第240話 温泉を掘ろう
本日は王城のプライベートエリア、その中でも特に厳重な警備に守られている後宮にお邪魔している俺、クルトンです。
マジ緊張してます。
なんたって王族、来訪者の加護持ちと警備に当たる近衛選りすぐりの騎士以外は入れない一角。
今回の俺の様に建屋内の設備改修や工事でもない限り部外者が入る事はまず無い場所。
「この辺などどうでしょうか?」
チェルナー姫様が場所を指定してきます。
はい、本日は温泉を引く為の事前確認でお邪魔しています。
今、工事が進んでいる騎乗動物繁殖施設の敷地内に温泉を掘る事が出来たので王城内でも問題無く引けるだろうと。
指定された場所にドンピシャで当たらなくても王城内のどこからか湧けば、そこから引いてくれば良い話しですしね。
「うーん、それは少々困りますね。王城内ではあっても後宮外から引いてくるようになりますと源泉に警備を置かないと・・・毒を流されると大変な事になりますから」
なるほど・・・加護持ちの体には腕輪が無ければ一般に流通している食材の毒性でも影響が有るからなぁ。
腕輪を装着している前提でも一般人に効く位の毒を流される可能性も考えないといけないのか。
うん、警備が厳重な後宮内に源泉を掘るのが望ましいか、なら調べてみるしかない。
・・・いや、今気付いたが地質調査するスキルなんて無いな。
うっかりさんの俺、王城内に今爆誕。
正確には土魔法で対応できるが源泉までの深さとなると効果範囲から完全に外れる。
ハウジングの機能でも良いが必要な魔力量がハンパないからそう何度も使えない。
能力が上がった今でも1日3回が限度だろう。
そう、限界値だ。
以前はとりあえず深く掘ればどこかの源泉にぶち当たるだろうと、ダメもとでやったら湧いてきたって感じだから・・・今回もそうするか?
魔力の余力を考えて1日2回ハウジングを行使して調査を行おう。
時間を掛ければ問題ないだろうが他にやることも有るから、そうだな・・・5日間、これを目途に確認を進めよう。
源泉を見つけられなければ仕切り直しだ。
部外者がそう何日も後宮に居る訳にもいかんだろうし。
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調査から2日目、取りあえず余裕をもって直径1m、深さ2500mの円柱状に地下へハウジングの支配域を設定し確認する。
ああ、意外と早く見つかった。支配域の約6~7割程度の深さ(約1500m)に水源が有るのが分かる、この深さなら間違いなく温泉だろう。
「ここに温泉がありそうです」
今日はチェルナー姫様ではなくソフィー様が同行しているので報告する。
「あらあら!思いのほか早かったですね。では早速準備を進めましょう。
至急ここを浴場にする為改築工事を行います。材料は事前に準備してありますから運び込むのに・・・2日間。
クルトン、3日目からハウジングで浴場の改築、4日目に温泉の掘削をお願いします」
早いですね。
一応設計図も見せてもらったから問題ない、何気に前世の銭湯の様な間取りだった。
機能優先で設計したから似通るんだろうね。
脇でその話を聞いていた加護持ちの人達から歓声が上がる。
実は噂を聞きつけ時間が空いた加護持ちの方が見に来てらっしゃる。
その中にパジェ君も、息子さんを抱いたクラスナさんもいて嬉しそうだ。
「毎日湯あみが出来るのでしょう?贅沢な事ですわ」
「しかも湯船は相当に大きいみたいだし、ゆっくりできそう」
「昼夜問わずいつでも入れるのか、たまんないなぁ」
やいのやいの皆嬉しそうで・・・ちょっと心配になる。
もしもの為に予防線を張っておこう。
先に掘った王都内での温泉は大丈夫だったから、杞憂だろうとは思うけど。
「盛り上がっているところ申し訳ないんですけど、人が入れない有毒温泉って可能性もありますので一応調査の為掘削しましょう、ちょっと離れていてください」
ココは王城、しかも後宮内。
温泉自体が毒で、そんなのをバラまいてしまったら目も当てられない。
未だハウジングの支配下にある領域で、以前と同じように中心から外側に向け土壌を圧縮、パイプ状の壁を作りながら掘り進む。
念の為直径10cm程度に抑えて源泉に到達させると、湯が昇ってくる速度を調整しながら地上に汲み上げる。
今更だけどその領域内限定とはいえ、物理法則その物をコントロールできるハウジングすげえな。
何もかも俺の思い通りに制御できる。
地上に湯が到達し、滾々とあふれ出る。
成分までは俺も分からないが、毒性が有るかどうかくらいは錬金スキルで確認できるから見てみると・・・うん、普通の温泉と。
つまり・・・。
「このままだと加護持ちの方は入れませんね」
途端に加護持ちの方が落胆する。
思った以上にしょんぼりしてるよ、ホント今確認してよかった。
施設が出来た後だと精神へのダメージが大きすぎた。
多分だけど温泉の効能に関係する成分が、加護持ちの人には刺激が強すぎるんだろう。
効能を期待してこその温泉ってのもあるから、今回のこれは正しく温泉なのだけど・・・。
「温泉は諦めないといけないのでしょうか・・・」
年齢は20代後半くらいだろうか、とても美しい女性がとても悲しそうに俯いている。
俯いていても美しいのが分かるって相当な美人さんだな。
まあ、解決は出来る。
「腕輪が有れば問題ないですよ。雨にぬれても川に落ちても、溺れてその水を飲んでしまう事も想定して付与術式を組んでますから」
これを聞いて今までお通夜の様だった加護持ちさん達から、今日2度目の歓声が上がった。
「温泉の効能は弱まりますけどね」
そう告げた俺の声は皆に届かないようで、
「では工事に取り掛かりましょう!」と号令をかけたソフィー様の声だけに皆が反応している。
空気を呼んで静かにしておこう、俺は小心者なのだ。
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