第306話 無事に到着

丁度5日目の夕方、コルネンに到着した。

商隊とは都市の入口で別れ、スクエアバイソンの厩舎の方に向かっている俺、クルトンです。



そこは仮ではあるがテヒニカさん一家が暫く厄介になる住まいがある所。

俺もこの時間から下宿先に向かっても色々迷惑になると思うので厩舎の事務所で一泊するつもりだ。


「うわぁ!おっきな牛さん!」

「牛さん~」


丘の上からまだ顔を出している夕日に照らされ、長くなった影の大きさも相まって厩舎に向かって歩いているスクエアバイソンの隊列、その姿は壮観だ。




スクエアバイソンとほぼ同時に厩舎に着くと先頭に居たヴェルキーが寄って来る。

「グムォ、グムォ、グムォ」

馬車を停めて御者席から降り、じゃれてくるベルキーの鼻先を撫でで居るとテホアとイニマも寄って来た。


「でっけぇ!!」

「でっけぇ~」


物怖じしないこの性格は大したもんだな。


「あまり近づくと危ないよ」と注意し一定の間隔をあける様に告げてから、上に向かって櫓に乗る騎士さんに声を掛ける。


調子はどうですか?


「おかえりなさい、インビジブルウルフ卿!

絶好調ですよ。やはり目線が高いと違いますね、索敵もより広範囲まで広げられます」


そりゃ良かった。


俺が拵えた櫓の上には3人の騎士さんが乗っている、索敵係りが2名と護衛をこなす生粋の戦闘職が1名。

シフトを組んで交代で巡回、警邏業務を行っていてなんだかもう新しい部隊の様だな。



「はは、そうなんですよ」

櫓から縄梯子を使って降りてきた騎士さんが話してくる。


「今は5頭のスクエアバイソンはそれぞれ3日働いて2日休ませるシフトで回してるんですけど既に駐屯騎士団とは別行動、独立部隊として活動しています」


「この前も兎型の魔獣を仕留めたんですよ」ともう一人櫓から降りてきた騎士さんが続けて説明してくれる。



成果も上がっている様だ。



そんな事を教えてもらっていると厩務員さんが寄って来て「お帰り、クルトンさん。話は聞いてるよ、皆の住まいはこっち」と厩舎事務所に併設されている新築の建屋に案内してくれた。



おお、ここがテヒニカさん一家の仮住まい、作りもしっかりしていて結構大きい。


「ほ、本当にここなのでしょうか?」

テヒニカさんがおどおどしながら聞いてくる。


案内してくれた厩務員さんは「ええ、ここですよ。間取りも含めて説明しますね」と改めて肯定してズンズン中に入っていった。


さあ、入りましょう。

ここで間違いない様ですから。



宿舎の説明も終わり厩務員さんは元の事務所に戻って行って我々は新品の絨毯、家具で囲まれているリビングでお茶を飲んでいる。


「仮住まいとしても本当に良いのでしょうか?その、家賃とか・・・」


大丈夫ですよ、家賃が有っても支払うのは俺ですから心配しないでください。



正直ここまでしっかりした物を用意してくれているとは思わなかった。

部屋数もちょっとしたアパート並みにある。


でも、よくよく考えれば俺たちが開拓村に行くのに合わせて”使用人”としてあのお貴族様達がやって来るわけだ。

しかもあの時の実行犯(未遂ではあるが)は7人だったが、その後の調査で新たに協力者が摘発され合計11人になったらしい。


いや、本当に勘弁してほしいのよね。

俺が給金払って雇わないといけないんでしょう?


なので彼らには俺の事業を運営してもらって自分の食い扶持分は稼いでもらう。

俺が持っている特許に関連するライセンス料の管理、宝飾品を始めとした成果物の販売の窓口業務なんかを。




テヒニカさんには後詰でやって来るお貴族様の都合に合わせて建てたのだから気にしないで良いと改めて説明して、とりあえず諸々の荷物の整理なんかを優先して仕事は一週間後からと伝える。

暫くはここで厩務員の仕事をしてもらう。


テホアとイニマは騎士団の修練場で訓練。

此方はそうだな・・・明後日からにしましょうか。

当日俺が迎えに来ますよ。



そしてテヒニカさんの仮住まいを出て厩舎事務所に向かう。

ここは仮眠室というには少々場違いなくらい立派な部屋が予備も含め何部屋か有る。


住み込みで仕事をしている厩務員さんの部屋とは別にだ。


其処の一室を借りて今日は休ませてもらう。

明日下宿先、アイザック伯父さんの所に帰ろう。



翌朝、俺が作ったスクエアバイソンのドックは結構な広さが有るので馬車をそこに保管させてもらう。

以前作った俺専用の箱馬車も保管していて、その隣に今回新たに作った幌馬車を並べて眺めていると「馬車2台も持ってる俺って凄いんじゃね?」と思ってしまう。


スレイプニルとセットでだが前世で言えば超高級車1台と足代わりの普通車1台を一人で所有している様なもんだもんな。


超高級車に例えた馬車も本当の性能からすれば軍用車両である装甲車みたいなもんだし。


・・・今更だけどお金持ちになった実感が急に湧いてきた。

そう言えば銀行の口座に有る程度お金が貯まってからは、妹たちの結婚資金を確保したうえで、各資材や税金の支払いでマイナスにならない事だけを気にしていた。


なので今度ちゃんと残高照会しよう。


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