第335話 有罪寄りの無罪

お茶のお代りを頂戴してまったりしている俺、クルトンです。



外ではセリシャール君たちがまだ待っている状態。

申し訳ないと思う反面、話の流れ的には上手くいっている様に感じるのでもう少し辛抱願いたい。



そうこうしているとオズドラさんが奥さんを連れて部屋に戻ってきたが・・・・。


「紹介しよう、妻のシェレティマだ」

ペコリとお辞儀をする小柄な女性。

外見は何も問題無さそうに見える、血色も良いし髪の艶も有って目も濁っていない。


・・・ってか若いな!

少なくとも見た目は30代って感じだ。


病気の事では無く、容姿に驚いている事を察したのかオズドラさんが続けて説明してくれる。


「若く見えるだろう?実際若いんだ」

と、自慢してくるオズドラさん。


「43歳になりました。夫とは25歳離れてますのよ」と奥さんも補足してくる、初対面の人からは良く言われる事なんだろう、年齢の話は。


まあ、珍しくはないんだけども・・・逆に自分より10歳以上も年上の未亡人を娶る事もある世界だから。



けど「ホホホホ」とか笑っているシェレティマさん、実際何の病気なんだろう?


これまた続けてオズドラさんが説明してくれた。

「最近は治まっているが妻は2歳の時から咳が酷くてね、王都に居た時は彼女が子供の頃から私が治療の為に側仕えしていたんだよ。

都度治療してはいるんだが酷い時は呼吸ができなくなって意識を失うことも有るもんだから、正直発作が起こった時は気が気じゃないんだ」


何だよー、子供に何やってんだよー・・・って野暮な事は言わない。

聞いた感じでは結婚の時期はコルネンに来た凡そ20年前だろうから奥さんはちゃんと成人している。


有罪寄りの無罪だ。



そんな冗談はさておき、この症状だと喘息?・・なんじゃないかな。

話しを聞く限り症状が伝染している様ではないし。


しかし喘息かぁ、辛いらしいよね。

幸い俺も家族も、それこそ前世の家族にも喘息持ちは居なかったが、子供が病気の時に連れて行った小児科で喘息持ちの子供がとても辛そうに咳をしていたのは見た事が有る。


咳の他にも呼吸の度に”ヒューヒュー”してかわいそうで、見ているこっちも辛かった。


喘息は確か慢性的な気管支の炎症の事だったと思う。

アレルギーも関係してくるらしいけど俺は医者ではないので、そこんとこはよく知らない。


取りあえず気管支の炎症を抑える事が出来れば症状の改善は見込めるはず。

結果からの推察ではあるがオズドラさんも怪我を治す様な感じで炎症した気管支に魔法を施していたはずだ。


『はずだ』と言ったのは今更かもしれないけど治癒魔法師は前世で言う所の『医者』じゃないんだ。

大怪我を短時間で治療できる『魔法使い』なんだよ。


だから病気に対してなら薬師の治療の方が効果が大きい時がよくあるらしい。



以前も言ったが治癒魔法師には治癒魔法の才能が一番重要で、人体の詳細な仕組みを学ぶ事はほぼ無い。

現状では大きな怪我をどれだけ短時間で治す事が出来るか、その能力が高い事が良い治癒魔法師の基準でもある。


魔獣との戦闘で負傷した騎士たちを治療する、外傷に対しての治療が主に求められるから仕方ない事ではある。


薬師と同じように人体について時間をかけしっかり学び、効果的な魔法を行使する術を研究して行けば病気に有効な効果を発揮することは出来るだろうが、今の世界の情勢(魔獣への対処)と治癒魔法協会の方針がそれを容認できない状態。


仕方ない面もあるし間違っているとは言わないが、多分オズドラさんが前世で言う所の呼吸器内科の知識を学ぶ事が出来れば奥さんの治療はすぐに終わると思う。


前世の医学では成し得ない、それはそれはえげつない効果を治癒魔法は発揮するんだから。




・・・これはオズドラさんに俺が喘息についてレクチャーした方が良いんじゃね?

そのうえでオズドラさんが治癒魔法を行使した方が奥さんも安心だろうし。

そうしよう。



「症状を伺う限り気管支の炎症が原因だと思うんです。

それについて説明しますので一度俺がレクチャーした通りに魔法を行使してもらえませんか。

治療についてなら旦那さんからの治療の方が信頼できるでしょうし、今後の処置もいつも側に居る旦那さんからの方が良いでしょう」


二人顔を見合わせ「そうしましょう、その方が私も安心ですわ」と奥様がオズドラさんに伝え、俺の案でやる事が決定した。



とは言っても俺も医者じゃない。

前世で一般的になっている知識しか持ち得ていないからその範囲でオズドラさんにレクチャーしていく。


「えー正直な所、詳細は私も把握していないので色々割愛しますが・・・」

取りあえず気管支、肺などの呼吸器官の名称、役割に始まり細胞、免疫の話をして「ここの炎症を治める事が重要なので、魔法行使の際にそう世界に願ってください」

と説明する。



一応義務教育で学ぶ程度の知識だが概念は理解してもらえた様で、オズドラさんは自分の両手のひらを見つめながら「炎症を治める・・・気管支を広げる・・・」と繰り返し”ブツブツ”呟いている。


いやはや、物凄い集中力だな。


やがてオズドラさんの掌がぼんやりとした霧の様な靄にうっすら包み込まれると

「シェレティマ、おいで」

と奥様を自分の目の前に呼び、その両手のひらを気管付近、胸の中心に当てて魔力をさらに込めた。


その靄がスッと胸に吸い込まれる様に消えると、オズドラさんは手を下ろし深く呼吸を繰り返した。




「ふう、こんなものかな、効果は・・・感じるかい?」

「どうでしょう?でも少し胸が軽くなった様な気はしますわ」

柔らかく笑ってオズドラさんに応えるシェレティマさん。



この気管の炎症(喘息)の治療はそれなりに長期間に及ぶようですから気長に治療しましょう。

もし発作が起こったら今回の魔法の要領で治療してください、今までよりは効果あると思います。



あと、効果が無かった場合はその旨連絡ください、その時は俺が直接治療します。


スキル任せの力技だが何とかなるだろう。


何の根拠もない楽観的な思考ではあるが、間違いない事だと何故か確信が持てた。

何だろう、今までよりスキルの意思?と深くリンクしている感覚が有る。


熟練度が上がっている、良い事のはずなのになんだかスキルに浸食される様な感覚も同時に受ける。


今まで気付かなかったこの感覚・・・しっかり覚えておこう、力に溺れぬ様に。

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