第209話 本格始動

あれから2週間経過しました。

櫓とそれをスクエアバイソンに組み付けるための施設、船で言うドックを一緒に設計した俺、クルトンです。




少しばかり俺がコルネンに到着してからの事を話そう。

デデリさん達騎乗動物捕獲隊は俺の後、ピッタリ10日後に帰還した。


関所で出迎えたその時の皆は満面の笑みだったが、装備はボロボロ、鎧の他に何人かはメイン武器が壊れてしまっている様な状態だった。


ポポは全くの無傷だがデデリさんも他の騎士さんと同じように装備が酷い事なってる。


しかも重傷者はいなかったものの腕を骨折している人が2名、足を骨折している人が1名。

俺はその話を聞いて慌てて治療した。



こんな状態でも皆笑っていたのは、ヴェルキーが諸々の怪我人も含めほゞ全ての荷物の運搬を担ってくれた為に帰還の復路はさほど辛くも無かったからだそうだ。



そして何より前世の白頭鷲の様な漆黒の体躯に雪の様な白い頭部、警戒色ど真ん中の黄色い嘴の立派なグリフォンを捕獲してきたから。



「クルトン、俺たちは後でいい。こいつを先に治療してくれ」

デデリさんから言われてグリフォンをよく見ると羽の角度がおかしい。

そう言えば翼が有るのに地上を走って付いて来ていたな。


飛べない程の怪我を負わせなければ捕獲できなかったって事か。

大変だったんだな。



指示された通り俺はグリフォンに近寄り治療を行う。

こっぴどくやられたんだろう、俺が近づくとビクッと体を震わせ怯えている。

ヨシヨシ、大丈夫。



こりゃポポに負けないくらい立派な体躯だな。

今は怪我のせいか息が荒く情けない感じにションボリしているが大丈夫、ちゃんと今まで通り空を飛べるようにしてやる。


いつも通り魔力をグリフォンに馴染ませて症状を確認治療を開始する。

ああ、切れていないが翼を動かす筋肉に繋がる腱が伸びてる、地味に痛いんだよなこういった怪我は。

その他の状況も確認し1分もしないで治療が終わる。


「相変わらずだな、素晴らしい治癒魔法だ」

有難う御座います。

これで完治しましたよ、問題なく空を飛べるはずです。


「分かった、じゃあ早速調教してこよう」

止めてください、幾らなんでも直ぐはキツイですよ。

治療したばっかりですし、何より怯えています。


捕獲時の戦闘は命がけだったのでしょうから仕方なかったにしても、これからはもっと優しく接してあげてください。

この子は雌なんですよ。


「「「「!!」」」」


「雌とな?」

ええ、生息しているグリフォンの雌雄の比率は知りませんが、繁殖の為にはメスは幾らでも欲しい。

厩舎でお姫様待遇でもいい位でしょうよ。



「おお、おお、おおおお。それなら・・・そうだな。もっと優しくせねばな」


「スマンなぁ、これからは気を使ってやるからなぁ」そう言ってデデリさんがグリフォンの前脚付け根辺りを優しく撫でていますがグリフォンが目を合わせません。


身体もこわばっている、うん、間違いなく怯えている。

どんだけやりあったんだ。


当初の目的の通りフォネルさんに預けた方が良いと思う、出来るだけ早く。






こうして比較的無事な騎士さんが馬で騎士団事務所まで伝令に走り、フォネルさんを連れてくると早速グリフォンと顔合わせを行う。


フォネルさんは特別な感情を持って近づいた訳ではない様だったが、グリフォンの方が直感で理解したんだろう。

ポポが俺を避けてデデリさんの庇護を求めた時と同じ様に、スッとフォネルさんの側に移動してぴったりくっついて離れない。


完全アウェイで唯一の味方を見つけた様な仕草、やっぱりこの世界の獣は頭が良いな。


・・・でも、そうなら俺に懐いても良いんじゃね?

俺、治療もしたんだけど。



そんな事もあり捕獲したグリフォンをフォネルさんが調教している。


名前も『クウネル』と名付けたそうだ。

因みに意味があるそうで、また太古の大災害にあやかったものかと恐る恐る聞くと「古代語で『至福の一時』って意味だよ」と教えてくれた。


うん、ホッコリする。


フォネルさんと相性が良かったんだろう、すこぶる順調に調教は進んでいるそうだ。

当然と言って良いのか、クウネルの馬具も製作してくれと俺に注文が来ている。


毎度ありっ!





そして今、鞍なしでフォネルさんがクウネルに跨り、調教がてらスクエアバイソンの厩舎まで来ている。


「やけに大きな施設だね、厩舎?なのかな」


船で言うドックです、実際はそこまで大掛かりなもんじゃないんですけど。

スクエアバイソンに櫓を乗せるとなると4m位持ち上げないといけない訳でしょう?


人力だと無理が有るんで重量物を吊り上げられる設備を完備した建屋を建設しています。


前世で言う所のホイストクレーン、金属製のレールを使って建屋内を東西南北で移動できるタイプ。



幸い俺にはハウジングの技能が有りますんでここ一帯を俺の支配下に置いて資材を持ち込めばサクッと完成です。


ホイストそのものは事前に鍛冶、宝飾、魔法付与のクラフトスキルをぶん回して作っておいた。


ドッグも設計図を引いて1/20スケール模型で事前にシュミレーション、確認済み。


なので製作途中でトラブルが発生する事も無く作業開始から60分ほどで高さ8m程の屋根付きドックが完成した。

イメージとして一番近いのは壁の無い学校の体育館。

その天井にはホイストクレーンが2基設置されている。



「見事なものだねぇー、でもまた忙しくなるねぇ」

やっぱりそう思います?


「吊り上げる装置は今までもあったけど・・・ここまで画期的だとね。

ポンデ石切り場でこのアイディアを披露しなくて良かったね、暫く帰ってこれなかったと思うよ」



ああ、そうですよね。

一応設計図引いてあるんで鍛冶ギルドにでも話してみますか。

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