第123話 旅立つ前に
ようやく水牛の解体が終わりました。
今日の焼肉パーティーが待ちきれない俺、クルトンです。
収穫祭とまではいかないけれど、村長主催で昼頃から肉を焼き始めて夜までかけてみんなでワイワイやる食事会みたいなものを行う。
少しだけだがお酒もでる。
ただ焼くだけではなくスープや肉野菜炒めなんかも作って、久しぶりにあの硬いパンと一緒に食べても良いかもしれない。
ああ、1年しか離れていなかったのにあの頃をもう懐かしく感じる。
下拵えは女性陣がするので男衆は大人数をさばくのに必要な竈をいくつか設営していく・・・が、俺の土魔法一発で完了。
鉄板は準備できなかったので金属を線状に加工、網に作り替える。
薪もそのままだと煙が出るので木炭に変え火種を育てて焼肉の準備は着々と進む。
「おいおい、もう何でもありだな」
そんな様子を見て村の男衆が声をかけてくる。
「あんだけ立派な家が有るのにクルトンは野営で十分なんじゃねえか(笑)」
確かに野営するのには困らない技能ですね、馬車もありますから暫くのんびり旅をしたいです。
「のんびりは無理だろう、厄介ごとが向こうから来るだろうよ。今までもそうだったろう?」
うん、反論できない。
まぁ、結果論ですが良い方向にすべて転がって行ったので今では笑い話です。
「ここはお前には狭すぎるんだよ、インビジブルウルフ卿(笑)」
ええ・・・その名前をよくご存じで。
「レビンと飲むときは必ずお前の話になるからな、この村で知らんヤツはいないぞ騎士様」
おう、なんか恥ずかしい。
そろそろ火力も安定してきて肉も運ばれてきた、さあ、どんどん焼きますよ。
俺の調理スキル全開で焼いていきますよ!
塩も香草も良いもの準備してありますから。
「うめえな!塩だけでこんな旨いのか」
「そうだろうよ、氷漬けで運ばれてきたろう?全然肉が傷んでいなかったんだよ」
「なんでこんなに柔らかいの!」
「血抜きも完ぺきだった・・・肝が食えないのが惜しいなあ」
「凄く美味しかったよ!肝」
「良いな~、クレスは」
皆美味しそうに食べて楽しそうに笑っている。
クレスは同年代の女性陣に世話を焼かれてちょっと戸惑ってるけど。
羨まけしからん。
俺謹製の野豚のハムも炭火でじっくり焼いてやるといつもと一味違う旨さが「呼んだ?」って感じで顔を出す。
うん、呼んだ。だからもっと旨くなれ。
皆楽しそうに飲んで食って騒いでいる。
酒癖が悪い奴はこの村にはいない。
そもそもこの新人類の頑強な体ではエールやワイン位なら樽で飲んでも泥酔しない。
毒が利きにくい体故の特徴で、その為酒を飲んでからの乗馬もこの世界では問題視されない。
酔うために飲むのならウィスキーやウォッカ、ただ税率高いから貴族やお金持ちくらいしかなかなか飲めない。
父さんがお土産のウィスキーをちびちび飲むのも分かる。
村の衆に集られない様にコッソリ飲まないとね(笑)
この村は幸運な事に飢える事はほぼ無いが、それでも以前は病気なんかで冬を越せずに亡くなる人は珍しくなかった。
温泉なんかも活用して清潔に過ごすようになってからはそんな事も少なくなったが、全く無いわけではない。
仕事は厳しいが美味いものたらふく食って笑っていられる今、この時の何と幸せな事か・・・。
この村が発展する方向はあくまでも今の延長線上、それを踏まえたうえでの快適な暮らしを目指した方が良いんだろう、ぼんやりとだがそう感じる。
しっかりとした食料の備蓄、安心して冬を越せる家屋、魔獣に怯えずに済む防衛力の備えと強化。
曖昧だったイメージがだんだん形になり始める。
そうだ・・・ライフワークってやつか、俺の生涯の仕事、目標は村の発展に寄与する為の仕事。
何だか俺がやれそうなことはかなり沢山ある様に思える、皆を巻き込めば各々が当事者として誇りある仕事と認識してくれるんじゃないか。
生きる事に追われるだけでない、いつも笑っていられる文明人としての余裕ある生活。
それを目指して何ができるか考えていこう、勿論皆で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます