第127話 スカウト
子供の成長は早いというが1年しか経ってないのにシンシアは随分背も髪も伸びた。
そう感慨深く思う俺、クルトンです。
勿論子供であることは変わりないのだけれど雰囲気というのか、随分変ったように感じる。
「どうぞ家の中に」
父親から促され中に入る、この地域では結構しっかりした家。
コルネンに近いからだろう、騎士団の巡回の通り道という事もあり魔獣の影響をほとんど受けない地域なんだろうな。
お母さんがお茶を出してくれた。
白湯じゃないのが俺を最大限もてなしている証拠。
世間話を振られたので少しそれに付き合っていたがカイエンさんから聞いていたんだろう、シンシアからスレイプニル、馬車の事、騎士に成った事、魔獣を討伐した事についての話をせがまれそれに答えていったら結構な時間が過ぎてしまった。
そう言えばお土産もってきてたんだった。
馬車に積んでいたバッグを取りに行きそこからハムとお茶、案内してくれた子供達にも配った揚げパンを渡す。
ちゃんとお茶はステンレス製の茶筒に入れて密閉、湿気対策もしている。
あと洋服なんかも一緒に渡す。
ご両親はそれはそれは恐縮したが下心もあるのでまずは受け取ってくれと、今晩ハムを焼いて食べてみてと促す。
きっと旨いから(笑)
「あとこれ」
俺が出発前に作った金属製のタクト。
風合いは鉄にも似た武骨な鈍い色だが、魔力を通せば淡く光る正真正銘の魔銀製。
3人ともこれが何かピンとこないようで・・・当たり前か。
シンシアに持たせて魔力を通すように促すとすぐに淡く光り出す。
すごいな、いきなり魔力通せるんだ。
「え、コレ何?光ってる・・・」
魔銀製のタクト、これを使えばオリハルコンとまではいかなくても魔力を放出する為の制御が容易になる。
魔法を行使する為の補助具の様な物だよ。
「かなりの物なのではないのですか?ミスリルなのですよね?」
かなりの物ですね。
精錬度合によっては金より遥かに高価。
「「・・・」」
警戒されるのも分かりますが、シンシアはそれに見合う才能を持っていると騎士団が期待しています。
これはコルネン駐屯騎士団所属のカンダル侯爵家嫡男、セリシャール様直々の騎士団への勧誘と認識いただいて結構です。
それ程シンシアが騎士団に所属してくれる事を望んでいるのです。
「本当でしょうか・・・確かに按摩の腕は誰よりも上手いのですが騎士団に求められる程とは、どうにもピンと来なくて。
現実味が無くて信じて良いのか・・・私どもでは判断付かなくて」
まずは足の治療が終わってからになりますが、その後団内を見てもらって決めても良いでしょう。
まだ子供なのに無理強いするようなことはしませんよ。
「ええ、クルトンさんの事は信用しています。ただ・・・心配なだけなのです。
ハハ、私の気持ち、それだけなのですよ。情けない事に」
奥さんがそっと旦那さんの手に自分の手を重ねシンシアも泣きそうになっている。
参ったな、ここまで真剣に考えているとは思わなんだ。
「騎士団からのスカウト、やったね!」
くらいのノリかと思っていたんだが、まあそうだよな。
事情を聞いてはいないが一人娘の様だしまだ子供だし、心配にもなるよな。
下手なこと言って反って心配させるのも本意じゃない。
「騎士団の件は直ぐに返事は求めません。とりあえず治療を進めましょう」
そう言うと
庭先を間借りして馬車に宿泊する旨伝えて家から出る。
まずは心が落ち着くのを待とう。
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俺の馬車の客室にはテーブルが有る。
そのテーブルの中央は細工がしてあって、そこをパカッて開けると鉄板が現われる。
その下、そこには鉄板と丁度良い高さになる様に火鉢が置いてある。
炎の魔法をそこに置くと・・・簡易的ではあるが鉄板料理が出来るようになっている。
室内で一人焼肉。
焼くのはハムだけど。
窓を開け換気も忘れない。
そして狼達は既に客室内で待機、肉待ちの態勢です。
”ジューー”
相変わらずハム旨そう、パンも鉄板で焼いて・・・これも旨そう。
「「「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」」」
ちょっと待って、もうちょい、もうちょいだから。
換気はしているが屋外とは違いある程度は空気がこもるので室内に強く漂うハムが焼ける匂いに狼達が落ち着かない。
最近は狼達にと塩を極限まで減らしたハムを準備している。
お陰でいつもの物より日持ちはしないが生肉よりはよっぽど持つから結構便利だ。
作り置きできるから。
うん焼けた、ほら、ゆっくり食うんだぞ。
用意している皿にそれぞれハムを乗せてやるとすぐに食べだした。
俺もパンにはさんで食べよう、胡椒強めにして・・・何度も言うけど相変わらず旨そうだ。
食べ終わると収納から布団と毛布、枕を出して就寝、狼達と一緒に。
あったけえ。
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次の日の朝、馬車から出て軽く体を動かす。
気持ちのいい朝、そんな朝は馬車の荷台から降ろした馬具をムーシカに取り付け、村の外を狼達と一走り。
帰ってくると俺を待っていた様で馬車の前にシンシア一家が居た。
「おはようございます、クルトンさん。昨日の話しをしたいのですが」
ええ、良いですよ、馬車の中で話しましょう。
そう言って馬車に迎え入れる。
「はあ~、こうなっているのですか。見事なもんですね」
そうでしょう、そうでしょう。ここまで作りこむのにかなり苦労しましたから。
テーブルの下から火鉢を出して炎を灯し五徳を置くと、鉄瓶に魔法で水を入れてお湯を沸かす。
魔力を強めに込めた炎はすぐに水を沸騰させ、それをティーポットに注ぐと馬車内にお茶の香りが広がる。
「・・・魔法も見事なものですね」
いやーそれ程でも(笑)
そしてカップにお茶を注ぎ皆の前に出したところで父親が話を切り出した。
「シンシアの足の治療の後は、身元引受人をクルトンさんにして頂く事でコルネンの騎士団にお世話になりたいというのがこちらからの条件です、厚かましいのは承知しておりますがそれでどうにかなりませんでしょうか」
ん、妙な話になってきた。
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