第310話 威嚇します

ペンを走らせ設計図を書いている俺、クルトンです。


何かあそこの棚を華やかにしてくれるものは無いものかと少々考えてたら来ちゃったよね、天啓。



そういや今まで全然思いつかなかったな、前世じゃかなりポピュラーだったのに。


設計図とは言ったが今回の場合はイメージを膨らませてイラストを描いていく。

あまりあざといと好みがかっきり分かれそうだし、リアルすぎても不気味の谷に近づいて恐怖を感じてしまう様ではマズイ。




暫くして・・・煮詰まった、どうしようか。

ペンを止め一旦落ち着く。


木材と布を使って雛人形みたいな感じでここの世界観に合わせて作ろうと思ったんだがどうもイメージが定まらない。


ディフォルメされたフォルムのピ〇チューで良ければ木彫りで簡単なんだが作りたいのはそれじゃない。



うーん・・・もうちょっと考えるか。

記憶に有る物だからサラッとできるかと思ったんだけどな、なんでだろうあの表情を彫る、描くのは自信が無い。


人形は顔が命と言うし手を抜けない、妥協できないところだから尚更迷走する。


目の前にある物をそっくりに彫ったりするのは何ら問題無く出来るんだが、スキルに頼らない芸術的な物はやっぱり苦手だな・・・いや、スキルに頼りっきりになっていて今まで磨いてこなかった技能なんだろう。


本腰入れて練習してみるか。



あれから1週間ほど、店の手伝い、シンシアの送り迎えとテホア、イニマの訓練(まだスクエアバイソンの厩舎付近での訓練)を熟しながら工房で人形の表情を練習する為に木材を彫っては描き、彫っては描きを繰り返す。


普通の人の掌より小さいサイズの人形の首が俺の作業台に無数に転がりかなり不気味な状況。


乱雑なのはみっともないと綺麗に並べたら変えってサイコパスな状況になってしまって、第一夫人のルーペさんが部屋に来た時は悲鳴を上げて尻餅をついてた。


「ちょっと何とかして頂戴!心臓に悪いわ」

すみません、なんか納得いく作品できるまでの過程を残しておいた方が良いのかなと思いまして。


「せめて見えない様に隠すとか・・・箱に仕舞うとか」


そうですね、並べて仕舞っておきましょうか、後で確認できるように時系列順にして。

1から順に番号を付けて昆虫標本の様に整理した箱は五つ程になり、拵えた100を超える首をきれいに並べて整理する。


箱はクラフトで秒で出来た。



仕舞ってみて・・・それでも確かに不気味だな、スキンヘッドの人形の首は。

木を彫っただけで着色していないのもあるんだろう、そのお陰で人の質感と全く違うからまだ良いが、仕上げを施した物だったら俺の精神を疑われていたかもな。


「まあな、人形職人でもこんないっぺんに作らんだろうからな」

親方も標本と化した人形の首を覗き込んでそう言ってくる。



「しかしお前でも苦手なもんが有ったんだな。いや、意外だったよ」

写実的な物は問題無いんですけどね、こういった感情がにじみ出る様な芸術的な作品はどうも苦手で。


きっとこれはセンスと言うか才能が無いとダメなんだと思う。


「でもだいぶ様になって来てるじゃねえか。もう少し頑張りな」

ええ、ここまで来たら最後までやり抜きたいですしね。

放り出したくありません。



「・・・でだ、”写実的”な物なら問題無く出来るんだよな?」

ええ、問題ありません。


「等身大の騎士の人形なんてのは作れるか?防犯用に」

たぶんできますけど・・・さっきの話だと人形職人いるんですよね?そっちに頼んだ方が良くないですか。

いつも言ってますけど市場を荒らすのは本意ではないので。


「大丈夫、彼らの作品は美術品、観賞用の人形だから。今回の用途であれば競合はしない」

そうですか・・・なら気分転換に一体作ってみますか。



意外と簡単にできた。


以前ゴーレムを作った経験が有ったからだろう、特に関節部分は一切問題無く拵える事が出来た。

フルプレートメイルを装備した姿な事もあって、更に兜のお陰で顔の表情なんて関係ないから尚更簡単だった。


え?それは人形なのかって、ただ鎧を飾ってるだけなんじゃないかって?


いえいえ、見てくださいよガン〇ラ真っ青のこの関節の動きと可動域の広さ。

指までしっかり動くしポーズを決めたらピタッと関節が固定され、何より二本の足だけで自立する絶妙なバランス。


そしてこれだけの質感でありながら全て木製で中空だから軽いんですよ。

移動も簡単。


ドライカーボンで作る事も考えたけど触れた質感は木製の方がしっくり来たのでこちらにした。


「構想から2日で完成とはすげえな」

まあ、見本が有りましたから。


「お前と同じくらいのガタイで大槌持ってるって事はモデルはデデリ大隊長だろう、威圧感がハンパねえぞ」


両手持ちの大槌を肩に担ぎ胸を張って立つその姿は正に鬼の様だ。

ちっちゃい子供なら泣いちゃうかもね。



因みにここの魔法陣に魔力を通すと・・・、

「ガァァ!・・・」


「ウオ!!なんだ?!」


威嚇します。


動力が付いてるわけではないので音が鳴って体が"ブルリ”と震えるだけですけど何かに紐づけておけば盗賊をビビらすくらいはできるんじゃないでしょうか。


今は外部からの魔力供給がキーになる様に設定してますけど、夜間ショーケースとか窓とかを開けた時に動作するようにもできると思いますよ。


「・・・もうこれ売っちゃえよ」

まさか!これが一般に知られてしまったら防犯の効果激減するから駄目でしょうに。



「いや、衛兵の駐在所に置いとけばそれなりに効果あると思うんだけどよ・・・」

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