第376話 人材
その話の流れのまま退役した騎士さん達の事で確認も含め相談したい事が有ると宰相閣下に提案する俺、クルトンです。
「何かな?」
騎士の人材不足に関してです。
若くして怪我を理由に退役する騎士はそれなりに居ると聞きました。
「ああ、残念だがそれは仕方ない事でもある。
万全の状態に完治しないのであれば魔獣との戦闘に赴いたところで死にに行くようなものだから」
ええ、そうですね。
でも、でもですよ、彼らはそもそも騎士たる素質を持つ一般人とは隔絶した身体能力と戦闘技術を身に着けたエリートです。
しかも一人前の騎士にまで育て上げるコストもかなりのものだと聞きました。
まあ、当然だね。
命を懸ける専門職を育て上げるんだから、コルネン駐屯騎士団でも日夜妥協無く人的リソースを割いて厳しい訓練が繰り返されている。
「そうだ、我々人類にとって魔獣に対抗できる唯一の希望、それが騎士だ。
彼ら無しには今の国家運営は出来なかったろう、何かの切っ掛けで歴史が変わっていれば今でも魔獣の脅威に怯え洞の中で声を潜める暗い生活が続いていただろうな」
それでですね、さっき話した装甲馬車を扱う部隊、護衛をそう言った元騎士で構成したらどうですかね?
当然退役する事となった怪我の状態にもよりますが義手、義足で任務を遂行できるまでにサポートできると思うんですけど。
「お前が拵えた義手の技術でもって退役した騎士を呼び戻し、人材を確保するという事か。
直接の魔獣の戦闘には対応できずとも、武装次第では十分に護衛はこなせると?」
ええ、そもそも幾ら付与魔法が有るとはいえ人が振るう剣と盾の様な白兵戦用の武器を用いて、個別に魔獣を狩って行く事”だけ”に騎士のリソースを裂くのもどうかと思っていたとこなんですよね。
確かに騎士は強力だ。
至近距離からでも放たれる矢を躱すし、十分質量を持った武器を力の限り振るえばその威力は前世の対物ライフルを越える。
騎士の身その物が強力な武装で有る故に武器よりも己の能力の研鑽が優先されてきた。
確かに今まではその対応がベストで、結果も残してきている。
けど魔獣を倒せなくても付与魔法で防御マシマシにしたゴーレム式自走装甲馬車なら怪我で退役していた騎士さん達でも何とかなると思うんだ。
荷台は作業スペース、兼キャンピングカーの様な仕様にして装甲馬車の中で数日籠城できるようにしてしまえば、
魔獣から襲われ、身動きが取れなくなっても最悪救難信号の装置で援軍を呼んで待っていれば何とかなりそうだし。
「測量の話しから色々繋がるな。
うむ、陛下には私の方から話はしておく。
早めに頼みたいところではあるがお前の都合もあるだろう、可能な限り速やかに試作を進めてくれ。
費用については取り掛かった後で構わないから見積を持ってくるように」
承知しました。
取りあえず筋は通した、後は好きにやらせてもらおう。
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婚約報告の準備は着々と進んで、とうとう陛下への報告が明日に迫って来た。
ここまでくるともう皆が腹を括った様な表情で特別何を慌てる事も無く静かなものだ。
様子を見に行った時もセリシャール君はシンシアとおしゃべりを楽しんでいて、見た目上はいつも通り。
明日もこのままの調子でいてほしい。
ネズロナス教国のサーカス団員達の件は俺が持ってきたスクリーンショット以外に裏方さん達の音声情報含めかなりの物的証拠が揃い、裁判すれば間違いなく有罪まで持って行けそうだと昨日アスキアさんが俺に現状を伝えてきた。
しかし今回は逮捕、拘束せず王都を出る時に持ち物検査を行って証拠を押収、国外追放処置を言い渡すそうだ。
「建前上は初犯ですし一応相手国の役人身分でも有りますから、今のところはこのくらいまでが面倒無いのですよ」
アスキアさん談。
更に丁度良い事にこの国での最後の興行地が王都だったから、予定していた工程で自国に戻るだけではある。
ただし手ぶらで。
「彼らは上司にどう言い訳するんでしょうかねぇ」
アスキアさんニッコニコである。
そして国内の対応はと言うと、フォローの為に事の顛末を綴った新聞の号外みたいなチラシを刷っている最中との事。
因みに刷っているのは複写の技能を身に着けた魔法使いの皆様方。
証拠押収のタイミングで王都中にバラ撒いて(その後に国中に)国民の不満を国に向けさせない様にする為だそうな。
まあ、知らない人にとっては楽しいショーだったからね。
国も恨みを買いたくないんだろう。
大規模魔獣討伐の褒美の件は今回のフォネルさんの登城時に略式を行い、まずは目録を渡すとの事。
そして半年ほどの準備期間を設けた後に国民への正式に公示、それに合わせ式典を執り行う予定。
今はその為の計画立案中だと説明が有った。
しかし準備に半年ってかなりの式典なんじゃね?
どの位の規模になるのかな。
「今回は辺境伯含む地方の領主たちにも式典の出席を王命で要請するそうです。
時間はある様に感じるかもしれませんが辺境から王都まで移動に1ヶ月かかる領も有りますから、それを考えれば準備は急ピッチで進めないとなりません。招待状の発送などは直近1か月以内に済ませないと返事のやり取り自体が間に合いませんから」
なるほどね、
「クルトンさんもお呼びが掛かってますからね、別の予定とか入れないでくださいよ」
そしてアスキアさんから釘を刺される俺。
多分その頃俺は開拓村で鍬を振るっているだろう。
大丈夫、期日さえ事前に連絡貰えれば予定は何とでもなる・・・なるよな?
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ふう、一通り状況は確認した。
取りあえずはシンシア達の婚約報告が済めばそう時間も空けずに帰れそうではある。
いい加減延び延びになっていた故郷への帰還もやっと現実味が湧いてきた。
それであれば・・・、
いつもの事ではあるが、その場その場で始末をつけなければならない事に集中しようか。
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