第32話 もう少し余裕が欲しい
ちょっとテンパってる叔父さんを眺めていると、おめえの事だぞって顔で睨まれました、俺クルトンです。
ちょっと事態が呑み込めません。
そもそも「親書」を平民に出す国家元首、貴族様がいた事が驚きです、これそのものが作法に倣ってないんじゃないですかね?
「?」って感じでいると副隊長のフォネルさんが話しだします。
「内容は我々も知らされておりません、確認をお願い致します」
なんか他人行儀で違和感ありますが仕事として仕方ないんだろうな。
急かされているようでもありますし封蝋を解いてみます。
「あっ!」
?何でしょう
「一応公文書ですのでしかるべき場所で、作法に則って・・・」
そうなんですね、失礼しました。
でもそんな事平民の俺知りませんよ、平民宛で親書出すなよ、本当に。
「奥の部屋使っていいぞ」
叔父さんから了承もらいました。
早速向かいます、お弟子さんも含め4人で。
お弟子さん瞳に光が有りません。
もうちょっと付き合ってくださいね。
バタン
扉を閉め副隊長に顔を向けます。
途端に今までの緊張感が緩みます。
「いやー申し訳ない、俺たちも良く状況を把握していないんだよ。いきなりだったもんでね」と、フォネルさん。
どうやら昨日の午後、国王陛下と侯爵様からそれぞれ同時に工房へ使者が来たそうです。その使者、名代の人が俺に持ってくる予定だったのを親方と警備で同行していたデデリさん、フォネルさんが押し止めたとの事。
なんでも国王陛下、侯爵様の名代ってのが権力を鼻にかける様な仕草をする人たち(テデリさん談)だったので面倒事になると不味いと判断したとか。
この辺の判断はさすがですね。
やんごとなき方との面倒事はできるだけ巻き込まれたくないので。
プライドの高い名代二人を(デデリさんが物理で)丸め込み、親方たちと適任者を選定、選ばれたのがこのお弟子さん。
大変お疲れ様です。
ラスク食べます、どうぞ美味しいですよ。
テーブルに今朝作ったラスクを置いてミルクを飲みながら話を続けます。
「まずは内容確認してもらえるかな」
そう言ってフォネルさんはペーパーナイフみたいなのを取り出し封の開け方等々こういった時の作法を俺にレクチャーしながらやっと羊皮紙を開きました。
まずは国王陛下から。
・・・断れませんか?コレ。
内容を要約すると「王都に来て顔出せや」って書いてあります。
他に何をしろとも書いてありません。
封蝋開ける作法も知らなかった俺にはハードル高すぎます。
テデリさん、フォネルさんにも見せると「「ああ」」と声を上げました。
なんか「またか」って感じに聞こえましたけど?
「ああ、そう言った」
とデデリさん。
一旦この事は保留、とりあえず侯爵様の方も見てみます。
・・・国王陛下指示通りに動けって内容と指輪はまだ流通させるなって事書いてます。
あのサンプル、法律に抵触するところ有ったのかな。
いや、無いよね。
有ったら親書の前にお縄になっているだろうし。
そもそも親方がOKしなかったろうし。
うーん・・・確かここから王都までは馬車で1週間だったはず。
往復するだけで2週間、当然向こうに滞在する期間もありますしどんなに少なく見積もっても3週間は不在になります。
宝飾関連ではまだ収入ありませんが、揚げパン販売と騎士団コロッセオ内での按摩施術の代金でようやく叔父さんに食費を入れられる様になったのに、そしてまだ妹たちの結婚資金の積立貯金できていないこの状況での凡そ1か月弱の期間、無収入はキツイ。
多分そのうちに取り返せるだろうけどそれは俺の作品である宝飾品が流通されてからの事、現状この金銭的プレッシャーはキツイ。
行く必要性は理解してるけどもう少し余裕が欲しい。
「分からんでもないが諦めろ、気を使って書いてあるが実質これは王命だ。断ると不敬罪がどうだと騒ぎ出す輩が出てくる、そっちの方が面倒くさいぞ」
多分デデリさんの言ってる事は事実なんでしょう。
ままならないものですね。
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