第126話 治癒魔法師の卵
コルネンに戻って来ました。
いつもの日常に戻ると思って油断していた俺、クルトンです。
「クルトン、お前に手紙が来てるぞ」
仕事から戻ってくると叔父さんから手紙を渡されました。
行商人のカイエンさんが持ってきた様です。
誰からだろう。
ん?シンシア・・・ああ!あの子か。
一番最初にコルネンに来る道中の村、そこで知り合った足を悪くしてた女の子。
文字も書けるようになったんだな、しっかり勉強したんだろう。
どれどれ。
フム・・・近々俺に会いに来たいらしい。
俺に治療を依頼したいとの理由もあるが、どうやらコルネン駐在の騎士団が村に立ち寄った時に施した按摩の評判が良くて治癒魔法の勉強しないかとスカウトを受けたようだ。
すげえな、騎士団がスカウトする位なのか。
それで俺に相談したいとも書いてある。
とりあえず手紙の内容については是非もない、大いに歓迎する。
俺は自分が使えるから実感が薄いが、治癒魔法なんてのはそもそも扱える人が希少だ。
故に規模の大小はあるものの、街クラスのどの都市にも『治癒魔法協会』なるものがあり(教会ではない)国からの予算もついて治療の事例や研究成果を共有、治癒魔法師の発掘と育成を行い治療技術の発展に寄与している。
そんな健全な協会だそうな。
どこかの元老院とはえらい違いだな。
なるほど、治癒魔法師の可能性を持つ前途有望な若者の騎士団による囲い込み。
まあ、そうなるわな。
で、いつ頃の話になるのか・・・直ぐでもオッケーってか。
俺が迎えに行った方がいいな、なんとなくだがそう思う。
アイザック叔父さんに事情を話し、治療のためにシンシアという女の子を連れてくることを伝える。
宿も取らないと、俺が呼んだ様なもんだから準備はしなければなるまい。
その後、騎士団所属になるなら向こうの宿舎に移動するだろうが。
「ここで良いじゃねえか?宿代もったいねえだろ」
前も似た様な事ありましたね、この問答。
部屋はあるにはありますがあまりご迷惑おかけするわけにもいかないですし、お金なら問題ないですし。
「10歳の子供って話しじゃないか、親元離れて心細いに決まってんだろう。良いから任せておけって」
うん、押し切られた。
いつもありがとうございます。
次の日、フォネルさん経由であっち方面に巡回行く騎士の人にシンシア宛の手紙を託す。
名前の他に片足が不自由な女の子と伝えたから間違える事は無いだろう。
明後日には出発するそうだからその当日には届くはずだ。
7日後には迎えに行くと書いたので俺も準備を進める。
多分だけど服とか靴とか下着とか準備しておいた方がいい。
村での服装のままだと多分ここでは浮いてしまう。
多感なお年頃の女の子なんだから恥ずかしい思いをさせる訳にもいかない。
それもアイザック叔父さんに話すとお奥さんとお祖母さんが協力してくれると申し出てくれる。
子供とはいえ1年も合っていないから、あれからかなり大きくなっているだろう。
大体の予想を伝えてそれよりもさらに少し大きめの物をお願いする。
その辺は子育ての経験がある女性陣、心配するなとの心強いお言葉を頂きましたです、ハイ。
大きすぎれば向こうの親御さんがある程度は仕立て直してくれるだろうしね。
あと治癒魔法師であれば杖とは言わずともタクトなんか準備してあげよう。
魔法を発現させ易いように。
こんな物かな。
・
・
・
大麦村への出発当日、コロッセオ東屋の脇で出発準備を済ませそろそろ行くかという頃合いでフォネルさんが俺の馬車に寄ってきた。
あ、大麦村ってのはシンシアが居る村。なんでも昔から大麦生産を生業にしていてそのまま名称として定着、登録されたそうな。
土地がかなり良かったようで開拓村時代からずっと飢える事がほぼ無かった村らしい、素晴らしいところじゃないか。
「クルトン、クルトン。大麦村のシンシア君の事くれぐれも頼むよ。彼女は間違いないってセリシャールも太鼓判押してるんだ」
おおう、なんか必死ですね。
「そりゃそうさ、唾つけられていない治癒魔法師なんて見習いであっても稀有だからね。騎士団専属になってくれるかもしれないんだから。
治癒魔法師は希少すぎて治癒魔法協会からの出向者ですら1個師団に1人いればいい方なんだよ。皆、安全で儲かる方に行くからなかなか騎士団所属になってくれないんだよぅ」とごちる。
・・・水を差す訳ではありませんが、まだ治癒魔法師になったわけではないのにえらく期待してますね。
あまりプレッシャーをかけるのもどうかと思いますよ、まだ10歳なんですから。
「セリシャールが太鼓判押してるって言ったろう?大丈夫だよ」
その自信がどこから来るのか分かりませんが手加減してくださいよ、再度言いますがまだ子供なんですからね。
「大丈夫、大丈夫」
なんか楽観的すぎないか?その自信の根拠は教えてもらえないんだろうね。
とりあえず出発、半日もかからないから気楽に行こう。
・
・
・
はい、到着。
スレイプニルのお陰で速攻付きました、急いだわけでもないのに2時間かかりませんでしたよ。
今回は先導してた狼達もまだまだ体力余っている様子。
何なら馬車の試走してた時の方が遠くに行ってた。
「うわースゲーこの馬、足が8本ある~」
「馬車おっきい」
「なークルトンのおっちゃん、俺も馬車乗せてくれよー」
早速子供たちが寄ってきた。
何回か近くを通ったことはあったが、立ち寄ったのはカイエンさんと一緒の時の1回だけだったのによく俺の名前覚えてたな。
あと『おっちゃん』って言った子、オヤツあげませんよ。
シンシアに会いに来たんだけど何処?と聞くと我先にと案内してくれる。
馬車の周りをちょこまかされると危ないので皆乗せてあげた。
「うわっ椅子がふかふかぁ」
「スゲー天井高い」
「揺れない・・・逆立ちできそう」
何をしている訳でもないので好きにさせよう。
本物に触れる事も情操教育の一環・・・うん、言ってみたかっただけだ。
騒いでいる割にはしっかりシンシアの家まで案内してくれて、お礼に揚げパンを1個づつ渡す。
うん、大好評、そうであろう。
そうして家の前で騒がしくしていると
「ああ、クルトンさん。遠いところ誠に申し訳ない」
シンシアのお父さん、お母さんが出てきて俺を出迎えてくれる。
シンシアも少し遅れてドアまで出てきた。
「久しぶり、思った通りだ。大きくなったね」
シンシアは少しはにかんだように笑って「来てくれて有難う」と、依然と変わらず小さな声でそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます