第125話 【希望】聖別された命

「姫様、こちらの品でございます」


いつも通りの朝、とは言っても昼にも近い頃。

事前に連絡は貰っていたけど、寝坊してしまったのは私の落ち度だけど着替えも済んでいないのに部屋に直接来るのはどうかと思うの。


・・・もう、そんな顔しないでよ。

支度を済ませるから隣の部屋で待っていてください。




侍女の助けを借りて着替え、髪を整えほんの少しだけどお化粧もして。

今更だけどアスキアには酷い顔を見せたくないもの。


部屋のテーブルにいつもの通りの昼食を並べてもらいアスキアを呼んでもらう。

食事しながら話を聞いても良いでしょう?


でも・・・なんだかとても暖かくて品数も随分多いのだけど、私こんなに食べれないと思うの。今日はどうしたの?



「本日は国王陛下の命を受け成人のお祝いをお持ちしました。急ではございますがまずはこちらを腕に通して頂きたく」


質問には答えてくれないのね。

でも、こんなに急いで。

公式の場でなくてもいいのですか、国王陛下からのプレゼントなのでしょう?


「姫様のお体の為です、最優先事項でございます」

相変わらず堅い言い回しね、私の旦那様になる方なのに。



とても上品な箱、開ければいいのよね?


・・・綺麗な光ね、腕輪かしら。

暗色の奥から漏れる金色の光、とても神秘的。


え、左手に?ここを手の甲側にして?・・・かなり緩いけどこのままだと落ちちゃうわ、これから職人が寸法調整に来るのかしら。

え、説明書?そんなのが有るの、変な腕輪ね。


時計!腕時計と言うの。

本当、意匠と思ってたけど針も歯車も動いてる、凄いわ!


「取り扱いはさほど難しくありません。取り合えず装着すれば効果を発揮致しますので、そのまま魔力を腕時計に通して頂けますでしょうか」


そうなのね、・・・こうかしら?

あら!縮んだわ、腕にぴったり。


ほらこんなにピッタリになったわ、重さも感じない。ふふ、とても素敵。

「・・・では食事に致しましょう、今日は私もご相伴にあずかりますので」


それでこんなに品数が有ったのね!

アスキアと一緒の食事なんていつぶりかしら、とても嬉しいわ。




あら!今日のパンはとても美味しい、何か変えたの?

いえ、他の・・・お野菜もスープもチーズも!!


お茶も味が違う・・・どういう事?今までとは全然・・・どうしたのアスキア、涙なんて?

「もう大丈夫です、今日は食事の後に庭を散歩いたしましょう。大丈夫ですこれからは外に出るのにヴェールも必要ありません」



どうしたのかしら、アスキアはまだ泣いているけど悲しそうではないわね(笑)

今はなんだかとても胸が軽いし部屋も明るく見えるわ、そう言えばいつも重さを感じていたナイフとフォークも今日は全然気にならない。




そう、そうなのね。この腕時計のお陰なのでしょう?

国王陛下がこれを準備する為に心を砕いてくださったのね。


曾爺様にはちゃんとお礼をしに行かなくちゃ。


「これを製作してくれた職人も紹介いたしましょう、きっと驚かれますよ」


ええ、とても楽しみ。

その時は付き合ってくれるのでしょう?あなた。



後に腕時計の機能を省き材料にオリハルコンを使用しない腕輪が廉価版として開発、製作され聖別された命(『来訪者の加護』を持って生まれた者)へ国から無償で譲渡される事となる。



成人の祝いの品として腕時計がチェルナー姫へ渡された日、

この日こそ人類が『滅亡の呪い』から解き放たれた瞬間、分水嶺だったと後の歴史家の一人が研究の結果としてそう結論付けている。


この腕時計はチェルナー姫没後も故障する事なく動き続け、そして効果を発揮し続けた為に何世代にも渡って腕輪の製品見本としての役割を果たしていった。


その為、この歴史家の研究結果に異を唱える者はだれ一人いなかったという。

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