第363話 「さもありなん」

てんやわんやの俺、クルトンです。



あれから2日後、とうとう訳ありのあの貴族様とその家臣、合計11名がコルネンに到着した。


事前に連絡を貰い準備をしてはいたものの、当てにしていた時間は突然に訪れた魔獣討伐戦に殆ど費やされ、結局徹夜で職業訓練用の資料を整えた。



そして彼らが領主館へ到着したとの連絡を受けスクエアバイソン厩舎付近に建設した事務所兼宿舎の建屋に向かう。

領主様への挨拶が済んだらこちらに来るそうなので。



厩舎に到着した俺はとりあえずテホアとイニマを誘い、訓練として一緒にムーシカに乗って乗馬のレクレーション兼練習を行っている。


将来馬に乗れた方が何かと便利だしね。



暫くこうして乗馬の練習をしているとカラコロと車輪が回る音が聞こえ、馬車がこちらに向かってくるのが見えた。


馬車の数は4台、他は何もない。


え?少なくね?


寝具とまではいかなくても服やら靴やらだけでも11人分ともなればそれなりの量になるんじゃね?


あれに人も乗ってるんだろうから尚更荷物の量が制限されてるんじゃないの。


脇に併走している馬に乗っているのはセリシャール君、護衛だろうか他に3人の兵士。

セリシャール君はちゃんと騎士の鎧を装備していてこれが正式な職務であることが分かる。

駐屯騎士団所属だけど領主様の名代として帯同しているのかな。



まあ、話を聞いてみないとそんな事は分からない。

取りあえず到着までもうちょっと時間かかる様だから今日の訓練はこれで終了しテホアたちを家まで送って行った。




厩舎前に戻って来るとほぼ同時に馬車が到着する。

御者が馬車から降りるより先に扉が内側から開けられ、一番先頭の馬車から4人降りてきた。


前3台に合計11名が乗車し、最後尾は幌が付いた荷馬車だがさほど大きくは無い。

あれに一切の荷物が積んであるのか。改めて少なくね?旅行に来たんじゃないんだけど。



「「「宜しくお願い致します」」」

貴族様を始めとして綺麗に整列した使用人たち総勢11名は声を揃え俺に挨拶して来る。


いや、意外。こうも統率取れていると何だかかえって警戒してしまう。

何にも無いよね。


「インビジブルウルフ卿、この11名が本日より卿の部下、使用人としてここで奉公する事になります。

卿の件に付いてはお手を煩わせない様に秘匿事項を除き事前に教育済みと聞いております。ですので簡単な自己紹介の後は早速仕事の説明に入られて宜しいかと」


あ、誓約魔法ですか。そうですか、なるほど。

俺が言うのも何ですが人権って概念無いのよね、ここ。

話しが早く済んで助かります、封建社会万歳(ヤケクソ)。


そう言う事であれば。

「それではまず宿舎から案内します。このまま俺に付いて来てください」


さほど離れていない事務所兼宿舎に向かう。

1階部分が事務所、そして居住スペースの入口は別にしてあり食堂、トイレ、浴場、2階に通じる階段がある。

2階は各自の部屋、ちゃんと1人部屋だよ。

窓ガラスのスペースも大きく取って明るさもバッチリ。



食堂は当番制で自炊してもらうんだが、コンロはシンプルながらも付与術式を使用した薪を使わない簡単操作の物。

井戸からも直ぐ近く。


お風呂は源泉かけ流しの温泉でシャワー付き、ウォシュレットは無いがトイレは水洗。

そして適温に下げる為に地上の配管で循環、放熱させている温泉水は、冬にはバルブの切り替えで1階の床暖房に利用できるように工夫している。


「(クルトンさん、ここ本当に使用人が使って良いんですか?広さはともかくいろいろ凄いんですけど、設備が)」

この説明を一緒に聞いていたセリシャール君が小声で俺に聞いてくる。


その為に作りましたから構いませんよ、それにこれだけコンパクトな方が機能を盛り込むには都合よかったりしますから。


例えば領主館に同じ方式の床暖房を設置するとなると、温泉掘るだけじゃなくてボイラーでお湯を沸かさないと間に合わないと思う。




説明を受けている11人は「話に聞いた通りだ」とかウンウン頷いて納得しているみたい。


あれ?

もっと驚いても良いんですよ?そして俺を誉めそやしても良いんですよ、遠慮せずに、ほら。


「インビジフルウルフ卿はあの腕輪の発案、設計者だ。

であればさもありなん」


「ええ、今まで成し遂げられなかった来訪者の加護持ちの方々をお救いになられた御仁で御座います」


「ましてやその功績をひけらかす事もせず、ひたすら成果を上げる事だけに邁進するそのお姿、お話に聞いていた通りで御座います」



何だよ、おい・・・一周回って褒め殺しが気持ち悪いよ。

本当になんか企んでいそうだよ。

セリシャール君、これ本当に大丈夫なの?洗脳とかして無いよね。


「えー話は長くなりますが、私が聞き及んでいる内容ですと・・・」そう前置きして内容を経緯含め説明してくれる。


「タントルム伯爵様はじめ貴族(4人)の方達は学生時代に来訪者の加護持ちへの補助具・・・ええ、クルトンさんが開発した腕輪と同じ機能の物を研究されていた位、来訪者の加護持ちの方への救済に力を注いでいたそうで。

ええ、はい、自分達ではついぞ叶わなかった夢の成果を目の当たりにされて・・・それが世界の加護持ちよりもタリシニセリアンの利益優先、技術を独占されると勘違い、そうです某国から吹聴されていたらしくてですね。

はいはい、ええ、上手くのせられ操られる様にあのような事件を、うん、クルトンさんのお陰で未遂で済んだそうですね。」


「罰として自分たちが奉公に行く先、クルトンさんがあのインビジブルウルフ騎士爵と分かった途端・・・まあ、こんな感じになられてしまってですね」



こえぇよ!

俺、褒められるのメッチャ好きだけどこんなのは勘弁してほしいんだよ、重いんだよ!

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