第79話 王都民

いやな汗がまだ止まりません。

着替えを準備してきてよかったと現実逃避している俺、クルトンです。


事前の話では『騎士爵相当』だったはず。

まあ、騎士爵についてはスレイプニルを捕獲した時点で何れはそうなるんだろうなと、ぼんやりとだが予想はしていた。

しかし王都民はどうなの?

王都民になるという事は王都内の土地と墓地の所有が許される事から一種のステータス。

いや貴族からしたらこれ以上ない名誉と考える者も少なくないだろう。



ややこしいけど『王都民』と『王都住民』はちゃんと区別されているんだそうな。

知らなかった。


『王都民』

王都内に土地と墓地を所有できる。もとはこの王国建国時に貢献、功績を上げた武人、役人の末裔であることが多い。貴族が多いが平民での『王都民』もそれなりにいる。

『王都民』の殆どは自分の住居以外の土地を国に貸し出して運営を任せ、国は『王都住民』に貸し出しその賃借料を税金として徴収、それを土地を所有している『王都民』に管理費差っ引いて還元している。


『王都住民』

『王都民』以外で王都に住所の有る住民すべて。貴族であっても王都に土地、墓地を所有していない場合は『王都民』ではなく『王都住民』となる。


意外かもしれないが王都にこれだけ人がいても王都民の資格持ちはその2割程度。

残り8割は今いる土地を借りて住んでいたり仕事、商売の為に拠点を設けているだけだったり。


話はそれるがややこしいのは辺境伯家。

この世界の辺境伯家は国境の守護ではなく強力な魔獣が数多く出没する森との境界を守るガチガチの武闘派貴族。


自領の治安維持以上の武力、まさしく領外に向ける軍隊を持つことを許されている為、そもそも王家からの信頼が無いと任せられない。

なので建国時に大きな武功を上げた部下に序列を付け、辺境伯の地位を与えて『王都民』でありながら其々の重要地方に赴任している様な体になっている。

貴族の序列は伯爵と同等だが、こと魔獣が関わる事案に対しては王家に近い公爵家と同等の発言力を持つ特殊な貴族。


まあ何を言いたいのかというと、かなりの功績は上げているとは言え群雄割拠の乱世でもないこの時代に『平民』の俺が『王都民』の資格を頂くのは他の貴族への配慮を欠くのではないか?と考えてしまうのです。


派手な功績は無くとも長きにわたり国家、王家を支えてきた貴族はごまんといる訳で、縁の下の力持ちとして愚直に仕えてきた貴族に対しどうなのか。


根は小心者の俺は余計な妬み、嫉みは向けられたくないのよ。

しかも貴族様たちから。


どうした方が良いんでしょうか?と小声でデデリさんに聞くと「?貰っておけばいいじゃないか」とあっさりした返答。


いやいや、他の貴族様たちのお立場というものが有るでしょうし・・・。

「これは魔物討伐、しかも5頭分の褒美だ、観覧席にいる貴族連中含め奴らが同じ頭数どころか魔獣そのものを倒せるわけなかろう?」

・・・1頭分は既にもらっていますけどね。


何言ってんのお前?みたいな感じで平然と話すデデリさん。

話がかみ合っていないというより、そもそもの価値観、考え方の違いでしょうね。


皆が出来ない事を成し遂げたのだから、その対価を頂戴するのに何の問題が有るんだ?といった事でしょうか。


『平民』で有る俺の囲い込みってのも有るんでしょうが。

「そこまで分かっているならなおさらだ、この国でお前の地位が上がる事はお前の家族にも大きな影響が出るだろう。今後更に武功を上げるような事が有れば、褒美に故郷の開拓村の減税期間の延長とか進言すればいいんじゃないか」


デデリさん、凄い!そうですね故郷の村にも還元できるかもしれないんですね!


ボソッ(家族が絡むとポンコツになるな)



国王陛下からの褒美の話からちょっと間が開いたために「あれ?」って空気が流れ始めた頃ようやく俺が

「有難き幸せ、謹んで頂戴仕りマス」

と言い、場が再度回り始める。


「そして今回の訓練はデデリ・サンフォーム侯爵のグリフォンのお披露目でもある。まことに素晴らしいその体躯、空の王者たる風格、正直羨ましいぃぃぃ!」

心の声が駄々洩れの陛下、落ち着いてください。


「ふう・・・サンフォーム侯爵へはグリフォンを騎乗動物として調教、騎士団へ編入した事を功績と認め、これからの働きを期待しかねてより申請のあった文官を5名、王家より選りすぐりを手配しよう」

「はっ、有難き幸せ」


ここで再度観覧席からスタンディングオベーション。


宰相閣下が閉めの挨拶を行い、これにて無事公開訓練が終了した。


またまた来ました謁見用の控室。

相変わらずメイドさんが6人もいる、ちょっと落ち着かない。


”カツカツカツカツ”

なんか急いで近づいてくる人が3人

「陛下、お待ちください、そんなに急いでは危のう御座います」

なんか聞こえる。


”バーーン”

「クルトン、儂もグリフォン欲しい!!!」

自ら扉を開け放った陛下の開口一番それですか、威厳さん仕事してください。


「本当に、本当に羨ましいんじゃ、デデリが羨ましいんじゃ!我慢ならんのじゃ!!」


いや、そもそもグリフォン捕獲できたのは運ですからね、おいそれ見つからないですから。


「金ならある!!」

いや、話聞いてました?お金の問題じゃないんですよ。


あ、デデリさん、ドヤ顔で陛下を煽らないでください。

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