第334話 ゲームスキル

前回王都に行った際の治癒魔法協会での出来事をオズドラさんに説明している俺、クルトンです。



ポシレマギエさんや、パルトさんの話をすると目を細め「そうかそうか」ととても嬉しそうにうなずいている。


ここ10年程は噂以外で協会本部の内情を知る事が出来ずに心配していたそうだ。

特に在籍当時の同僚や優秀な後輩などに対しては、自分達だけで逃げた様な形になってしまって後ろめたい気持ちも強かったらしく交流は控えていたとの事。



「そうか、パルトはプサニー伯爵様のご子息の誕生に立ち会ったのか。大したものじゃないか」

ええ、立派に勤めを果たされました。



「(ポシレマギエ)先生は相変わらずだな(笑)、もう100も近いだろうに」

え?ポシレマギエさんてまだ100歳越えてないんですか。結構なお爺ちゃんに見えたんだけど。


「先生はね・・・強力な治癒魔法を扱える代わりに制約が多いんだ。内包魔力が多い人間は老化が緩やかなのだけど先生の治癒魔法は命を削るからね。

内包魔力の大きさも意味をなさないんだよ」


「だからこそ私は先生を尊敬しているんだ」と瞼を閉じて”ふう”と息を吐いて天を仰ぎそして肩の力を抜く。


ここでも『自己犠牲』か。

もう少し己を大事にしてほしいとは思うが、この世界では俺のこの考えこそがエゴである事は理解している、だから野暮な事は言わないよ。



辻ヒーラーの話から浮遊城と化した治癒魔法協会本部建屋の件まで。

特に治癒魔法協会本部建屋を浮かせた時に取り乱していた室長と呼ばれていた男性に興味を持った様で、名前と容姿を聞いてくるが容姿は説明できても名前までは知らない、だって俺も室長って呼んでたもん。


「誰だったんだろうなぁ、そんな無様を晒すようなヤツは・・・ダメだ、いっぱいいすぎて誰か絞れない」


あ、いっぱい居るのね。

まあ、あの中ではポシレマギエさん位だったものね、はしゃいでいたの。



一通り話し終えると「現状は理解した。有難う、教えてくれて」とお礼を言ってくる。


いえいえ、それで最初の話に戻るんですけど。


「ああ、協力するのは構わないよ。

条件は有るけどね」


その条件とは?


「それを提示する前に・・・、不思議に感じなかったかい?逃亡者の様な輩であるこの私がこんな生活をしているのを」

そう肩をすくめる。


そうですねぇ自宅の立地といい、質の良い家具といい・・・何か裏のお仕事でも?



「おいおい、失礼な物言いだね(笑)。

妻の実家が王都の大店なんだよ、お陰で持参金がとんでもない額だったもんだからそれを原資に事業も立ち上げる事が出来たんだ」



・・・奥様は何か御病気でも?



「鋭いね・・・」



奥様は実家でも大層可愛がられていたんじゃないですか?治る見込みが少ない御病気を治療、又は延命する事を条件に持参金と言う治療費の先払いと共に婚姻を許された・・・もしかしたら最初は偽装結婚だったのかもしれませんね。


「ははは、本当に君は失礼だね(笑)、・・・でもほぼ正解、恐ろしいね。

狼の噂は本当の様だ、『王家の狼にに狙われたら狩られるだけ、座して首を捧げろ』と言うのは誇張じゃなかったね。

因みに今は本当の夫婦だよ、去年成人した子供もいる。ああ、とても幸せさ」


いやいや、『王家の犬』みたいな言い回し勘弁してください。


「?これは誉め言葉だよ」




”ツンツン”

ん?



「クルトンさん、もっと自分の力をちゃんと伝えた方が良いの。

オズドラさんは未だ気付いていないの」

え、そう?ってかいったい何を気付いていないのだろう。


「辻ヒーラーの件は物凄い事なのに軽く話をしすぎてきっと聞き逃しているか冗談だと思っているの」


シンシアからそう言われる。



まあ、確かに辻ヒーラーはそうかもしれないけど・・・今じゃなくて良くない?


「今伝えればもっと話が早く済むの」


そう?


「どういう意味だい?」

オズドラさんが聞いてくる。


「クルトンさんの治癒魔法は私たちとは効果の程度が全然違うんです。

部位欠損ですら1回の治療で終わる位で・・・」


「え!?」

オズドラさんが上体を前のめりにして驚いている。


俺は言葉使いがガラリと変わったシンシアに驚いてるよ。



「現状の奥様の御病気の症状はどうなのでしょう、今ならクルトンさんに治してもらえるかもしれませんよ」

おいおい、幾らなんでもそんな風呂敷広げちゃぁかえって怪しまれるって。



「本当かい!?、本当に?!!」


あれ、なんかフックに引っかかった感じ、良いのかこんなんで。

もしかしてチョロいのか?


「ちょっと待ってくれ、妻に話してくる!」


おもむろに立ち上がって部屋を出ていくオズドラさん・・・。

シンシア、知ってるだろうけど病気を治すのは結構大変なんだぞ。上手くいかなかったら逆に協力してもらえる話は無くなるかもしれないのに。


「大丈夫、出し惜しみをしてるクルトンさんの方が意地が悪いの」

ジト目で睨まれる俺。



MMORPGのステータス異常のカテゴリに”病気”ってのが有った。

時間経過に応じて継続ダメージを受けるのは”毒”と同じだが毒より1回のダメージ量が少ない代わりに継続時間が長く、更に厄介な事にパーティーメンバーに伝染する攻撃。


本来一定時間を経過すると自然回復するが、伝染してしまうと効果がパーティーメンバーを渡り歩いて長時間効果が消えずシャレにならない事になる。

ソロなら気にしないがパーティーを組んでる状態だと解毒を内包するキュア系の魔法で即治療しなければパーティー全滅の切っ掛けになりかねない危険な状態異常。


だが、これもMMORPG・・・だけではないな、ハード(主にPC)と通信環境の処理能力限界に縛られてしまう娯楽、オンラインゲームの宿命だろう、現実世界なら無数にある病気もゲームの中ではプログラムの処理とプレイヤーのストレス軽減の為まとめて”病気”と一括りにされる。



つまり俺の魔法はなんでも治せる・・・はず。

試してみたことは無いけど。



「そんな便利な魔法を使えるのはクルトンさん位なの」


そもそも俺のこれはこの世界の魔法じゃないもんな。

便利なもんだよ、ゲームスキルってやつは。

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