第364話 職業訓練

そして今、1階事務所のテーブルを囲み職業訓練を行っている俺、クルトンです。


あまりに俺へのヨイショが過ぎるので自慢したかった諸々の話はサラッと流すように終わらせ次のプログラムに移行する。



「・・・と、いう事でここでの皆さんの仕事は俺の資産の管理、依頼が有ったクラフト案件の精査とその後の見積書発行から注文の受理、成果物の配送、それらの付帯業務になります。

あ、後は税金の支払いですね。幾ら節税効果が見込めるからと言って諸々の投資案件にはホイホイ乗っからないでください。

なので此方から支払いが生じる物については全て俺への稟議提出、承認後の対応になります。

でも俺から直接指示受けた場合(素材の購入など)やギルドへの年会費の支払いなどは稟議必要ありませんので」


皆真面目に聞いてくれた助かる。

ソフィー様が「まじめな人達」と言っていたのは嘘ではない様だ。


以前、事件を起こしそうになったのは貴族である4人。

だからと言う訳ではないが、幼少からしっかりした教育を受けているので俺の説明に対しての理解は物凄く早かった。



・・・そして、全員爵位を持っていて俺より年上、全員当主である。

歳も40代、実家の運営大丈夫なのか?


「家督は既に息子に継いでもらいましたから問題無いですよ」

「私は父上に家督を返上しました、時機を見て私の息子が継ぐ事になるでしょう」


マジで?

ここに来るために?



「クルトンさん、これは陛下からの慈悲です。未遂で終わりましたから。

もし事件が発生してしまっていたなら彼らは奴隷落ち確定で、お家は取り潰しになっていたかもしれません。

来訪者の加護持ちへの加害者は、この国の法律でかなり特殊な事例を除き情状酌量の議論無くほぼ極刑になります。

場合によってはその場での処刑が認められる位ですから」


ああ、そうだったね。

だからこそお披露目のあの場で、事を起こす前に俺の独断で彼らを捕縛したんだ。

結果論ではあるが俺のお陰で彼らの命と家族の名誉が守られたって事になる。

もっと感謝してほしい。


「感謝してもしきれません」

「ええ、何か有れば家族ともどもインビジブルウルフ殿の味方になる様申し伝えております」

「我々の理想を形にしたお方だ、最上の感謝を」


前言撤回、良いですよ気にしなくて。

強く期待される度に俺のSAN値が削られていくから、マジでお願い。

期待に応えられなかった時の自分を想像すると気が滅入るのよ。




一応机上での説明が終わり徹夜で作成したマニュアル通りの仕事を、これまた徹夜で作成した帳票関連フォームを使用して仕事の流れを体験してもらう。


前世の記憶に合った内容だがPCが無いので全て手作業、辛うじて計算時に算盤そろばんを使う位だ。


「1件1件の作業に時間はかかりますが後の集計、確認時は逆にこの方が楽ですね」

ほほう、良く分かってらっしゃる。


事務所は年末年始や祝日になっている建国記念日と陛下の誕生日を除いて無休にするが、そもそもこの仕事量で11人は多いと思うのでシフトを組んで交代で休暇は取って貰う。


ちゃんと休まないと仕事が雑になってしまうからね。


じゃあ、もう一度最初から仕事のシミュレーションしてみましょうか。



本日の職業訓練は終了し皆宿舎に帰って行く、これから食事を作る様だ。

疲れただろうからお風呂にでも入ってゆっくりしてほしい。




そしてさらに二日が経って職業訓練のお昼休憩時にフォネルさんが俺宛にやって来た。


「やあやあ、クルトン。この前言ってた件、君にも登城命令が出たよ」


お、早速ですか。

で、いつまで行けばいいんでしょうか?


「なんでもセリシャールとシンシアの婚約報告も兼ねるって言ってたから1か月後だね。

魔獣の件も始末は付いているからそんなに急がないって」


そう、既に魔獣の件はフォネルさんが王都に報告してきて、魔獣の素材も献上する為に現在街道を運搬中のはずだ。


なんたって53頭だからね、今回は駐屯騎士団に勲章が叙勲されるんじゃないかと噂になってる。


「職務の一環ではあったけど今回の討伐は異例中の異例が重なったからね、何かしら騎士団への便宜を図ってくれるはずだよ。

それなりの金額の賞与が出るかもしれない」


それで騎士の皆さんがあんなにニコニコしていたのか。

臨時収入、うん良い響きだ。


けど1か月後か、移動に約1週間掛かるから実質3週間程度の準備期間。

こうして考えると意外と時間ないな。


「これから人選を進めるけど今回は領主のカンダル侯爵も行くからね、護衛もそれなりに連れていくからここの防衛が疎かにならない様に最高戦力のデデリ大隊長は居残り、王都には駐屯騎士団の代表代理として私が同伴する事になると思う」


なるほど、順当な所だろう。

何気にフォネルさんも加護持ちだから此方の護衛も問題無いし、クウネルもいるし。


「出来るだけ早く出発の日取りを決めるから準備は進めておいてね」

そう言うとフォネルさんはクウネルに跨り訓練場へ帰って行った。



「すみません、インビジブルウルフ卿。あれはグリフォンですよね?」

王都から来た使用人、タントルム前伯爵様が俺に聞いてくる。

他3人の貴族様も一緒に。


ええ、フォネル副隊長のグリフォン、名前はクウネルです。


「素晴らしいですねぇ・・・いや、私も馬には目が無くて。

スクエアバイソンも、卿のスレイプニルも素晴らしくは有りますがグリフォンはまた格別ですなあ」


もう見えなくなった、クウネルが飛び立って行った方向を見ながらうっとり呟いている。




俺も気にしていなかったんだが実は貴族様達は意外と騎乗動物、馬の飼育を趣味にしている人が多い。


騎士の様にゴリゴリに本格的な物でなくても乗馬を楽しむ人も結構いるが、馬に乗れない人でも品種改良に力を入れ、それなりの実績を残した人が少なくないそうだ。


馬を持つだけで税金含めてお金もかかるし貴族の道楽と言えなくはないが、品種改良などは国益、軍事の増強に直結するのでそれなりに結果を残す貴族家には国から補助金が出ることも有るらしい。



いずれにせよ好きな事を好きにやれるのは幸せな事だ。



以前捕獲したスレイプニルが加わって、騎乗動物の事業も本格的に動き出しているから何れ王都の事務所で働いてもらう事が有るかもしれない。


そんな事を伝えたら「ぜひお願いしたい」と頼まれた。

貴族様なのに意外とミーハーだな。


いや、好きな事にそんなのは関係ないか。

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