第152話 恥辱の代償
それの発生源は王城だったと言われている。
今まで談笑していた役人が突然意識を失い倒れた。
あまりに突然だった為に話していた相手は何も反応できずに動きが止まるが気付いた周りの者が声を出しながら駆け寄ってくる。
「どうしたんだ!!」
「いや、えっとちょっとなんだろう・・・おい、おい!大丈夫か?!
誰か!衛兵を!衛兵を呼んでくれ、早く!!」
それは始まりにすぎず、王城を中心に波紋が広がる様に王都全域へその『現象』は広まって行った。
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「なんだ!どうなっているんだ!」
急遽救護室として使われた会議室に患者が収容される。
衛兵によって隔離されたそこに3人の治癒魔法師が呼ばれ、患者の症状を確認していく。
深い眠り、昏睡状態であることは分かる。
しかしその原因が分からない。
『気付けの魔法』を使うも全く目を覚ます様子が無い、こんな事は初めてだと訝しがる治癒魔法師たち。
「これは呪いなのではないのか?」
「いや、呪いであれば魔力の残滓から術者まで追跡できるだろう、我々ですらそれが全く確認できない」
「然り、もしこれが呪いならわしらに出来る事は何もないぞ、これはただ寝ているだけだ。そこが全く解せないところだが・・・」
「しかし気付けの魔法も全く効かないのですよ?いつ目を覚ますか予想が付かない」
「1日・・・1日様子を見よう、もちろん私たちが交代でここの患者の様態を監視していく、よいな?何かあれば夜中でも構わずたたき起こせ」
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「おい、おい、目を覚ませよ!」
「ねえ、誰か来て!彼がいきなり倒れたの!」
「なんなんだよ!あっちも・・こっちも・・・」
小さくない混乱が王都内でいくつも起こるがすかさず衛兵が駆け付け患者を救護、「大丈夫、寝ているだけです」と場を治める様に立ち回ると混乱は次第に収束していった。
患者はすぐに荷馬車に乗せ最寄りの広場へ運搬、そこに急遽張ったテント、野戦病院さながらの天幕の中に次々収容していく。
広場に対策本部として別に張ったテントの中、
騎士団、衛兵の指揮を執っているスージミ大隊長がため息をつきながらごちる。
「まだまだ100人にもいってないか・・・という事は残り150人位か?仕事が早すぎるんだよ、こっちが追いつかないっての」
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何なんだ?
分かっている事は明らかに我々のみを狙ってきている事だ。
ロミネリア教徒を狙い撃ちしている。
だが誰が?魔法だろうがどうやってこの規模を?ほぼ王都全域をここまで大胆に。
「・・・どうやって我々を選別している、しかもこれだけ正確に?」
「知らなくても良いことだ」
「!誰だ。
ハハッ!姿を見せないとは・・・かなりの臆病者だな、しかも卑怯者ときたものだ(笑)」
しかし無駄な事だ、すぐに私の前に姿を表し跪くだろう。
そう『思考誘導』の魔法は無指向性、私の周り半径5m程の射程に入った時点でこいつの負けが確定する。
何処の誰かは知らんが、お前は私の手ごまの一つに成り下がるんだよ。
「救いはないが・・・慈悲を与えよう、これからのお前の生涯は治癒魔法師ロミネリアへの贖罪に費やすんだ」
そしてその言葉の意味を理解する前にこの男の意識は途切れた。
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「スージミさんいますか?」
そう言いながらテントの中に茶色い短髪の大男が窮屈そうに顔を出してくる。
「ああ、無事終わりましたよ」
おお、そうか。
それで最後のヤツはどうした?
「屋敷の門前に転がしてあります。丁度追い付いた騎士さんに引き継ぎましたので」
分かった、ご苦労さん。
今回の大捕り物で王都の治安も随分と良くなる、感謝するよ。
「どういたしまして、では俺はこれで」
ああ、気を付けて(笑)帰れよ。
しかしあの貴族のお抱え魔術師が教団幹部とはねぇ・・・裏を取る必要はあるがソフィー様も忙しくなるな、ご愁傷様。
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今回の王都での騒動は稀代の治癒魔法師、『ロミネリア』の名を利用し尊厳を傷つけた教団への祟りでは無いかとの噂が流れた。
この騒動以降も凡そ40年の間、ロミネリア教の教義が形骸化する頃合いまで信徒が突然昏睡する事件は国中で度々発生し、
いつしかそれは『恥辱の代償』と呼ばれ、他者を貶める事への教訓やその報いを表す言葉として語りつがれていく事となる。
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