第375話 ご褒美の話し
二杯目のお茶を頂きながら宰相閣下が話す次の話題に耳を傾けている俺、クルトンです。
「話は変わるが魔獣討伐の件、褒美の内容を先に話しておこうと思ってな」
ほうほう、正直興味あります。
今回の件は結構な数の人が関わりましたので功労者はそれなりの人数になるはず。
とは言ってもしょぼい褒美では反発を招くかもしれません、この辺の調整が為政者の腕の見せ所でもあります。
何気に予算には余裕がある国みたいだから問題なさそうだけど。
「そう買い被るな、財政的に問題無くても即日の出費に対応できる予算は限られているんだ。
それに一回の戦闘で53頭だろう?本来被ったであろう損害を換算すれば都市一つ分くらいになる、金銭ではいくら何でもインパクトが大きすぎる。
だから今回の褒賞は名誉的な意味合いが強い物になるな」
いやいや、何気に『都市一つ分くらい』の褒美が『財政的に問題無い』っていってません?
そんなに儲かってるんですかこの国って?
「まあな、あくまでも現状の情勢から試算しただけだが・・・人類の進化が明確に始まるまでは大丈夫だろう。
あの腕輪のお陰で世界の貨幣の流れが淀まない、そんな効果まで出始めたんだよ」
こんな短期間ですげえな。
俺の作品が独り歩きを始めた様で嬉しい限り、これからはあらゆる人が勝手に改良していってくれるだろうから更に期待してしまう。
そんで話を戻して褒美の具体的な内容は?
「陛下への謁見とそれに合わせ勲章の叙勲。
お前はどう思っているか知らんが、本来陛下にお目通り頂くだけでも名誉な事なのだからな?
あとは若手の騎士が多かったんだろう?だから新築、中古住宅購入時の補助金の支給。
これから結婚、さらに子供ができれば家も欲しくなるだろうしな」
おう、良いじゃないか。
補助の割合が気になる事ではあるがそれなりの額にはなるだろう。
今回の活躍で結婚に至りそうな騎士さんも早速出てきたみたいだしな。
陛下への謁見も当然王都に来ないといけないから、2年程度の期間内に何かしらの研修と称して王都に召集、交代で登城してもらって陛下との謁見になるだろうとの事。
「あとは今すぐ使える者は限られるだろうが王立大学入学への推薦状の発行。
これは王家から直々に発行される、かなり凄い事なんだぞ。
流石に発行回数は生涯1回だけに限らせてもらうが自分の息子、孫へ最上の教育の機会を与えられるんだ。
中々良い案だろう?」
話しを聞くとこの推薦状はあくまでも『推薦』なので最終的に受験する本人の資質が至らなければ不合格となる。
それでも”王立”大学への推薦状が”王家”からの物となればそれなりの効果は見込める訳で。
「これはについては名誉、自尊心を満たす事だけが目的ではない。
これから増大するであろう人口の中から優秀な人材を優先的に確保する為の施策、その効果を確認する為のテストでもある」
うん、今まででも人材不足だったんだ、これも良いと思う、やれるなら効果が出るまで色々な施策をやった方が良い。
効果が高い施策は何か?なんて今でもまだ手探り状態なんだから。
「こんなところかな。
あとクルトン、お前の褒美は何が良い?」
ん?
さっきの褒美が俺にも適用されるんじゃないの。
家なら自前で建てれるけど、補助金使ってもっと豪華なヤツを建てたいよ、俺も。
キャッキャウフフの愛の巣を建てたいよ、だってお年頃ですもの。
「そんな事を言ってはいるが、自分でそんな性分でない事は分かっているのだろう?
冗談は良いからもっとまじめに答えろ」
・・・そうですね。
騎士団への福利厚生の話しも有りかと思っていたが意外とその辺は考えていてくれていた様で、今後も追加の施策が実施されていくんだろう。
だとしたら・・・
「何年かかるかは分かりませんが、危険度の高い魔獣の結界が有る森を除いてで構いません、国土全域の測量をお願いします」
「・・・理由を聞こうか」
さっき人口の増加の話が有りました。
補助具の腕輪の普及で徐々にでしょうが・・・今年から生まれてくる来訪者の加護持ちの子が成人、そしてその子が更に子を設けるであろう20年から30年後には天変地異や大凶作でもない限り明確に人口増加の傾向が表れるはずです。
少なくともこの国には。
それまでに街道の整備、農地の確保、魔獣対策の干渉地帯の整備や砦の建設を進めておかねばなりません。
であればその土地の確保や灌漑事業の為にも正確な測量と地質調査を終えていないと手遅れになります。
これから100年の内に新たな開拓村、都市が乱立していく事になります、必ず。
これは予言なんて不確実な物じゃない、時期が早まるか遅くなるかの時期的な誤差があるくらいの確定事項だ。
しかしその時になって下準備も出来ていないなら・・・速やかに住居、食糧問題を解決する目途が付いていなければ人口増加のタイミングが誤差以上、10年単位で後ろにずれていくと思うんだ。
「耳が痛いな、しかし魔獣の件はどうする。
測量士は専門職、今でも騎士が護衛して安全を確保しながら測量を行っている。
人の命に優劣を付けたくは無いが測量士もかなり貴重な職人だ、そう次々と替えが効く者達ではないから騎士の厳重な護衛は必須。
しかし単純に護衛に裂ける騎士が足りない」
ええ、理解できます。
なのでまずは俺のマップ機能で土地のアタリを付けます。
これだけで候補地の選定、測量場所の優先順位を付ける作業を机上で終わらせる事が出来ます。
その後は・・・騎乗型のゴーレム、装甲馬車(ウォーワゴン)を製作しようと思います。
前世で言う所の装甲車の様な、魔獣への防御を兼ね備えた自走できる空間。
室内からでも作業可能なスペースを兼ね備えるその装甲馬車で、更に救難信号の装置を取り付ければ最小限の護衛で問題無いのではないかと。
当然検証は必要ですけど。
「そうだな、人員・・・この場合は護衛の騎士の問題だな・・・その護衛に裂く人数を減らしたうえで今以上に作業効率は上がるという事か。
しかし良いのか?お膳立てはお前に任せる事になってしまうが」
お膳立て、立ち上げ作業は仕方ありません、言い出しっぺでも有りますし。
けど腕輪の時と同じようにその後は俺抜きでやれるような体制を整えてくださいね。
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この後、魔獣対策の件では数日も経たないうちに従来の技術との併用で画期的な方法が発見され、それを利用した自走ゴーレム式装甲馬車をクルトンが開発、これにより全国土に及ぶ測量事業の計画が早々に立案される事になった。
幸運が重なった事ではあったが、人口増加による負の影響を押さえる為にこの事業は大きく貢献し、間違いなく次世代を担う人類繁栄の礎となる。
後にパジェが王立大学を卒業し国の役人として治水事業に携わった際、技能による衛星からの測量を行ったが既に測量されていた土地については情報の正確さが改めて証明され、当初見込んでいた測量図の作成時間が大幅に短縮されたそうだ。
なお、測量作業最初期に使用した測量基準杭はクルトン謹製で朽ちる事も埋もれる事も無く、それ自体が『狼の足跡』と言われるようになる。
その逸話は土木建築業界では当たり前の話、常識として長く語りつがれていった。
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