第37話 魔獣の価値

モッシャモッシャ食事をしながら待機している俺、クルトンです。

アナグマ旨い、塩と香草のバランスも絶妙。


ふと魔獣はめちゃくちゃ美味いとの情報を思い出します。

ちょっとくらいとも思いましたが、兵隊さんが来るまでは現状維持した方がいいなと思い直し再びアナグマをかじります。




門からガシャガシャ音が聞こえます。

軍馬に乗ってフルスケールメイルを装備した兵隊さんが・・・10騎以上走ってきました。

って事は騎士か。


俺の目の前で止まり馬から降りてきます。

「・・・魔獣はそれか」

兜で表情は見えませんが少々大きめの声です。

戦場ではよく通る声質。


はい、と答え魔獣をポンポン叩く俺。

この獲物がどれくらいの物か判断付きませんが重さ2tは超えてそう。

通常の狩りの成果と比較すれば規格外の獲物でしょう。


「もう日も落ちた、城壁内に持ち込むが我々が運んでも問題ないか?」

あ、ええ運んでいただけるのならお願いします。



軍馬に遅れて普通の馬が荷馬車を引いてきます。

一応2頭立てなので荷台が結構大きい頑丈な荷馬車です。


それではと魔獣を担ぎ直し荷馬車に衝撃加わらない様にゆっくり積みました。

こんな気遣いのできる俺良いんじゃない?

そんな事にはお構いなく騎士さんたちは腰が引けてるように見えます、多分一人で魔獣を持ち上げた俺にでしょうね。

まあ、そうでしょう。


これからどうすればいいですか?と聞くと

「申し訳ないが状況説明してほしいので兵舎までご同行頂きたい」


魔獣が出ましたから仕方ないですね、食事もっとったし面倒事は早めに済ませましょう。




着た時とは違い荷馬車のスピードに合わせ、魔獣を隠すように騎士さんが荷馬車の周りを固めます。

勿論俺は徒歩です。


到着した兵舎、でもさすが王都かなり大きいです。

馬もいるからそりゃそうか。

早速応接室の様な所に案内されました。

暖かいお茶も頂いています。

取調室の様な所でなくてホッとしている俺がいます。

やらかしたつもりはないけど俺が重要参考人であることには変わりないから。


暫くすると髭モジャがこの部屋に入ってきました。

「第3騎士団門外警備担当のスージミ大隊長だ、名前を聞いても?」


あ、交易都市コルネンのカサンドラ宝飾工房にお世話になっています宝飾師のクルトンです。


大隊長さん、なんか微妙な顔になってます。

「宝飾師?そのガタイでか」


ええ、このガタイでです。その他にもパン屋の手伝いもしていますよ。


「・・・まあいい、スマンが魔物を発見した場所も踏まえ時系列順に状況を説明してくれないか」

承知いたしました。


斯く斯く云々でこういった状況になりました。

大隊長さんが厳し顔でこっちを向きます。

「説明は満点だ、とても分かり易い。隊の若手に聞かせたやりたいくらいだよ。しかし本当に額への一発で仕留めたのか?」


はい。


「ちょっと席を外す、魔獣の外観確認作業は進めさせてもらうがいいな?」

ん?構いませんけど。


それを聞いて部屋から出ていきます。

そして暫くして戻ってきました。


「確かに額に穴が有った、後頭部には矢が抜けたんだろうな内側から吹き飛んだ様な大きめの跡があった。これが致命傷だな。あと胴体部に数か所の打撲と首に深い刃物傷。これはとどめと血抜きの為って事だったか、いい判断だ。」

いやーそれ程でも。


「それ程の事なんだがな・・・まあ今は話を進める、今回の魔獣は計量の結果2529kg。詳細はこれからだがかなりの大物だ、これ以上の鑑識作業は討伐者である君の許可がいる為書類へのサインをしてもらいたい。断っても構わないが何とかお願いしたい」

スージミ大隊長が起立して目を伏せる。

日本でいる頭を下げている意思表示です。



魔獣って凄く美味しいって聞いたんですけど本当ですか?

「ん、ああ、美味いぞ物凄く。特に肝臓と脳みそは絶品だ」


そうですか、そうですか。

それだけの重量あるなら肉を100kg位貰えればいいですよ。


「・・・後々トラブルなるとまずいから説明した方がいいな」

そう言うと部屋のクローゼットみたいなところから黒い大きな板を引っ張り出します。

台が付いた黒板です。

これに今回の魔獣をディフォルメした様な絵を描き説明しだしました。

大隊長さん何気に絵美味いですね。



「魔獣は色々な使用用途が有る」

黒板を巧みに使い説明します。

話の要約はこうです。


魔獣はとても貴重な素材になる。

内臓、血管、筋肉、脳は可食部に、すこぶる美味い。

筋なんかは弓の弦に加工できる。

皮も食べれるが硬すぎるので好んで食べるものはいない。

ただしその殆どが鞣して鎧やマントなんかに活用され、

「これで作ったグローブは最高級品だ」

って言ってました。


ほうほう興味あります。


魔獣の種類にもよるが爪なんかは特殊な薬品に漬け込みその後形成、張り合わせて衝撃吸収材なんかになるそうだ。

王家の馬車にはこれが使用されていて乗り心地が段違いだとか。

偶に手甲に仕込む人もいるみたい。


あと骨も重要で炭なんかの炎の出ない熱で炙り続けると表面部分は白く石灰のようになり・・・実際に畑に散布するそうな、

芯の様に残る部位は精錬してミスリルになるとか。

牙はそのまま精錬してミスリルになるそうな。


ってマジですか!

ミスリル見た事ないんですけど!!

マジ存在してたんですか、ミスリル!!!


本日一番の取り乱しっぷりに大隊長さんが俺を宥めます。


通常は騎士団が中隊規模以上の人員を割いて討伐する事案の為、魔獣の所有者は国になるから問題ないんだが、今回は一般人の俺が討伐してしまったものだから手続きが必要と。

ごくごく稀に騎士団上がりのOB隊が討伐する事が有り、今回の様な手続きを行う事が有るとか。

で、俺がこの魔獣の価値が分かっていないようだから後々のトラブル回避の為に今回説明してくれたと。


有難う御座います。

後でコレ知ったら確かに裁判起こしていたかもしれません。



大隊長さんがまともな人で良かったわぁ。

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