来訪者』の文字が浮かぶ。
そしてデデリが口角を上げてポツリと呟いた。
「・・・いや、奴はインビジブルウルフ(見えない狼)・・・だな」
『インビジブルウルフ』が、このあやふやな世界から認知された瞬間だった。
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