第25話 初出勤
期待に胸膨らませている俺、クルトンです。
今日はカサンドラ宝飾工房への初出勤の日です。
今朝の窯への火入れ、家族分のパンとおやつの揚げパンを焼いて今から出勤。
お土産も準備しました。
「頑張って来いよ」と叔父さんはじめ家族一同から見送られます。
有難う御座います、大げさにも感じますが皆の好意が感じられてほっこりします。
工房の受付が開くのは10時、作業場が動き出すのは9時です。
8時に到着し従業員口から建屋に入りまずは親方に挨拶です。
作業場に向かい親方を発見。
まだお弟子さんになっていない見習いの人達もいます。
おはようございます、今日から宜しくお願い致します。
「おう、おはよう。早速で悪いがお前の仕事場はこっちだ」
親方に連れられ作業場の隣の部屋に案内されます。
今まで材料置き場に使用していた部屋だそうですが、一人で使うには少々広い。
この1週間ほどで作業台、工具を含め環境を整えてくれたようです。
何気に換気扇まで設置されてます。
ここまでして頂いて良いんですか?
「ああ、お前の作品は貴族御用達になるかもしれないんだ。下手な扱いしたら工房の評判ガタ落ちになる」
その代わり仕事で手を抜いたりしたら速攻で追い出してやるからなと豪快に笑って俺の背中をバシバシ叩く親方。
ええ、期待は裏切りません。
なにせ妹たちの結婚資金がかかっているんですから。
俺が来た事を察して奥様達も作業場に現れました。
金属、鉱石が乗った台車を押しての登場です。
「これでいいのよね?」
おはようございます。はい、拝見します。
挨拶もそこそこに材料を渡されます。
ちょっと落ち着いてください。
早速ステンレス鋼の材料を用意してくれたようです。
待ちきれなくなって奥様達自ら運んできました。
見るからにソワソワしています。
確かにニッケル、クロム・・・の鉱石です。
間違いありませんが、これから精錬してどの位の量になるかの確認必要になります。
さすがに鉄はインゴットで用意して頂いた様ですがニッケル、クロムはここの設備では精錬無理ですね。
「「えっ?」」
「えっ?」
このままじゃ無理ですよ。
精錬の為、小さいので良いので金床かその代わりになる石台が必要ですね。
本当なら大掛かりな炉と燃料が必要な作業ですよ精錬って。
このインゴットの鉄ですら純度を上げる為に更に精錬するんですよ。
スキル任せの俺だから金床程度で済む話であって。
奥様達の目が泳ぎだしてやがて親方を見つめます。
「だから言ったろう、落ち着けって」
ああ、親方は諫めてくれていたんですね。
俺の精錬はかなり特殊な方法なので故郷から小さい石台もってきています。
ちょっと取りに下宿先に行ってきますね。
「今日からこの工房と専属契約した宝飾師のクルトンだ。マルケパン工房の店主アイザックの甥にあたる。仲良くしてやってくれ」
そう紹介を受けぺこりと頭を下げます。
店名のマルケはお祖母さんの名前です。
このタイミングにお近づきのしるしにと俺が作ったきな粉たっぷり揚げパンも差し入れます。
美味しいものを貰っていやな顔をする人は居ません。
先日も差し入れましたし店でも新商品として売り出しましたから何人か食べた事が有るのでしょう、ちょっとざわつきました。
そうでしょう、そうでしょう美味しいは正義ですからね。
先の紹介でも察せられるように俺はこの工房に弟子入りはしなかった。
個人事業主として、カサンドラ宝飾工房と専属契約を結んだ職人と言う立ち位置で活動する事になったのである。
これから稼がないとね。
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