第31話 良心の呵責とは
今、この瞬間きっとドヤ顔でウザがられている事でしょう。
そんな俺、クルトンです。
このホログラム魔法陣の銘は今のところ誰にも真似できないでしょう。
一番手間のかかった作業がこれですから自信があります。
「このカラクリいや魔法陣か、これを見せたら貴族どもが挙って自分の銘を彫ってくれって押しかけるぞ」
どういうことです?
「制作者とは別に所有者の銘も入れに来るって事だよ。鎧とか剣とか馬車とか・・・独占欲の強い奴なんか自分のカミさんに入れ墨で刻印入れろって言ってきてもおかしくねえ、自分のもんだって証明する為にな。本当にこの作品お披露目するのか?」
・・・親方なんとかしてくれません?
「無理だ、ここまでされたら俺の力じゃどうにもならん」
そうですか・・・ではこのままお披露目します。
「え、いいの?良心の呵責とか無いの?」
親方きょとんとしています。
別に悪いことしてるわけじゃありませんし、俺の作業量にも物理的限界ありますから、どうしてもってときは事情を話して断ります。
とりあえず妹たちの結婚資金が最優先ですから目標達成してから後の事は考えます。
「おおう、妙に割り切りがいいな。まあ分かった、それならお披露目は任せろ」
これで本日の仕事は終了し帰路につきました。
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「おう、お帰り」
叔父さん、ただいまです。
「どうだった作品の評価は」
ええ、思いのほか微妙に最高評価でしたよ。
「良く分からんがおめでとう」
そして事の詳細を叔父さんにも伝えます。
「あいつも大変だな」って親方に同情していました。
解せぬ。
とりあえず貴族様の評価が定着するまでの間、暫くは精錬作業が中心になると思います。
作品制作はそれが一段落してからですね。
捕らぬ狸の皮算用にならなければいいんですが、今のうちに材料の備蓄を整えたいので。
別にステンレスに拘るつもりはないんですがクスミもせずに見事に光沢出るし銀より安価なので潤沢な予算の無い貴族様にも普及させたいと思いましてね。
「ん?新素材とか言ってなかったか。なら安くはできんだろう」
そうなんですけど材料は金銀銅より安くて入手しやすいみたいですし、やろうと思えば一般鍛冶職人でも合金製作は可能です。
手間に見合った価格で販売できるかのせめぎ合いがしばらく続くでしょうが、錆びにくい金属ってのはとても需要が有りますし。
供給量が増えれば価格が下がるのは必然です。
まあ、その成分配合なんかの制作ノウハウを特許として親方が申請している最中ですから、特許料次第でどこでも情報入手できるようになるでしょう。
そうなれば普及するのはさほど時間かからないと思います。
そもそも俺の指輪が高額になる理由は魔法陣に有る訳で。
こんなの造れるスゲー宝飾職人の作品ですって魔法陣刻印していないフツーの物をそれなりの価格で売ってもいいわけです。
銘は刻印しますけど。
「・・・話し聞いただけだが、その銘だけでべらぼうな価値になりそうだけどな」
そうかもしれませんが、これは先行投資みたいなもんです。
この銘が有るだけで俺の作品への付加価値が上がるのならば長い目で見てプラスでしかありません。
「んん、普通なら俺もその考えに同意するんだがな」
その後3週間ほど材料の精錬作業を続け、そろそろ在庫過多になるな、ちょっとペース落とすかと思っていた頃、工房のお弟子さんが下宿先にやってきた。
その日は水曜日で工房休みなのだけど、それにもかかわらずやってきたって事はそれなりの事が起きたんだと、のんきな俺でも推察できる。
貴族様からの呼び出しでもあったんだろうな。
指輪の件で。
二階の俺の部屋から店先まで下りてお弟子さんと対面。
ん?隊長のデデリさんと副隊長のおっちゃんことフォネルさんもいます。
ここに駐屯している騎士団の大隊トップ1、2がお弟子さんの両脇に立っています。
君、なんか悪い事したの?
ブンブンともげるんじゃないかって位にお弟子さんは首を振って否定し、俺に何か渡してきます。
「こ、こ、こ、こ、これをお持ちしましたでご、ございますゥゥゥ・・・・」
・・・封蝋された羊皮紙を二つ手渡されました。
羊皮紙受け取った瞬間お弟子さんがへたり込みました。
デデリさんが以前の粗野なそぶりは微塵も見せずこう告げる。
「ユニコーンと乙女の封蝋印は領主であらせられるカンダル侯爵様、百合とグリフォンの封蝋印は国の象徴であらせられる国王陛下からの親書になります」
カウンターで様子を伺っていた叔父さんが「ヒッ!」って驚いてる。
そんな声も出せるんですね。
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