第206話 序列
ヴェルキーの背に乗り、ゆっくり野生のスクエアバイソンに近づいている最中の俺、クルトンです。
認識阻害で俺の存在は感づかれていないはずなのに、近づいて行くにつれ向こうが警戒しだしました。
どうやら俺ではなく同族のヴェルキーを警戒しているみたい。
デデリさんが言ってた通り群れない獣にとって、他の個体は縄張りに進入する敵と言った感じなんでしょうか。
木々をかき分けお互い目視できる距離まで近づき、そのままぴたりと止まるとじっと見つめ合います。
・・・どうしたら良いか考えているのかな?
「ブモーーー!!」
「ブヒォーーー!」
おおう!突然叫び出した。
普段あんなにおとなしいヴェルキーも雄たけびを上げている。
そして両者走り出し、うお、危ねえ!
急いで背から飛び降り横に転がりながら避難、顔を上げ様子を確認しようとした瞬間に衝突音が鳴り響く。
”ゴン!!!”
相手のスクエアバイソンが吹っ飛ばされた。
体格の差から当然ではあるが、それでも直ぐに起き上がり再びヴェルキーに挑みかかる。
”ゴン!!”
”ゴン!!”
”ゴン!!”
”ゴン!!”
何回お互いの頭を打ち付けただろう。
ヴェルキーもふらついているが相手は既に満身創痍。
立っているのが不思議なくらいだ。
「ブモォォォォーーーーー!!!」
そして止めの一撃とばかりに屈とうして頭を高く上げると、そのまま相手に頭突きを喰らわすヴェルキー。
”グァラゴガキーーン!!!”
おいおい、ド〇ベンの岩鬼の打撃音かよ。
総合格闘技のパウンドよろしくヴェルキーの頭突きを受けた頭はそのまま地面に打ち付けられバウンドした。
そしてそのままノックアウトした様だ。
待て待て待て!!、死んでんじゃないだろうな!
相手の方が心配だがヴェルキーもそれなりのダメージを受けている。
まずはヴェルキーを優先して治癒魔法で速攻回復、その後すぐに相手のスクエアバイソンに駆け寄って同じく治癒魔法を掛ける。
額の所に手を当て魔力を浸透させ状況を確認・・・すげえな、あれだけ喰らって頭蓋骨にヒビすら入っていない、超頑丈。
疲労と脳震盪で倒れただけみたいだ、どんな強度なんだよスクエアバイソンの頭蓋骨、そして首。
多分種族特性として打撃なんかに耐性あるんじゃないかな。
そのまま治療を進め、もう大丈夫だろうと思った途端にパチリと目を開けスックと立ち上がった。
またあの怪獣映画の様なシーンが繰り返されるのかと身構えたが、そうはならずゆっくりヴェルキーに近づいていくと、静かに前脚を追って頭を下げた。
対するヴェルキーはそのままの姿勢で一言「ブホッ」と鳴くと、もと来た道を戻り始める。
おいおい、置いてくなよ~。
慌てて俺がヴェルキーを追いかけようとすると、あのスクエアバイソンも後ろについてきた。
・・・序列を決めていたのか?
今の様子を見るにそう考えた方が自然かな。
じゃあ、捕獲成功との事でキャンプ地に戻ろうか。
「クルトンさん、クルトンさん。こここんなに荒らして良かったんですかね?」
騎士さんが俺を現実に引き戻す。
もう!せっかく見ないふりしてたのに!
2頭のスクエアバイソンが戦った其処は木々がなぎ倒され、地面がめくれてエライ事になっている。
広さはそんなでも無いからこの広大な森からすると・・・問題ないと思います!
なので早くキャンプ地に戻りましょう。
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「俺も上から見てたが、なかなかのものだったな」
どうやらデデリさんは上空から、ヴェルキー達の決闘を一部始終見ていたようです。
かなりの迫力でしたからね。
俺もちょっと慌てました。
因みにヴェルキーから負けた個体は今は大人しく飼葉をモシャッている。
こちらも青草がとても気に行ったようだ。
「あれはお互いの序列を決めていたのだろうな、その証拠に負けた方が大人しく付いて来ている」
やっぱりデデリさんもそう思います?
・・・って事はですよ、序列を決める本能があるのであれば、もしかしたら群れを作らないってのは間違いで、あの森の一角が8~9頭の群れのテリトリーなのかもしれないですね。
かなり広い縄張りですけど。
そこによそ者のヴェルキーが入って来たのであの儀式が始まったと、そんな感じじゃないですか。
「なるほど、そうすると今回の縄張りの外でスクエアバイソンを新たに見つければ、その周りに数頭いるって事か。・・・明日もうちょっと奥まで確認してこようか」
そうですね、お願いできますか。
「分かった、しかし探索初日で1頭捕獲とはな。このままのペースで捕獲を続ければ厩舎の建設が間に合わんな、自重しなければ」
まあ、今日はたまたまなのかもしれませんよ、ヴェルキーも頑張ってくれましたから上手くいったようなもんですし。
「まあ、あまり期待しすぎてもいかんか。よし、明日の為に今日は早めに寝るとしよう」
晩御飯を済ませると、俺のハウジングのお陰もあってデデリさん含め騎士団の面々は無防備に就寝した。
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「・・・お前の『マップ』だったか、索敵と併用すると恐ろしいな」
デデリさんか目の前の成果を見てそう呟きます。
最初の個体を捕獲してさらに2日、目の前にはヴェルキーを除いた合計4頭のスクエアバイソンが飼葉をモシャッている。
接敵する度に序列決定の儀式が始まり、連戦連勝のヴェルキーのお陰でこの数を捕獲できた。
「お前の治癒魔法が有ってこそだがな、でなければさすがのヴェルキーも今頃つぶれている」
それもあるでしょうが広いテリトリーを単独行動するスクエアバイソンなのに、わざわざここに集まっているのは瑞々しい飼葉が有ったからこそですよ。
もう、皆が皆この青草にご執心で俺達から離れようとしない。
馬の放牧地で栽培されている飼葉専用の青草は、人手がかかっている分雑草の様な不純物が少ない。
それがスクエアバイソンのお気に召したのだろうか、青草に向かってまっしぐらである。
「それじゃあ、悪いが4頭分の足輪と鼻輪を頼む。本当にスマンがこればっかりはお前に頼むしかないのでな」
ええ、仕事ですから問題ありません。
材料もある程度形成済みの状態で持ち込んでいますから、さほど時間もかからないでしょう。
明日の昼までには何とかします。
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