第153話 辞令

煩わしい事が解決し晴れやかな気分で内謁に伺う俺、クルトンです。


今日はアスキアさんの案内のもと、ソフィー様も一緒に陛下の執務室へ向かいます

狸を抱いたドレス姿のシンシアとポム達も一緒です。


「姫様は途中から合流なされますので」

そう言うアスキアさん、姫様も気を使わなくても良いのに。




執務室へ到着し中へ通されると早速陛下からのお言葉。

「よく来た、まずは座ってくれ。早速だが色々ありすぎてな簡単な話から済ませてしまおう。まずは王笏から頼む」


承知しました。

と、その前にすみません、先に弟子の紹介をさせて頂きたいのですが・・・。


「おお、おおそうだったのう!隣のお嬢さんだろう。名はシンシア、大麦村の出身だったな。あそこの大麦は城にも備蓄が有ってな、食欲がない時など粥にして食っとる」


え、平民の情報が筒抜けですか。


「お前の弟子なのだろう?ならば身辺調査は怠らん」


じゃあ治癒魔法師見習いの件も御存じで?


「当然じゃ、治癒魔法師というだけで身辺調査の対象になってもおかしくないからのう、才能だけのおかしな奴なら監視対象じゃ。

シンシアに関しては見習いとはいえかなりの使い手と聞いておる。魔法の手ほどきを受けて半年も経たんのに末恐ろしいのう」


ここでシンシアが立ち上がり挨拶する。

「大麦村のシンシアです、お目通り頂き有難う御座います」


交差させた両手を胸に当て軽く膝を折り深く頭を下げる。

その後ソファーに座り直すと陛下からお声がけいただく。


「うむ、クルトンの技を受け継いでいる最中だとか。期待しておる、しっかり精進するように」


「はい」



こんな感じで良いだろう。

早速出されたお茶と菓子に夢中になっている内に陛下との話を進めてしまおう。



王笏の件、5枚のデザイン画をテーブルに並べ一つ一つ説明していきます。

陛下から見て右から左に行くに従い前衛的なデザインになっていきます。


「これなどは流行りに左右されないオーソドックスな物、こちらの方はカサンドラ工房の若手が中心にデザインしたかなり挑戦的なものとなっております」


「かなり攻めておるのう・・・ちと理解できん」

そうですね、正直俺もそう思いますが思いのほか洗練されたデザインになっていて例えば・・・ほら、距離を置いて見てみるとグリフォンの見た目というよりも動き、躍動感が感じられませんか?


そう言いながらデザイン画を持って部屋の隅まで移動、陛下から距離を取り眺めてもらう。


「ほう!確かに、面白いな」

お使いになられる陛下が王笏を振るった時のお姿に馴染む様なデザインがよろしいかと。


「また難しい事を言いよる」

ですよね。

なので各デザインの象徴となる柄頭のサンプルを赤樫で作ってきました。

適当な杖に付けてご自分で鏡を見て確認してみてください。


そう言うとバッグをゴソゴソして各デザインの柄頭をテーブルに並べる。


通常暗殺を警戒して陛下が居る部屋への武器、バッグ類の持ち込みは許可されないのだが俺は特例。

仕方ないよね、武器持って無くても何も変わらないんだもの。


「しかしよくこんなに見事に拵えるものよなあ。見本というにはもったいない」

有難う御座います。

柄頭の底に数字を彫り込んでますのでデザインが決まったら番号で教えて頂ければ大丈夫です。

あと材料の方もいつ頃入手できるか教えてください。

注文書発行いただくタイミングで連絡いただければ構いませんので。


そう言って見積もり書を渡す。


「分かった、検討させてもらおう。で、次の話じゃがこれは予定していなかったがあの狂信者どもの件、助かった。

我が国は昔から経済に重きを置いた政をなしておったから法の下での搦手へは対処が後手に回る事が多くてな。

王家の強権を振るえば何とでもなったかもしれんが、そうすると商人たちは逃げて行ってしまうでな、なかなか取り締まる事も難しかったのだよ」


なるほど、政治と経済は密接に関係していて切り離すことは難しいですからね。

強権を振るう王家を見てしまえばいつか経済に、自分たちの商売に強権を行使されるかもしれないと商人たちが疑心暗鬼になる訳ですね。


「ほうほう、良く分かっておるのう。役人どもに同じ話をしても理解する者は極々少数だと言うのに」

うんうん頷いてます。


「王都限定とはいえ2日で駆逐できたのは奇跡じゃの。表立って褒章は出せんが故郷の開拓村への便宜を図る様にカンダル侯爵へ伝えておこう。期待しておれ」

有難き幸せ、マジ感謝。



「次は資産登録の件か、まあ登録が順当じゃろうな。お前の手を煩わせない様にして手続きを進めるよう言っておこう、面倒くさいと思っておるんじゃろう?手続きそのものが」

はい、おっしゃる通りです、有難う御座います。

手のひらを合わせ拝む様な仕草をする俺。




「最後は、まあクルトン・インビジブルウルフ卿の能力とそれに伴う諸々の成果物、国への影響についてじゃが・・・一つ一つ洗い出していくのはキリがないでな、それこそ面倒でもあるし」

本音をぶっちゃけやがった。


「根本的解決を図るにあたりクルトンにはある組織に所属し役職を持ってもらう」

はあ・・・さようでございますか、面倒くさそうですが仕方ないのでしょうね。



「そう、仕方ないのじゃよ、儂でもお主の影響で起こる事象に予測付かんからのう。今回のロミネリア教の件が良い例じゃ。

なので何か有っても自己完結できる組織、役職でいてもらう」

権限を預かる代わりに責任も取れって事ですね、うん俺完璧に理解した。


「いつも話が早くて助かる、そこは本当に助かる。

で、辞令じゃが・・・コホン、では頼む」



「はい、では」

宰相閣下が執務机に置いてあった盆の上から羊皮紙を取り、それを解くと内容を読み上げる。


「本日付で騎士爵クルトン・インビジブルウルフは『元老院』へ転属、副議長の役職を任命する」




ん?どっかで聞いたことあるな、その組織。

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