第249話 生殺与奪

宰相閣下の話に耳を傾け、ネズナロス教国には絶対に行きたくないなと感じている俺、クルトンです。




なるほど、説明頂いた内容でいかにこの国が恵まれているのかが理解できた。

言い方は悪いが『来訪者セリアンの従者』の末裔ってだけで国全体にブースト掛かっている様なもんなんだ。


今まで正しく政を行うだけで、明らかに言いがかりであろう他国からの抗議をはねのけてこれたそうだからな。


「王家の統治下で1万年もの歴史を積み重ねてきたのだ。何か抗議を受けても”だからどうした?”だけで事が済む」


そりゃそうだよね、実績が有るんだから。



「話を戻すが、奴らには我慢ならんのだろうな。加護持ちを救うのが自分達ではないという事が」


「我が国がこの分野で主導権を握る事は揺るがんが・・・。

各国の政府が正しく『タリシニセリアンで開発された腕輪』と自国の民に公表したうえで腕輪の管理をしてくれれば面倒が無くて良いのじゃがなぁ」

陛下が困ったような、諦めた様な口調で話す。



「確実にネズナロス教国はその事を自国民へ公表しないでしょうね。

腕輪の貸し出しについても難癖付けて来るでしょう、”加護持ちの命をなんだと思っているんだ、無償で寄越せ”とか、”製造方法を公開しろ”と言った具合に」


「たいしたメンツでもないだろうに、それこそ自国の加護持ちの命を第一に考えねばならんだろうにのう・・・救いのない愚か者の思考じゃ。

クルトン、とりあえず注意してくれ。あいつら、特に上層部は阿呆だからのう。

思い付いたら後先考えずに事を起すでな、我々の判断を仰ぐ時間的猶予が無いかもしれん、その時は最悪始末しても構わん。王家が責任を持つ」


話しの流れで軽く言っているが・・・陛下にここまで言わせるネズナロス教国ってどんなところなんだ。


人殺しは大罪に変わりはない。倫理的なことも勿論有るがそれ以上に労働人口を無駄に減らす事が嫌われる、この世界の常識だ。

だからこの世界の大半の国に死刑制度は無いそうだ。

まあ、実際は死んだほうがましだと思う様なキツイ労働に従事させられるらしいんだが・・・その辺は怖くて聞けない。


つまりそれを押してでも始末した方が公共の福祉に叶う事だと、そう俺が判断すれば責任を王家が持つと言っている。

改めて陛下にここまで言わせるなんてな。


人を殺める気なんて更々ないが、この国内限定でネズナロス教国の間者やそれに類する人達、我が国に危害を加える者への生殺与奪の判断を俺が行ってよいとお墨付き戴いた事になる。


ますます物騒な話になって来た。

どれだけの意図が含まれているか知る由も無いが、俺は小心者なのだ。

そんな場面には立合わない様に祈っておこう。



「それで今回の被疑者に対しての扱いじゃがのう」

陛下が話を続ける。


「クルトン、お前は騎士爵ではあるが元老院副議長でもあるし、重要な国の事業を熟しこれからも国中を跳びまわらねばならんだろう」


はあ・・・そうですね。

テホアとイニマへの教育、訓練の後ではありますが。


「コルネン、開拓村それぞれにお前の拠点を新たに設けて、彼らにその拠点の管理を任せる様取り計らってもらえんか?」


すみません、理解できません。

どういう事でそうなるんでしょう?


「今回は未遂じゃからな、幸か不幸か証拠が有る訳でもない。

公表は出来んが我々の諜報活動と宰相の技能任せの推測も多分に含まれているから裁判にかけても無罪になる可能性が高い。

一度無罪の判決が出ると次に起訴する為の証拠集めがさらにきつくなるでな」


ん?


「奴らはお前の、インビジブルウルフ騎士爵の家臣として仕える様に辞令を出そう。

制約魔法だったか?お前のそれを使えば人の管理も容易だろうて」


人権無視した様な事をさらりと言ってくるな。

でも、彼らは被疑者でしょう?ネズナロス教国と繋がっている。

危険は無いのですか。


「無いとは断言できませんが、今回の事も本人たちには悪意が有っての事では無い様なのですよ。

それが厄介と言えばそうなのですが・・・。

昔から真面目で真っすぐな子達でしたから、そこを突かれて『世界の加護持ちへの貢献の為』にと唆された様です」


ソフィー様は彼らをやけに信頼しているのですね。


「教え子ですからね」

・・・なるほど。


「まあ、私の能力での判断も有っての事だがな」

宰相閣下の技能にも興味はありますが、今はツッコみません。



「この件はゆっくりでいい、それこそあの双子の件が片付いてからでも構わん。

なに、ほとぼりが冷めるまでしばらく大人しくしてもらうだけじゃ。

あやつらも文官としてはそれなりに優秀なのでな、無駄にするわけにもいかんからのう」


あの、その・・・家臣としての給金なんかはどうすればいいんでしょう?

どの位の相場なんですかね。

今のうちに聞いておきたいのです。

少なくとも3人の貴族様は俺より爵位は上な訳でしょう?


「それなら大丈夫だ、後でその辺の話もつけておくように手配しよう。

しかし、お前自分の収入は管理しておらんのか?」

宰相閣下から驚かれる。


いやー最近忙しくて、支払いは滞らせないようキッチリ対応はしてますよ。


「騎士の給金の他に技術使用料とか魔獣討伐の報酬とか、騎乗動物の利用料、作品の代金とか・・・収入と支出の単純計算だが向こう50年間は、そうだな家臣10人程度なら給金支払い続けても問題なさそうだぞ、広くは無いが王都の領地も有るしな」


なんで俺より資産の内容詳しいんですか、ああ銀行口座のお金の流れを監視していると、なるほど・・・恐ろしいな。



しかし、家臣を付けて戴ける件、それであれば時間も確保できるようですし問題無いかと。

俺も仕事を手伝ってくれる人が居るのは単純に有難いし。




「ではまずは事を起す為の段取りに入るか。

時間はあるか?1週間ほどで間者の人相書きの作成と宿泊している宿を確認しておいてほしい。

我が国民の協力者も居るかもしれんが、取りあえずネズナロス教国人に絞って、王都に居る者すべてを洗っておいてくれ」


承知しました。

まあ、大丈夫だと思います。



「うむ、ではその後の事はこちらで始末をつける。

お前はそちらに”直接”接触してきた者達への対処を頼む、対処の判断は任せるのでな」



少し細々した内容の擦り合わせは有ったが打合せはこれで終了。

俺の仕事は明日からだ。


しかし資料室の司書さんも確認しておいた方が良いだろうな。

無自覚で情報を向こうへ流している可能性も有りそうだ。



ああ、治癒魔法協会への先ぶれもお願いしないと。

今日の内に現状受け持っている仕事の優先順位を確認しておいた方が良いな。



・・・こう考えると家臣として人員を提供してくれるのは有難い。

マネージャー、秘書的な感じで管理業務を任せる事が出来れば、俺は仕事そのものに集中できる。


うん、今回の話は有効に活用させて頂こう。

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