第238話 魔の巣(タイフェスネスト)
ニココラさんと指輪の量産自動機の製作で話を詰めている俺、クルトンです。
さっきまでの俺の独り言が『やべぇ話』だと感じたのか、その事は無かったかの様に仕事の話に集中しだすニココラさん。
お陰で直ぐに話はまとまった。
やればできるじゃん。
自動機は・・・
決まった太さにそろえた金属製の丸棒を差し込めばリング状にする装置。
サイズ調整、男性ホルモンの分泌、活性化等、刻印を施す装置。
仕上げの研磨装置。
・・・と、3機で1セット。
そう、実は既に製作は完了している。
刻印用の装置に施したい付与術式のカートリッジを差し込めばそれで済む状態までになっている。
腕輪制作の為の設備を作るにあたりミニチュア版を製作した。
ちっちゃな腕輪≒指輪ってな感じで、試作機をそのまま指輪用に流用した形だ。
「何とも都合の良い話しでは御座いませんか?」
事前の検証用試作機ですよ、国の予算を使って指輪製造機を作ったわけではありません。
「ならばなぜ私と目を合わせないので?」
黙秘します。
「まあ、良いでしょう。後々問題にならない様なら私からは何もいう事はございません。
考えようによっては仕事が一つ片付いたという事ですからね」
おっしゃる通りです、腕輪製造機のミニチュアなんて無かったのでございます。
「さっきの話を聞いていると腑に落ちませんな」
気のせいです。
「何れにしてもこの仕事のキモになる仕事は終わっているのでしょう?であれば他の仕事も早々に目途をつけてスレイプニルの捕獲を宜しくお願いします」
アスキアさんもチェルナー姫様と馬車で外遊するんでしたっけか、婚前旅行って事ですか?
何ともお幸せな事で。
「根回しが済んではおりませんので急ぎはしませんが目途だけでも宜しくお願いします。
スレイプニルの馬車であれば御者の再訓練も必要でしょうから」
まあ、準備は早くできてた方が良いですよね、余裕が生まれるのでミスなんかも減りますから。
その後も始終ニココラさんから丁寧なお礼が続きようやく打ち合わせが終わった。
次はニココラんさんの店に自動機持って行かないとな。
部屋を出てアスキアさんとも別れると、久々に城下の居酒屋にでも飯を食いに行こうと思い立つ。
王城の食堂で出される飯は凄く美味しいいのだけど、場末の飲み屋で店の雰囲気を感じながらの飯も大好きだ。
部屋に戻る前にたまたま会った見知ったメイドさんにその事を告げて王城を出る。
今日はどこ行こうかな~。
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【居酒屋タイフェスネスト】
”ガヤガヤ、ガヤガヤガヤ”
「プサニー伯爵様に第六子が降誕なされたそうだ」
”降誕”?
おいおい、幾らなんでもそれは言いすぎなんじゃないか、生まれた時から聖人扱いかよ(笑)
・・・マジか?
「そう大げさな事でもないらしい。
なんでも生後4日目で既に言葉を理解している様だと、それに来週には公表されるらしいが『来訪者の加護持ち』らしい」
らしいらしいばっかりで本当か怪しいけどよ、ともかく2代続けて加護持ちか、それはめでたい!
・・・しかし、城勤めとはいえ書士"見習"いのお前がなんでそんなこと知ってんだよ。
「前にも言った事あるけどプサニー伯爵様は俺が居る部署のトップだろ、始終ご機嫌で色々言いふらしてるんだよ。
もう、隠す気無いねあの人」
へえ~、しかし『来訪者の加護持ち』かぁ・・・でも後宮に召し上げられるんだろう?
庶民の俺からしたら可哀そうに思えてくるんだけど。
「まあ、今までならそうなっただろうな」
?今は違うのか
「違うね。
今はまだ詳しく言えないが・・・インビジブルウルフ卿お抱えの宝飾職人が問題を解決したそうだ」
ちょっとまて!本当か?
どうやって?加護持ちの問題を解決だって!どうやって!
「落ち着け、語彙力大丈夫か?
で、そこんところは俺にも誓約魔法が掛けてあるから勘弁してくれ・・・」
ああ、すまない。
そうだよな話せる訳ねえよな、でも俺は信じるぜ。
親友のお前の言う事だってのもあるが、なんたってあのインビジブルウルフ卿だろ?
「ああ、”あの”インビジブルウルフ卿だ。
でだ、なんとその第六子様・・・リーズンボイフ様は『来訪者の加護持ち』でありながらお体が尋常じゃないくらい頑強であらせられるとか。
他のご兄弟たちと一緒にいても何ら問題ないらしいし、先日はお昼寝中にベッドの(転落防止)柵を蹴り破ったそうだ」
・・・それは流石にどうかと思うぞ。なあ親友、本当の事を話してくれ。
「プサニー伯爵様が嘘をついているとでも?」
いやー、ならお前はどう思うよ
「信じるね」
何を根拠に?お前が『プサニー伯爵様の言った事』だけを根拠にするのは違和感あるぜ
親友は左の袖をまくり腕を見せてくる。
あっちゃー、もうどす黒くなってんじゃねえか。なんかにぶつけたか?ちゃんと医者に見てもらったか?
「昨日仕事中に奥方のクラスナ様がリーズンボイフ様を抱かれてプサニー伯爵様に会いに来られたんだ」
うん、それで?
いや、クラスナ様は産後そんなに経ってないだろ。
大丈夫かよ!
「プサニー伯爵様を見つけた途端リーズンボイフ様はとてもはしゃいでね、もう父君の顔が分かるんだなと皆が驚いたよ」
うん。
「腕をブンブン振られたんだよ」
おおう?それが何か?
「お体が大きかったことも有ってクラスナ様の腕の中では納まらない位にブンブン振ってね」
・・・まさか。
「案内の為に脇にいた俺の腕に当たったんだよ。
その後もリーズンボイフ様は何もお変わりなく始終ご機嫌でいらしたのだけど・・・俺は膝から床に叩き付けられたんだ。
分かるか?腕を打たれたと思ったら肩が抜け、膝から床に叩き付けられる感覚が」
今度はズボンを捲り上げ左膝の痣を見せてくる。
ああ、分からんね。
そんな感覚。
なんで腕に当たったのに膝から・・・
”ガタガタ、ガシャーン”
何かがひっくり返る様な音が店内に響き、皆の視線がそちらを向くがそこには何も無く、直ぐに店内の喧騒で上書きされていった。
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