第128話 親として

なんか妙な話になりそうな気がして、

まずは話しを聞いて見て判断しようと、そう思う俺、クルトンです。



シンシアのお父さんはそのまま話を進めます。

「騎士団へのスカウトはとても光栄なことだと思いますし、同じく騎士のクルトンさんからわざわざ迎えに来ていただく意味も重々承知しています」


ん?やっぱり勘違いしていそうな・・・俺が来たのは都合が良かっただけだよ、専用馬車もあったし。

足の治療を勧めたのも俺の方からだったし、コルネンに居る騎士の中で俺が一番フットワーク軽かったってのもある。


「立ち寄って頂いている騎士団の方たちにも大変良くして頂いています。ただ1年前のあの粗相に対し取計らっていただいたご厚意を考えるとクルトンさん以外に娘を任せられる人が思い浮かばないのでございます」


・・・なんかすごく重いというか堅い話になってきた、ちょっとこの雰囲気苦手だ。

とりあえずは話しを進めよう。


それで身元引受人というとコルネンに居る間、俺がシンシアの身元を保証、責任を持つという事で?


「はい、厚かましいお願いではありますが、畑もありますし私たちがコルネンまで付いて行くわけにもいきません」

そう、3人一緒に頭を下げてきます。


シンシアはそれでいいのかい?


「うん、クルトンさんなら信頼できる」

お、おう、うちの妹たちからも言われたことないよ、そんな事。


そうか・・・まあそんな何年もって訳でもないだろうし成人したら自分でその後の進路を決めてもいいだろう。

騎士団に残るもよし、自分の診療所を持つも良し・・・もしコルネン、騎士団の空気が合わなければ村に戻ってもいいだろう。


治癒魔法師としての腕次第だが流れに身を任せて周りの人たちに支えてもらう様な緩い生き方でもいいと思う。

意外とそんな余裕のある生活からしか生まれない考え方、文化ってのもあるだろうし。


前世の人間が他種族より急速に繁栄したのも祖父母達が子育てに参加しだしたからって事言ってた学者さんもいた位だから余裕は大切。


「分かりました、治療の後にはなりますがその方向で騎士団にも交渉しましょう。まずは治癒魔法師として一人前になる為の勉強からですね」

治癒魔法師の勉強なんて何も知らないが適当に言ってみる。


消費する魔力量次第だが意外とこの曖昧な世界の補完作用は強い。

治癒の原理、原則を知っていれば素質が有ればなんとかなる様な気がしている。

俺がそうだった様に。



一通り話がまとまったところでポムが俺にすり寄ってくる。

『話しは終わったんだろう?朝飯早く食わせろ』との催促だ。


うん、材料は昨日と同じハムとパンを使い追加で辛子入りのバターと軽くソテーしたほうれん草でサンドイッチを作ろう。

狼達のハムは昨日より厚めに、枚数増やしてあげよう。大人しく待っていたからね。



「朝ご飯まだなら簡単なものですけど食べていきませんか?」


「は、はぁ・・・それではごちそうになります。」


昨晩と同じようにテーブルの鉄板で調理してサンドイッチを作ってふるまう。

勿論調理スキルの恩恵をフルに受けて。


「お父さん、美味しい!」

「ああ、本当に美味しい・・・このハムは昨日いただいたものと同じ物ですか?」


ええ、そうですよ。


「今日の晩にでも焼いてみましょう、シチューに入れても良いんじゃないかしら」

カリッカリに焼いてから後入れしても美味いですよ、奥さん。


今までの重い雰囲気とは打って変わってワイワイしだした・・・この方が気分が楽でいい。


「あ、あの・・・それでシンシアの出発は明日でもよろしいでしょうか」


構いませんよ、準備もあるでしょうし。

自分は一度コルネンに戻りますので、明日また迎えに伺います。


「何度も申し訳ございません・・・」


いえいえ、今日はゆっくり家族で過ごしてください。



一度コルネンに戻って来ました、今コロッセオに居ます。


「クルトン!シンシア君は?もしかして断られたの、そうなの?ええ、そんなぁ・・・」

フォネルさん落ち着いてください、大丈夫ですよ。

色々準備する時間が必要なので一旦俺だけ戻ってきただけです。

明日また迎えに行きますので。


「本当かい?はあ、寿命が縮んだよ」


でも騎士団の件は足の治療が終わってからですよ。それが一番の目的なんですから。


「ああ、分かっているよ。でも明日か・・・セリシャールにも伝えておくよ」

「ほら、あっちでソワソワしてるだろう」とセリシャールさんに目を向けてニヤリと笑う。


ほうほう、なるほど・・・(ニヤリ)



コロッセオに馬車を、ムーシカ、ミーシカを厩舎に預けパン工房に戻って叔父さん達に俺が身元引受人になる事を話す。

シンシア達には明日の昼過ぎに大麦村に着くと言ってあるから明日の晩からはここに一緒に住むことになる。


「今度は女の子か、家がまた明るくなる。良いことだ」

ご迷惑おかけしますが宜しくお願い致します。


「構わんよ、なあ?」

「そうですよ、どんな子かしら。楽しみだわ」

とお祖母さん。


とても大人しい子ですからあまり引っ張りまわさないでくださいよ(笑)



そして当日の朝、出発する際ムーシカ達を馬車につないでいるとセリシャールさんが寄ってきた。


「クルトン卿、くれぐれも頼みますよ。シンシア殿は騎士団の戦力の底上げに欠かせない重要な人になるはずですから」

ほう?そんなに。疑問に思っていましたがその理由を聞いても?


「私の『勘』です」

・・・これ以上は聞かない方がいいみたいですね、国王陛下と同じ匂いがする。




しかし今更だけど俺が治癒魔法使えるの忘れてんじゃないかな。

結構凄いのよ、俺の治癒魔法。


「レイニー伯爵様の件が有りましたでしょう?タガが外れたクルトン卿のそれは効果が高すぎます。故に危険なのです。加減してその力をふるってください」


そうなのですね、分かりました。

余計な波風は立てたくありませんしね。



「そうはいっても陛下に認められた自由騎士殿ですから心配はしていないのですけども」

何ですか、その不穏なセリフは!

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