第44話 振るわれる爪
この言葉を使う事になろうとは・・・
感無量の俺、クルトンです。
一発で決めるつもりはないと言ったな、あれは嘘だ。
大剣を構えたペンちゃんに向かい、いつもの認識阻害から一気に間合いを詰め背後に回る。
しっかりと腰を沈めペンちゃんの腰に手を回しがっちりホールド。
そこから本のページをめくるかの様なジャーマンスープレックス。
初めて体験しただろう投げ技特有の一瞬の浮遊感から後頭部への打撃。
ただしその後頭部を打つのはこの大地。
凡そ200cmの体格だから実現するこの高さから、加速度を上乗せした垂直落下は無情にもペンちゃんの意識を刈り取った。
俺がゆっくり立ち上がり、まだ残身を解かずにいると地鳴りのような音が響く。
「「「「「ウオォォォォーーーー!!」」」」」
(ビクッ)なに?!
そういやあった、前にもこんな事。
「見たか?いや、見えなかったよな!」
「なんで将軍のケツが空向いてんだ!」
「見ろ!地面に足跡も残っちゃいない!」
「インビジブルウルフの爪が振るわれた!」
フンボルト将軍の周りに団員さんが駆け寄り、ハイテンションで今の試合を考察しだした。
あ、なんか黒板持ち出してディスカッションが始まってる。
気絶しているフンボルト将軍ガン無視で。
・・・そろそろ部屋に戻ろう。
戻ってきました待機部屋。
さっきから俺に付き添っているメイドさんと一緒に。
フム、まだ結論は出ていないみたいです。
そうですか・・・どうしましょうかねえ。
「何かいい案は無いものかのう・・・」
陛下も含めた3人は既にお疲れのご様子。
・・・手間が尋常ではないし、オーバースペックなので黙ってましたが、この3人を見ていると良心が痛むので俺から提案します。
『腕時計』にしましょう。
・
・
・
・
・
「なぜそれを早く言わぬ、時間が無駄だったでは無いか。時計だけに」
「まあまあ、陛下。話しは聞いたでしょう、かかる労力が尋常ではないのです。しかも塔の大きさのあの時計を腕輪にすると言うではありませぬか。お披露目の仕方を間違えれば8千年ぶりに人同士の戦争が起きてしまうかもしれないのですよ」
はい、宰相さんの言う通りです。
前世でも工業製品でありながら宝飾品の最高峰の一つとしてコレクターを魅了する腕時計。
機械式の時計はこの世界では一人1個どころか一家に1台もありません。
ここでは『建造物』の域から脱していないのです、時計は。
前世の冷蔵庫程度の大きさの物はこの国に数台あるそうですがもう動いていません。
いつ制作されたのか不明で、今ある塔に設置されてる時計はこれの劣化コピーだそうな。
コピーするだけで塔位の大きさになってしまったのは小さいと部品の精度を出せなかったかららしい。
そして、そもそも時間を正確に知る必要のある人が少なく、無くても大体の人が困らないからあまり時計部品に対し微細な加工技術を磨いてこなかった。
それを一足飛びに腕時計にまで到達してしまうのは色々問題が有ると薄々俺も感じていたので黙っていたのです。
「しかしのう・・・まだ隠している事あるんじゃろ?」
ノーコメントで。
「まあ、良い。製作するのは腕時計、付与する機能は優先順に出来るだけ多くで頼む」
このタイミングで言うのも何なんですが、割と無茶な話だと思ったんですが信じてもらえるんですか、俺が腕時計作れること?
「あの銘を見れば納得もしようて」
早速役に立ちました、クルトン銘のホログラム魔法陣。
有難う御座います、では腕時計製作の仕事確かに承りました。
で、ご予算はいかほどで。
「大金貨500枚じゃな」
おおぅ・・・
「ん、少ないか、そうじゃな700枚位までなら今渡せるぞ、持ってこさせよう」
俺にずっと着いてたメイドさんが軽く会釈すると部屋から出ていこうとします。
いやいやいやいや、大金貨500枚で十分なものを仕上げます。
大丈夫です。
「そうか?決して手を抜いてくれるなよ。信頼しておる、期待を裏切らないでくれ」
大丈夫です。ええ、問題ありません。
日本円で1億円ですかぁ・・・気合い入れないと。
そこから材料費、製作完了までの経費という事で大金貨100枚を手付金として頂戴する。
領収書を切って・・・と。
十分な報酬を頂けるのだ、姫様の為にも全力で仕事を全うする。
納期まで8か月の猶予が有るとの事、長いようだが材料の調達からだから実際さほど余裕はない。
直ぐにコルネンに戻り作業にかかりたいが王都でしかできない事を済ませてしまおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます