第154話 新生元老院

記憶の底から情報を掬い上げようとするも何かが邪魔をしているような感覚に襲われている俺、クルトンです。



はい、嘘です。

直ぐに思い出しましたよ、あの爺さんどもが居た組織だ。

まだ有ったの。



「当り前じゃ。一応元老院は15名体制でな、この前裁きを受けたのは6名じゃから後9名いる」

ええ~面倒くさいのがまだそんなにいるのですか。


「まあ、残ったのも些か面倒な奴らばかりだがその9名は学者、研究者じゃ。悪党というよりも自分の研究欲に忠実なあまり性格をこじらせたような奴らでなぁ。

研究に向き合う姿勢は純粋で誠実な者ばかりじゃよ。

ただ一般人に理解はしてもらえんから元老院にぶち込まれたんじゃがな!」


「しかし周りの者を巻き込む迷惑さ加減は看過できませんよ、クルトンが発見した深層の魔獣の時は処理用の薬品の臭いで研究所近くの食事処や屋台が軒並み休業しなければならなくなったんですから」

そう、ソフィー様が情報を付け足し陛下へ苦言を呈している。


眉をひそめながらソフィー様がそう言ってるところ見るに、ぼんやりした俺でも想像できる位に相当だったんだな、その匂い。


「それでじゃ、職人気質のお前となら気が合いそうだと思ったのと、単純な力だけではなく正論でもって奴らをねじ伏せられるんじゃないかと。奴らの手綱を握っていい塩梅に御するのではないかと思ってな、どうだ?」

そんな買い被らないでください、そのメンバーとは会った事ないんですから。

それにそもそもその組織に所属したとして通常は王都にいませんよ、俺。


「別に構わんよ、何かの時には呼ぶから」

出たよ!権力者ムーブ。

自分が偉いからってなんでも思い通りになると思わんでくだs・・・なるね。

王様だもんね、そうじゃないと秩序守れんよね。

大変失礼しました。


「理解してもらえて何よりじゃ。

それでクルトンは副議長、組織の長である議長をソフィーが、書記がアスキア、その他暴力装置としてデデリとレイニー、スージミを加えて合計6名を充当する」

うわぁ、王族派(想像)で固めやがった。

暴力装置も何気に凶悪だ。


「組織を動かす為に人事を掌握するのは基本じゃよ」

次は為政者ムーブですか。


「とりあえず新生元老院はこのメンバーで運営してもらう。法律の枠内であれば基本儂の許可なしで事業の企画立案、業務の遂行してもらって構わない。ただし何かの時には責任取って貰うがな。

あと、そもそも太古の元老院は立法府の役割も果たしていた。

建設的な意見は政に反映させることも考えるので、ぜひとも誇りを持って仕事に向き合ってほしい」



はい、はい!質問が有ります。


「なんじゃ?」

報酬はいかほどですか?

俺の今の年収に見合わない様なら辞退させて頂きたいです!


職人に対して不当な低賃金労働の強要はご法度です。



「うーん、今の元老院は名誉職だからのう、報酬は実質スズメの涙ほどじゃ。交通費の実費は出るが・・・あとは飯代、お茶代くらいじゃがお前には意味無いのう」

ええ、国内限定ですけど交通費免除の割符頂いてますし。



「陛下、それでしたら王城の書庫への入室許可証でも発行してはいかがでしょう。賢き者は財宝よりも知識と時間を求めるとも言います。それに未解読の文献もありますからクルトンに一度見てもらうのも良いのではないでしょうか」


「そうじゃのう、どうだ?報酬は"王城の書庫"への入出許可証で。もちろん元老院を引退する時に返却してもらう事にはなるが」



宰相閣下の提案に陛下が同意し俺に聞いてきます。


「喜んで!」

二つ返事です。

想像だけど多分来訪者の情報が有ると思うんだ、その情報によっては魔法の発展に直接影響する物も有るかもしれない。

神に比類した生命体の情報、ワクワクが止まらない。

まあ、そんな情報は存在すると決まったわけではないが其処に夢はある。


「決まりじゃな、では頼む。さしあたり元老院主導で騎乗動物の繁殖事業を進めてくれまいか。

これが軌道に乗れば他国からの同盟要請ひっきりなしになると思うのだよ。

同盟により互いの国が安定すれば経済にも多大な恩恵を得る事が出来るだろう。その結果金が循環し、税収が上がりやれる事が増える」


ウハウハって事ですね、分かります。



まあ、この世界では戦車や戦闘機に相当する生物の繁殖が軌道に乗れば結構な影響出るでしょうな。


でもそれって俺の法人でやる事業ですよね?

確認ですけど主導権はこちらで良いんですよね。


言質を取る為陛下に直接聞きます。

内謁だからできる事、正式な謁見だったら陛下のご尊顔を拝する事ですら作法の制限がかかるし。


「ああ、官民共同事業といったところじゃな。予算を出すからには口も出すがそもそも捕獲は今のところクルトン頼みじゃからの。まずは自分のやり易いように人を動かしてみればいい」


おう、これが責任を取るって事ですか。

あんまり深く考えて病んでしまうといけないので緩く頑張ろう。




「それとな、お主のスレイプニル、デデリのグリフォンの情報が国外にも出回っているようでな。

予測はしていたし、情報の制限もしておらんかったから当然と言えば当然なんじゃが・・・」


なんか陛下の歯切れが悪い、なんか面倒事ですか?


「うむ、因みに隣国の事は何か知っているか?」

?いえ全然、突然なんでしょう、隣国って。


隣国の情報を尋ねられ、そう言えばこの国の名前すら知らなかったなと気付く。

俺、うっかりさん。


「妙な所で知識が抜けておるのう」

額に手をあてガックリ肩を落とす陛下。


だって不都合無かったんですもの。

開拓村で俺くらいの歳の者は知らない人多いと思いますよ。

交易都市コルネンの名はよく聞きますけど国名は話題にもなりませんし。


「はあ・・・陛下、もう少し辺境の国民への教育に力を入れた政策を考えた方がよろしいかと。早速ですが元老院議長からの提言ですわ」


「そうじゃのう・・・ちなみに我が国の国名は『タリシニセリアン』、古代語で『来訪者セリアンの従者』という意味じゃ」

「一般に『セリアン』と言ったら我が国の事じゃ」と追加情報。


ほうほう。

国名情報を国王陛下から直接教えてもらう。

なんて贅沢。



「そして今回話をする隣国は『ベルニイス』、通称『戦士の国』と呼ばれている」

陛下からの言葉を引き継ぎ宰相閣下が説明します。


その隣国の話がなぜここで俺に伝えられるのか。

厄介ごとですね、分かります。

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