第84話 オリハルコン

なめていた、こんなことになろうとは。

ぐったりしている俺、クルトンです。



腕時計への最後の仕上げとばかりに魔力を充填してはや4日、全然溜っている感じがしない。

実はどこかに漏れ出ているんじゃないかと疑ったがそんな事もない。

ここまでくると凄まじい充填量になる可能性を考え他の方法を試してみようと思い立つ。


腕時計が入る位のオリハルコン製の小さな箱を作る。

蓋付のただ四角の箱に魔素吸収、魔力変換、そののち箱の内側へ魔力放出の付与術式を刻み放出された魔力が集中する中央に腕時計を置く。


魔素吸収、魔力変換の付与は腕時計にも刻んであるのだが、この箱は所謂パラボラアンテナの様な役割を持たせてわずかな魔素も積極的に集める仕組みにしている。


これを魔獣のいる森に暫く放置する。

太古の頃から魔獣のいる森の中は大気に魔素が潤沢に含まれていると言われていてそれを利用する。


本音を言えばこれに俺がかかりっきりになると他が何も進まないから苦肉の策である。

ホント大変なのよ。



という事でやって来ました、久々の『黒の森』。

コルネンからムーシカに乗って1週間かかった。

急がなかったとはいえ結構遠い。


でもここなら大丈夫だろう。

人も入ってこないし盗まれる心配もないだろう。

一応人避け、動物避けの付与を織り込んだ迷彩柄の風呂敷に腕時計が入った箱を包んでいるし、姫様に何かあった時の為に追跡できる様、最初から発信機に相当する部品も組み込んであるから何かのトラブルで移動してしまっても何とかなる。

抜かりはない、多分。


森の中、かなり奥までムーシカと一緒にズンズン入って行ってよさげな所を発見、近くの木に登りステンレスワイヤー製のネットに入れて枝に固定する。

少なくとも見上げないと分からない様に設置場所も工夫して。


当然ネットも金属むき出しではなく茶色の塗料でコーティングして、光が当たっても反射しない様に気を遣う。


・・・発信機組み込んでなきゃ次来た時多分見つけられないな。

これだけの物を放置するのはさすがに心配ではあるがどうしようもないと諦める。

最悪の時は手元にあるスペアパーツでもう一個組み上げ間に合わせよう。


まずは1ヶ月後に様子を見に来よう。



1ヶ月とは言ったがここまでの片道1週間かかるのでコルネンでの作業期間はおよそ2週間。

戻ってきて早々に外装箱の製作に取り掛かる。

まあ、ロ〇ックスのまるパクリなんですけど。

ただ素材は同じにはならないので木箱に深緑に染めたアル〇ンターラ調の革を、内側には少々明るめのアイボリー色の布地を張り付ける。

内側はそこにマットになる土台を拵え、腕時計のすわりが良いように凹凸も作って。

少し大きめの箱にしているのでオルゴールも組み込んだ。


そして革で作ったトランプ位の大きさのカードへ腕時計の製作に携わった工房の職人たちと俺の名前を刻んで添える様に箱の中にそっと入れる。


蓋の内側にはあえて何も装飾を施していない。

ここは贈り主である国王陛下からの祝いの言葉を印刷する予定だ。


これで一応の準備は整った。

後は腕時計の魔力充填がいつ終わるか・・・現状でも十分充填されているだろうが限界を確認したいってものあるしね。



もう地図無しでも来れますね、黒の森。

放置していた箱も動いていないようで森に入り、箱の近くまで分け入るとすぐに場所分かりました。


だってキラキラしてるんですもの。

ネットの中の風呂敷から光が漏れ出してキラキラしてるんですもの。


迷彩柄の風呂敷に人避け、動物避けの付与していなかったらどうなった事か・・・。

どの位魔力が充填されているか正直見当がつかない。

確認するのか怖い。


しかし、そうも言ってられないのでネットごと風呂敷を取って木から地面に降りる。

眩しくてちょっと目がチカチカする、今更だけどサングラスでも作ればよかった。


いや、前世のエスキモーの人達が遮光器だかサングラスに相当するもの作ってたよな。

あれなら木と紐で出来るし作ってみよう。




ちょっと困惑しています。

遮光器は何事もなく作り上げることができた。

サングラスとしての性能も問題ない、目へのダメージも無いくらい光が減衰している。


困惑しているのは

腕時計キラキラやん・・・

直視できないやん・・・

文字盤見れないやん・・・。


どうしよう、魔力は満充填に近い、タップリ充填されてる様だ。

俺が圧力かけるイメージで魔力注いでも少しづつしか入って行かなかったから。

この結果だけ見れば俺よくやったと自画自賛したいくらい。


でもオリハルコンってこんなに光るの。

とんでもねえよ。


魔力の問題解決したらすさまじい照明になりますよ。


いやいや、そうじゃない。

このままだと身に付けれない。

姫様光っちゃう、どうしよう・・・。


いや、こんな特性有るなんて知らなかったし・・・しょうがないんだ。

遮光する為に別の金属をメッキ、コーティングすればいいじゃないか。

魔力充填したら光っちゃうんだから、これはしょうがなんだよ、うん。


・・・いや、そう言えば金属じゃないがアレが有ったな。

多分俺のスキルで対応可能だな、今やってみよう。

幸い森であるここには炭素は十分、それで黒鉛も精製すれば大丈夫だ。

きっとできる、良く分からないところはこの世界のアシストが働くから問題ない、魔力はかなり消費するけど。


作業に取り掛かりまずは近くの木を伐採、そこから炭素を精製する。

これだけでもチート。


ここから炭素の分子配列から黒鉛、そしてそれを内包したダイヤモンドを作る。

小一時間くらい試行錯誤したが・・・できた、ブラックダイヤモンド。

とりあえず1カラットくらいの大きさ。

成り行きとはいえヤベえもん作っちまったな、俺。


でもこうするしかなかったんだ、諦めろ俺。

チェルナー姫様のせい・・・ゲフンゲフン、

チェルナー姫様の為じゃないか。


相変わらず遮光器を掛けたまま魔力を触媒にして、炭素とあらかじめ分子構造を弄って黒鉛にした粉状の物を手に持った腕時計にまとわりつかせる。

まんべんなく隙間が無いようにしっかりメッキの様な仕上がりを意識して。

ブラックダイヤモンドでコーティングするように、しっかり遮光性能も意識して・・・・。



終わった・・・3時間かかった、マジハンパねえ。

森で分解して部品毎にコーティングするわけにもいかないからかなり気を使った。

オリハルコン光りすぎなんだよ、全く。


十分な遮光性を持たせる為にダイヤモンドの色を徐々に濃くするのと合わせて塗膜を厚くしていって何とかベルト接合部の隙間(アソビ)を埋めないように、部品同士が干渉しないところで抑えることができた。

ケースとベルトのみオリハルコン使ったけど(つまり重量ベースで一番使ってる)スケルトンにしているから内部の部品までオリハルコン使ってたら詰んでたな。


遮光したとは言っても完全じゃない。

完全にしてしまうとただ黒い見た目になってしまうのでちょっと抑えてみた。

結果明るいところでも暗闇でも淡く、ほんのり光を発している状態に見える。

ブラックダイヤモンドを透過したオリハルコンの赤みがかった黄金色の光がかなり幻想的。

なかなか良いんじゃない?

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