第361話 それで事が終息する訳でもなく
あれから治療を続け、待機班が準備した食事をとった後に即就寝。
そして翌朝、今日はまだ何もやっていないのに既に充実した一日を過ごした気分で起床した俺、クルトンです。
いやーぐっすり寝た、討伐完了して気が緩んだみたいだ。
そんで今日は訓練の後始末である。
そうは言ってもテントの撤収と魔獣の解体位なものだ。
解体については討伐後すぐに待機班が行っていたから残っているのは5頭も無い。
この他に本来なら大仕事となるはずだった魔獣の巣を完全に潰す作業、一度掘り返して埋め直す事を予定していたのだが事情が変わった。
領主様が研究の為に学者連中を呼んで調査を行いたいと言い出したからだ。
「完全に討伐されたんだろう?なら今後の為にも調査した方が良いと思ってね。
ここからもたらされる結果が魔獣の生態を解き明かす切っ掛けになるかもしれないんだ」
今まで研究、調査は主に討伐された魔獣の亡骸、それ以外はまとまった額の予算と人員、時間を消費して行う遠見の魔法、そこからもたらされる観察記録からの検証位だった。
そして今回は初めて発見された魔獣の『巣』が目の前にある。
学者連中にとっては格好の研究対象になるだろうとの事。
「こっちが何も言わなくても彼方でどんどん進めてくれるだろうね、予算オーバーにならない様に手綱は持っておかないといけないけど」
こんな話でも領主様はご機嫌である。
それもそのはず、交易都市コルネン史上最悪の事態、都市の放棄まで考えていた危機的状況が数日で犠牲者無く終了したから。
「それだけじゃない、今回の討伐戦で私の能力もはっきりわかるほどに上がった、ほらほら」
領主様はその場でピョンピョン跳ね回るが元がどうだか知らない俺は「はあ・・・」としか言えなかった。
デデリさんは「良かったではないか」と笑い、セリシャール君も「良かったですね、父上」とホッコリしている。
どうやらもともと身体能力の低い人ほど上昇した力の差分を強く感じる事が出来たみたい。
つまり若手の騎士たちの能力の向上、本来の目的の一つは果たせた様である。
「さて、これからも忙しいぞ。
戦地がこれだけ都市に近い事も有って陛下への伝令が到着する前に此方の独断で事を起こしたんだ、報告書作成から王都から来るであろう騎士団への報告、討伐した魔獣の見分に恐らく現場検証も行うだろう。
時間だけで言えばこっちの方が掛かるだろうな」
デデリさんが俺に言ってくる。
そうでしょうねぇ、俺も立ち会わないといけませんかねぇ?
そう問うと、眉を下げ困った様にデデリさんが「諦めろ」と一言。
「それに魔獣殺しの英雄の功績がまた一つ増えるんだ、近いうちに陛下との謁見を兼ねた式典も開かれるだろう。
お前の事だ、そうは思っていないんだろうが本来とても名誉な事だ、だから意に沿わない事でも陛下のお言葉にはすべて肯定するように。
国からの誠意なのだから、決して悪い事にはならん」
ええ、その位の礼儀は弁えていますよ。
今までは面倒くさかっただけでこれでも空気読むのは得意なんです。
「本当か?」
デデリさんが驚いた顔をしている。
どう見えてたのよ俺。
「まあ冗談はさておき、さっきの話では無いがこれから学者連中がここに押し寄せてくるだろう。
ここで調査された内容はさらに多くの学者、有識者で検証され、その成果は今後の魔獣探索に活用されていく」
そうだと良いのですが・・・間に合いますかね?
ここと同じ状況の地域が有ったとしても不思議じゃないと思うんですけど?
こんな状況を目の当たりにした今なら同時多発的に同じことが発生しても驚きませんよ。
「ああ、俺もそう思う。
でだ、その事を陛下にも問われるだろう、何か良い対処方法は無いか?最悪住民の避難の為の時間稼ぎができるだけでもいい。
俺やお前が無作為に国中を飛び回る訳にもいかないが事態は一刻を争う、出来れば今にでも事に当たりたい」
・・・巣を探す事は出来ませんが、魔獣が密集している場所は見つけ出せるかもしれません。
「本当か?
それが出来れば最悪の事態は回避できる、ぜひ頼みたい」
じゃあ、一度試してみましょう。
初めてですのでうまくいかなくても勘弁してくださいね。
・
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ゴロリと地面に大の字になって寝転がる、その状態で瞼を閉じマップの機能を起動させ、視点を上へ上へと移動させる。
以前見せてもらったタリシニセリアンの地図、それに記されている国境を意識してその範囲内の索敵を開始する。
対象は魔獣。
西の方からコピー機が原稿をスキャンする様に、北南に走る一本の光の線がゆっくり東に移動していくとそれが通過したところに赤くマーキングされた点が現われた。
予想はしていたが現実世界とリンクしているマップ、それは元のデーターを俺の脳内へ再構築した疑似情報であるとは言え、マップの上から索敵を国中に広げる事で魔力がゴリゴリ削られていく。
ハウジングを行使する時以外で魔力の上限を意識する事になるとはね。
以前のことも有るので閉じた瞼を上げ、自分の掌を見つめながら、意識と存在が無くなってしまわないか確認しながら消費魔力を調整し、ようやく索敵(スキャン)が完了した。
体を起こし脇に置いていたバッグの中から大きめの羊皮紙、ペンとインク壺を取り出すと、今確認した索敵の結果を書き出しデデリさんに渡す。
「・・・可能性が有る場所は1箇所か。
予想が当たって不運だったのか、1箇所だけで済んで幸運だったのか・・・」
今回は幸運だったと思う事にしましょう。
ザックリの索敵ですから今のところ可能性止まりです、魔力が回復したらこの地点をピンポイントで再度索敵します。
けど幅は有りますが描いた通りこの場所に15~40頭の魔獣の群れが居る様です。
俺は行った事無い場所ですけど何処なんですか、そこ?
騎士団が常駐している場所なのでしょうか。
「ここは・・・グレンツ辺境伯領、先々代当主は俺の武芸の師匠だった。
若い頃はここで修行したことも有る」
ほう、デデリさんとは浅からぬ縁がある様だ。なら今回の話も早く通りそうですね。
「そうだな、不幸中の幸いと言ったところか。
しかも辺境伯の騎士団は精鋭クラスの御仁が多くいる部隊だ、こんなところも幸運だったな」
ふう、まずは大惨事にはならないという事で良いんですよね。
それを聞いて安心した俺は、もう一度地面に寝転がり瞼を閉じた。
ああ、ようやくこれでオペレーション『
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