第36話 魔獣との邂逅

眉と一緒に気配を顰めている俺、クルトンです。


厄介なことが起きています、魔獣が来ました。

何度も言いますがかなり不味い状況です。

不幸中の幸いなのは1頭だけという事。


村にいた時、騎士団員さんから魔獣の事はよく聞いてました。

実物を見た事はありませんが、あれが魔獣という事は簡単に見分けがつきます。


目玉が四つ以上ある事、今回は六つあります。

炎に寄ってくる事、人間に向かって行く本能を持っている魔獣は人間の姿が見えなくても炎や人の声、二足歩行の足音などに寄ってきます。

炎なんかは馬車馬や騎乗動物などの人からの訓練を受けた動物以外、通常の獣は恐れ寄ってきません。

今回は俺が出している魔法の炎から発せられた光を目指してこちらに移動して来ているようです。

遮蔽物の無い草原なので遠くからでも見えたのでしょう。


急いで魔法を消します。


認識阻害の効果が魔獣に通用するかは試したことが無いので分かりませんが、とりあえずじっと動かないで様子を見ます。


フォネル副隊長から戦闘能力については太鼓判を押してもらいましたが、なに分魔獣との遭遇が初めてです。

しかし、このまま逃げる選択肢は考えていません。


本来魔物はこんなところに出てきません。

何処の森や山にも来訪者が施した結界があり、その内側で生活しています。

結界に近づくに従い方向感覚が狂うそうで、結界まで到達するのはほぼ不可能で偶発的に放り出されたり個体数が増えて物理的に追いやられた魔獣が狂乱状態で越えてくるのが殆どだとか。

魔獣研究者複数人で遠見の魔法陣を使い長期間観察して分かった事だそうです。


結界を越えてきた魔獣は戻る事も出来ずに森を徘徊しますが、通常はこの段階で定期巡回している騎士さん達に突撃していって討伐される。


しかし今、この状態では俺が引けば遠くに見える王都の灯りに気づいて魔獣が駆け出していくでしょう。

故にここで仕留める、油断は決してしない。



ゆっくりですが確実に魔獣がこちらに歩みを進めてきます。

近づいてよりハッキリ分かりますが大きさは前世で言うサイ位、シルエットはハイエナの様です。

魔法の炎を消した事目標を見失ったのか歩くスピードは遅くなりましたが、いまだ真っすぐこちらに向かってきます。



遭遇は必至でしょう。

先手必勝と弓に矢をつがえます。

いつもとは違い俺謹製の鉄の鏃を付けた矢を使います。

村では鉄も貴重だったので5本だけしかない貴重品です。


目視100m程度まで近づいた時、一番射程が長い弓矢のスキルを思い浮かべ魔獣の額を狙う。

どの獣も額は分厚い頭蓋骨に守られているので矢に今できる精一杯の魔力を込め貫通力と速度を上げる意識で放ちました。


『ボッ』と言う音と同時に一筋の光が魔獣の頭部を貫く様に延び、魔獣の後ろ付近で線香花火の様な淡い火花が散りました。


このスキルの欠点、射線が光の筋として残ってしまうので矢を放った後に射手の場所がバレバレになってしまいます。

なので認識阻害全開ですぐに移動します。


移動の最中も魔獣から目を逸らさずにいると、それはぴたりと動きを止め、そこからゆっくり横倒しに倒れました。


油断せずに近づく、獣でも死んだふりをして油断させることが有ります。

ナイフを左手に持ち、近づく度に右手で投石をバシバシ魔獣に当てて確認。


・・・ここまでして動かないなら大丈夫だろう。

さらに油断せず3m位まで近づくと超低姿勢のタックルをかましざまに魔獣を仰向けにしてその喉にナイフを突き刺しました。


ドロッとした血が流れ出し急いで血抜きの魔法を使う。


ここでやっと一息ついた。

後半の投石やタックルは後から考えれば滑稽だったかもしれないが、もしもの事で死ぬよりよっぽどまし。



そして気になっていた火花が散った付近を散策すると、鏃と思われる金属のひしゃげた破片が見つかった。

鏃が空気の摩擦で燃え尽きたみたいだ。

もったいないけど仕方がない。


その後血抜きが終わった魔獣を担ぎ、皆への言い訳も考えたかったので来た時より少し遅めのスピードで王都へ戻って行った。


焼いていたアナグマの姿焼きをかじりながら。





もう日も沈んだ頃、王都門の前にて

驚かせるのも本意ではないので声が通る位のちょっと離れた場所から手を振り

「ちょっと誰か来てくれーーー」

と叫ぶ。



門兵さんが気付き一人宿直室に伝令走らせたようだ。

暫くして伝令を受けたと思われる兵隊さんがこっちに歩いてきた。


「どーしたんだー」と声を張り上げながら近づいてくる。


「魔獣が出ましたー」と叫ぶと

「マジか!!」と今度は爆走して近づいてきます。



「で、どこに出たんdうおっ!!」

担いできた魔獣に兵隊さんが気付くと走っている勢いが止まらずスライディングのように尻餅をつきました。



斯く斯く云々で一応討伐することができましてね、どうしたらいいですか。


兵隊さんは魔獣を前にまだ放心状態です。

魔獣を下ろし大丈夫ですか?と肩をつかみグワングワン揺らすと正気を取り戻し

「ちょっと待ってろ!いいか、そこから動くなよ!!」

と慌てて戻っていきました。


んん~、二匹目のアナグマ食べながら待ってるか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る