第241話 終わりの無い仕事

「では、俺は次の準備に取り掛かりますので」そう言って後宮から退出、今日は残りの時間で腕輪のログ解析と付与術式の改良を終わらせ、明日ウリアム宝飾工房へ向かいます。

ようやく宝飾のクラフトが出来ると久々にワクワクしている俺、クルトンです。



解析と改良に思いのほか時間が掛かった。

手を抜けないところだからってのもあるが、俺が行う解析内容、改良の根拠、修正の工程一つづつ記録を取り、後の技術資料の為の元ネタを整理しながらだったから余計に掛かった。


でも、その甲斐あって良い資料をまとめる事が出来るだろう。

この事業は正しく人類の進化でも起きない限りほゞ永遠に継続していかなければならないのだから、俺が居なければ頓挫してしまう様では話にならない。


俺だって不死じゃないんだ・・・ないよね?


プサニー伯爵のリーズンボイフ君みたいな来訪者の加護持ちが一般的になって初めてこの事業は終息していく事になるだろう。

何れにしても先は長い、間違いなく俺の存命中には完了しない。


今回の解析終了でようやく量産品のロールアウトが現実的な物となる。

陛下に報告の後はその日程を調整する事になるだろう、もう一息だ。



ウリアム宝飾工房で量産自動機の動作をお弟子さんへレクチャー、操作訓練と一緒に完成品の確認をしています。


「ん~問題なさそうだな。まあそうか、そうなる様に何度も調整し直したし」

俺がプレゼントした単眼ルーペで出来上がったばかりの腕輪を検査しているウリアムさん。


じゃあ、次は品質のばらつきが無いか連続作動させて確認しましょうか、合計150個。


「そんな作るのか、でも仕方ないんだろうな。何かあったら一大事だし、スペア分の確保もしないといけないしな」


はい、最初はどうしても仕方ないんですよ。


そうして乳幼児用、子供用、大人用、妊婦用、老人用の5種類、各30個の合計150個を”連続”で作る。


そして1個1個検査装置に通して性能のばらつきを検査、求める能力値の±5%未満になっているかを確認する。


検査作業はなんてことは無い、検査装置が順番に表示する数値を書き写していくだけだ。


装置のオペレーションも上手に操作できたんだろう、結果親方とお弟子さんが製造した腕輪はすべて合格品となった。


更に生産量が増えていけば、材料その物の品質や装置の調子によっても品質がバラ付くものが出てくるだろうから、その辺の調整はノウハウとしてこれから蓄積していかないといけない。


「終わりの無い仕事が始まるのか・・・」


モチベーション上がりませんか?


「まさか!安定して食い扶持が稼げるんだ、弟子を増やす事も出来るし設備の更新も見通せる。

それに加護持ち様への貢献が出来るんだ、名誉なことだ」


そうですね。

けど今後はこの工房だけでは賄えない量の需要が生まれると思いますよ。

存命中の加護持ちの方達より、生き延びる事が出来なかった方達の方が圧倒的に多かったのですから。


その時は先駆者として後任の指導をお願いします。


「覚悟はできてると既に陛下に伝えている、任せておけ」

え、そうなの?どこで伝えたの?

ああ、飲み屋でですか。



検査設備も含めた1式分の量産自動機を使い、1日で凡そ200個の量を生産できそうだ。

作ることそのものよりも製造前の設備の調整が一番時間かかるんだけどね。


取りあえずこの成果を報告しに陛下への内謁の予約しないとな。

あ、今回はウリアムさんも一緒ですからね、ちゃんと正装して来て下さいよ。


「え、正装?」

ええ、正装です。陛下と面会する事になりますから。


「・・・会場は飲み屋で済ませられんか?」

無理ですね。

多分、何名か書記の文官が付いて一字一句記録されますから。飲み屋じゃそもそも警備も出来ないでしょうし。


「母さん!正装だってよ、どうしよう。持ってねえぞそんなの」

「準備すればいいでしょう、明日直ぐ必要なる訳でもないでしょうに」


間違いなく直ぐ必要になると思います、それくらいこの事業は重要視されていますから。


「え、そうなの?え、どうしましょうか、ああ、どうしましょう・・・」


夫婦でテンパりだした。

見てて面白いが話が進まないので俺のクラフトスキルで準備できると説明し、直ぐに採寸。


明日の昼まで持ってきますよ。


「助かった、宜しく頼むよ」



王城に戻り近衛の広報部を通じて内謁の予約を取って貰う。

「はい、この件は最優先とお達しが来ていますから直ぐに調整しますね。日取りの調整を行いますので少し待っててください。」


窓口を担当してくれた女性が部屋を出ていく。

宰相閣下の秘書へ連絡して、陛下のスケジュールを宰相閣下がその場で調整するそうだ。



その返事待ちで応接室に通されお茶を頂いています。

そんで目の前にはソフィー様が居て、温泉の工事の件で打ち合わせをしてます。


「明日には材料の運搬が完了するから明後日には工事をお願いしたいのだけれど・・・陛下の内謁次第かしらね」


そうですね、”明日”となればやはり内謁を優先せざる得ないでしょうから。

でもハウジングでやっちゃうので時間はそんなかからないと思いますよ、設計図に矛盾点なければ内謁終わった後でも出来そうですしね。


「その辺は臨機応変にと言ったところかしら、でも先に貴方の後宮への入場許可を申請しておかないといけないから・・・念のため明日から三日間分申請しておきます。

皆が温泉には期待しているのよ、だから宜しくね」


承知しました。

後宮に温泉が設置される。

良いよねぇ、風呂上がりの一杯(牛乳)なんてたまらんよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る