第129話 「お迎えに上がりました」

俺の知らないところで何かが進んでいるような予感がして少しビビっている俺、クルトンです。



自由騎士とはなんぞや。


「正式な爵位、役職ではありませんが陛下から直接叙爵され、それでいて決まった任務を持たない騎士の事です。

歴代の自由騎士は陛下の懐刀として密命を受け、それを熟す事が多かったようですね」

なにそれ、某将軍様の御庭番みたいでカッコいい、今度風車でも作ろうかな。

いや、彼は御庭番ではなかったな。でも作ろう、風車。


「陛下は言及しませんでしたが事の経緯と現状を見るに間違いないでしょう。自由騎士を『王家の犬』と言う輩もおりますが気にすることはありません。

そう言った不届き者たちは自由騎士に成り得るほどの人材を繋ぎとめるだけの信用も格も人徳も無い愚か者ばかりですからね」

なんかソフィー様を思い起させる言い回し。


この国の、この世界の人達は自分の責任を果たさなかったり、果たすべき使命を蔑ろにする人をことさら嫌悪する。

特に貴族はその傾向が強く、元老院の爺さん達がまともな人間から相手にされなかった理由もコレである。

ある意味厳しい社会構造、怠け者に食わせる飯は無いって感覚だ。


それにこの国の王家の祖先は、大災害後の世界の立て直しを行ったとされる来訪者の従者をしていた(そう伝わっている)事から、果たすべき使命についての責任感はなおさら強い。


この事を知らない国民も教育の中にこの思想は擦り込まれている様で一種の呪いのようにも感じる。

悪い方に振れてないのが救いだけど。


ソフィー様やパメラ嬢、デデリさんが口うるさく俺に言ってきた事も、考え方の根底にこれが有るからだと思えば納得もする。



「とにかくお願いします、必ずシンシア殿を無事に連れてきてください」

大丈夫ですよ、普通の馬車でも片道半日、俺の馬車なら2時間くらいの距離ですし、向こうの親御さんからの申し出で俺が身元引受人になる事で話が纏まってますし。


「クルトンさんが身元引受人!本当ですか!」

ええ、もともとコルネンに来る理由がシンシアの足の治療する事でしたから。

おれの下宿先にしばらく滞在しますしね。


そもそも騎士団の件は治療のおまけの話って認識ですよ、まあ足は完治する見通しついてますから今となっては治癒魔法師の件の方が重要なんでしょうけど。


「そ、そうですか、クルトンさんの下宿先に」


セリシャールさんがブツブツ言いだしたのでこの隙に「では行ってきます」と出発する。



何の問題も無く大麦村のシンシアの家に到着。

相変わらずポムたちは走り足りないようでまだソワソワしている。


村に入った時に伝令宜しく子供たちがシンシアの家に連絡走ったようで、着いた時には家族皆が玄関から出て待っていた。

俺が用意した新しい服と靴、そして大きなリュックを身に着けたシンシアが一歩前に出ると「お願いします」と挨拶してくる。


なんか流れで

「コルネン駐屯騎士団の代理としてお迎えに上がりました」

と、お道化たように言いながら頭を下げ、馬車のドアを開ける。


親御さん含め一瞬”ビクッ”とするものの俺の手をかりてシンシアは馬車に乗りシートに座ると外の両親に向いて「行ってきます」と別れを告げる。


親御さんも「行ってらっしゃい」と言った後俺に、

「どうかよろしくお願いします、どうか・・・」

と胸の前に腕を重ね深く頭を下げる。


はい、任されました。

私が、『クルトン・インビジブルウルフ』が責任を持ってシンシア殿をお預かりいたします。


そう言ってこちらも頭を下げ御者席に乗り込みコルネンに向けて走り出す。


俺を信頼してくれるとは言ってもやっぱり心配なんだろう、ご両親はいつまでも俺たちの乗る馬車を見送り続けていた。



もうすぐコルネンに着くが・・・なんかやけにあっさり済んでしまった。

いや、面倒が無くて楽なんだがそれだけ俺を信頼してくれたって事だろうか。


とにかく大事なお子さんを預かったんだからちゃんとしないといけないな。

まずは下宿先にいって、騎士団への顔合わせは明日だな。




マルケパン工房に到着、ここが俺の叔父さんの家で下宿先だよと伝える。

足が悪いので下車する時も手を貸し、リュックは俺が持つ。


「おう、初めましてだな、俺がこいつの叔父でアイザックだ。皆を紹介するからまずは入りな」


俺が店のドアを開けるより先に叔父さんが外に出てきてそう言う。

これは待ち構えていたんだな。


中に入り皆に挨拶、シンシアの部屋は息子さん達が結婚した時の為に用意していた一室を当てている。

定期的に掃除していた事もあり綺麗な状態。

シーツも毛布も新品で、俺のクラフトスキルで作ったテーブル、椅子も置いてある。


「部屋を準備して頂けるのですか?」

「ん、そうだが?」


「あ、有難う御座います」

「礼を言われる事じゃねえよ、年頃のお嬢さんには当然の事だろう」

さすが叔父さん、男前。


「ちょっと早いが飯にしよう、準備は済んでる。食っちまおう」

そうですね、シンシア行こうか。



食事の席でお祖母さん、叔母さんは同性の話し相手が増えてとても喜んでいた。

実際とても姦しい。


明日は騎士団へ挨拶とコルネンの案内、明後日からはシンシアの足の治療を始める。

幸か不幸かこの1年の内にレイニーさんへのかなり高度な治療を始めとして怪我をした騎士団員に治癒魔法を施し熟練度が上がってる。

だから以前見込んでいた1週間よりかなり短い期間で済みそうだ。


ぼんやりとした勘ではあるけれど。


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