第235話 子供第一主義
引き続き技能研究専門家のイエレンさんとパジェの件で協議している俺、クルトンです。
「いずれにせよ新しい技能の認定には時間が掛かります。
検証を積み重ねたうえで私共が論文を作成し、国へ提出。
その内容が評価されて初めて登録となり正式に『技能』として認定されます」
ん?
おかしい、俺の技能についてそんな事はしなかったけど。
「何にでも例外が有ります。
まず技能を持っているのが貴族の子女であれば国へ報告はされどもまずは秘匿され、検証結果が出るまで情報が公表されることはありません。
更に個人特有の技能であれば検証その物に時間が掛かるうえに、一般に技能の内容が公開されるのは2例目が見つかった後か、その方が亡くなった後と言うのが一般的です・・凡そ発見されてから100年後に公開と言った事も珍しくありません」
ほー、それで?
「インビジブルウルフ卿の場合は、異例と言いますか特例と言いますか・・・。
私が知り得る情報が全てでは無いでしょうから仮定の話も踏まえて話をしますが、まずそれ程の数の技能をお持ちの方は公式の記録ではいらっしゃいません。
来訪者を除いてですが」
「しかもご自身で既に技能の正しい在り様を理解して、特性を熟知しているとか。
通常ならばはあり得ない事で御座います」
なぜに?
「未熟な状態で技能を発動させるのは危険なので御座います。
端的に申し上げて寿命が縮みます」
あ、陛下もそんな事を言ってたな。
「通常は私共の様な専門家が側に付いた状態での検証を繰り返し、記録を取っていきますが・・・インビジブルウルフ卿はその工程を飛ばして、身内、お知り合いの方に公表されていたのでしょう?効果の内容も正確に」
まあ、そうですね。
自分からワザワザ伝える事は無かったですけど、仕事や生活上なんとなく認知されたって感じでしょうか。
「公表されてしまうともう後追いで秘匿する事は無理ですからね。
関係者を全て滅する事も出来ません、
こういった経緯でインビジブルウルフ卿の場合は特例で我々が関与する事を認められなかったのだと思います、私見ですけども」
なるほど、説得力があります。
で、本当の所はどうなのですか?
「黙秘します」
俺からの話をふると、そう応えるソフィー様。
「それでですね!今まで私共はインビジブルウルフ卿への接触を禁じられてたのですよ、諸々の事情で。
いや、こんなに早くお声がけ頂くとは思いもしませんでした!!」
段々テンション上がっていくイエレンさん。
「今度ぜひ、お持ちの技能を検証させては頂けませんか?どうでしょう?どうでしょう?」
何かグイグイ来るな、変なスイッチ押しちまったか?
「これイエレン、今はその話ではありませんよ。
パジェの件ですが検証作業は早めに取り掛からねばならないでしょうね、この事は私から直接陛下に報告します。
イエレン、加護持ち且つ技能持ちは今回が初めてでしょう。
検証の際には必ずクルトンも同席するように、これは元老院からの命令です。
もしもの時には必ずクルトンの力が必要になります」
「「承知致しました」」
「あの子は4歳の幼子です、まだまだ親が恋しい頃でしょう。
貴方たちは良い大人なのですから、その辺は十分慮って接するように」
仰る通りで御座いますですよ。
話しを聞くにこういった『人』への検証作業の際には、治癒魔法師が研究者とセットになって事に当たる事が常識だそうな。
特に今回は『来訪者の加護』持ちで初の技能持ちが認定されるかもしれないと、検証作業に万全を期す為にも俺の治癒魔法を当てにしたらしい。
うん、頑張っちゃうよ俺。
「イエスッ!イエスッ!イエスッ!」と、イエレンさんも俺の脇でかなり気合いが入っている。
テンションの圧抜きバルブどこ行った。
「こんな仕事一生に一度あるか無いか!必ず成功させる、息子達に『お父さん凄い!』って言ってもらうんだ、頑張れ、頑張るんだ私!!」
まだまだ下がりそうにない。
家族から受ける尊敬のまなざし、父親なら憧れるよね、分かる。
でも、完全に秘匿されんだよね?この件は。
家族にも口外したらまずいだろうに。
ボソリと呟いた俺の言葉に反応して、「ハッ!」となったイエレンさんが泣きそうな顔でこちらを向いていた。
そんな顔で見ないでください、俺のせいじゃないですよ。
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子供第一主義で話が進んでしまい、思考のリソースをそっちに全振りしてたものだから、落ち着いて後によくよく考えてみると俺の仕事増えてね?
いや、検証作業に協力するのが嫌な訳じゃない、むしろパジェの為に出来る事なら可能な限り俺の力を揮おう。
ただ、先にも言ったようにこのパジェが4歳の幼児だからこそ子供第一主義で事が進んでしまう。
俺たちが完全にパジェのスケジュールに合わせないといけないって事だ。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれているパジェのスケジュールの合間に検証作業をやらないといけない、かなり大変だと思う。
基本的に来訪者の加護持ちの面々は幼少時から聡明な為、勉学や礼儀作法などをかなり早いペースで猛烈に学び出す。
我々よりも短い寿命を有意義に使う為に、その時間を出来るだけ長く確保する為だそうだ。
王族のチェルナー姫もこの例に漏れず幼少期から結構なスパルタ教育を受けてきたらしい。
前世の記憶に感情を引っ張られている俺からしたら「そこまでしなくても良いんじゃない?義務教育も整備されていない国なのに」って思うが、体の自由が効かない彼、彼女らには知識を吸収するその行為自体が生きている実感を得られる重要な事らしく、『辛い』などと言う言葉は出てこないとの事。
本当かなぁ。
幼少でしか体験できない楽しい事を経験していないから、想像できないだけじゃないのかなぁと邪推してしまう。
いずれにせよ補助具としての腕輪が量産され、極々ありきたりな物になった後に加護持ちの人達自身に考えてもらえばいいだろう。
しかし、俺の価値観での当たり前、それはこの世界で受け入れられるのだろうか。
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