第198話 マップ

あれからパン屋の仕事は何事も無く終わり、晩御飯の後の細々とした用事も済ませてベッドに横になる。


早速マップ情報を確認しようと意気込んでいる俺、クルトンです。



如何せん情報が多すぎる。

脳内でマップを展開し現在地を確認すると真っ暗な情報が浮かぶ。


ああ、多分こういう事かな?とアタリを付けて視点を一旦引いてから右に移していくと、だんだんマップの表記が明るくなる。


うん、俺の見慣れた地図の通り上が北で東が右、そして現在地が暗くて見えなかったのはその場所が夜だったからだろう。

現在地に視線を戻し、周りの明るさが移り変わるのを確認するに時間軸は完全に現実世界とリンクしている様だ。



しかし・・・ゲームでは羊皮紙に線画の地図の様な表現だったが今俺が認識しているマップはグー〇ルアースの様なリアルな表現、しかも視点を地面に近づけるとちゃんと高低差も表現された3Dデータその物が再現されている。


これはこれでとてもえげつない事なのだけど各国の国境線などは明確な目印が有る話ではないので位置関係をデフォルメしていないこの地図は感覚的に非常に分かりずらい。


森、山、川の位置から国境線は大体こんなもんかな?と想像できる位だ。

つまり人が決めた境界線は全く確認する事が出来ない。


騎士団で公開してもらえる地図を見せてもらおう、そして情報を追加しよう。



それからマップに夜目のスキルをリンクさせ、夜間でも地形を確認できる様にすると、タリシニセリアンから馬車で凡そ1か月の道のりにある都市を探し「ベルニイスの王都はここかな?」などと想像しながら地図を眺めていると、それだけで時間が溶けていく。


不味い、今日はここまで、早く寝よう。



翌朝いつもの通り窯への火入れを行いパンを焼く。


「やっぱりクルトンがいると効率が全然違うな。俺たちも精進しないとな」

従兄弟にあたる叔父さんの息子さんたちが手を動かしながらそう言います。


朝は2人で手分けして配達していますが、もちろんパン作りに関してアイザック叔父さん、ベルケお爺さんから厳しく仕込まれているのでパン職人として既に一人前です。


忙しい時間には外部にお手伝いもお願いしているし、店を切り盛りしていく分には人員もパンの味も問題ないとは思いますがそれでも効率の事を言うという事は今でも仕事量が増え続けていってるんでしょうか。


「暖簾分けの事を考えてるんだろうな、良い事だ」

これまたアイザック叔父さんが手を動かしながらそう言います。


暖簾分けって事は独立するって事ですか。

ほえー、でも店が増えても人口が増えないとパンの需要って上がってかないんじゃないですか?

無計画に出店しても価格のチキンレースの末に業界が衰退してしまっては問題でしょうし。


まあ、パンは主食なのである程度の所で行政が出張ってくるんでしょうけど。

生活の根幹を支える主食のパン、正確にはパン用に製粉した小麦には特別な補助金出す都市もあるらしいですからね。


有る意味、豊かさの指標になってます。



「まあ、その辺は大丈夫だろうな。ってか今のコルネンは食料の供給不足気味でこの解決が喫緊の課題らしい。

この前、口の堅い徴税官がそう言ってたくらいだ。

人口もそうだが誰かさんのお陰でコルネンを訪れる商隊の数が増えてるらしいからな」


へー、そうなんですね、戦争でもないのに。

「・・・誰かさんってのはお前の事だぞ」


?なぜに。

いや、商隊って事は・・・何割かは外国の間者が混じってるか。

そうか、でも金を落としてくれているんでしょう。

治安の悪化につながらなければ問題ないような気もする。


どうせ俺を調べても何も持ち帰れないだろうし。




「今までお前は、機密に関わる物は違うんだろうがそれ以外の技術は無償で公開してるだろう?

食いもんのレシピなんか本を作って食事処に配ってたじゃないか。

・・・そう言えばどうやってあんな立派な装丁に整えられるんだ?」


俺、自分が食うもんは美味いもん食いたいですから。

それに誰かに作ってもらう飯は格別ですし。


レシピ本という指針となる情報を渡せばその店のノウハウと融合してこの街の人達の好みの味に調整してくれるでしょうし。

実際そうなりましたし。



「まあ、そうだな飯屋の味が良くなるのは俺も大賛成だ。

でだ、話を戻すが商人たちが味を盗みに来てるんだってよ」


『盗む』と聞こえが悪いがこの場合は本当に美味いか確認しに来ているって事。

あと対価を支払って教えを乞う事でもある。


レシピへの対価、価値が上がってきたって事か。

良い事じゃないか。


「飯目当てでコルネンに来たがる行商人も居るくらいだとよ」


お、なんか特産物が出来たみたいで良い感じになってきてるんじゃないですか?

そのうち食事目当てでコルネンの視察を計画する貴族も出てきそうですよ。


一度胃袋を掴まれるとなかなか抜け出せませんからね。

リピーターになってくれればめっけもんです。



「とにかくコルネンでの食品の消費量が右肩上がりなんだとよ、正直俺もパンの小麦に影響でないかヒヤヒヤしているところだ」


そうか、大変だよな、原材料の価格上昇は。

農地が直ぐに拡大できるわけでもないし何とかできないかな。

チート機能であるハウジングでも農地としては規模が小さすぎて無理だし。


「開拓村の開墾を当てにできればいいんだが直ぐにものになる訳でもないからな」


・・・マップで都合の良い土地探してみるか、こんな使い方でもいいよな?

植生、高低差を含めた土地の基本情報は、目視で確認できる事に限られるがあのマップから事前に知る事ができる。


確認といっても画像情報でしかないから現地へ行って実際目で確かめるのは必須。

そこに行くまでの経路も確保しながらだろうからそれなりに時間もかかるが・・・今後の為にもやれるときにやった方が良い。


専門家を引き連れて候補地を確認、問題無ければ開拓作業そのものは国に丸投げしてしまえばいいだろう。


俺は切っ掛けを、その情報を渡してやればいい。

もしダメならあの陛下がストップ掛けるだろうしね。

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